オフコース&小田和正「愛を止めないで」その1

オフコースの「愛を止めないで」は、79年1月20日に15枚目のシングルとして発表された曲です。アルバムは同年10月20日に発表された「Three and Two」に収録されました。ちょうどオフコースが2人から5人のバンドになった時の作品です。

愛を止めないで

この曲は「やさしくしないで」という女性のセリフで始まります。

ところで女性が男性に「やさしくしないで」っていう状況ってどんなものなのでしょうか。

「やさしくしないで、私はあなたからやさしくされるに値しない女なのよ」とか「やさしくしないで、もうそれ以上踏み込んでこないで」とか、女性が男性に対してちょっと距離を取りたい状況なのかもしれません。

その次に、「君はあれから新しい別れを恐れている」と続きます。

主人公の男性は「あれから」と明確にある一定の時点を指摘しているのですね。つまり、主人公はこの女性が失恋をして傷ついてしまっている状況を分かっているのです。このことから次の情景が浮かんできます。

主人公はこの女性のことが以前から好きでした。でも、その気持ちを隠し女性の恋愛相談に友達として乗っていたのでしょう。そして、失恋をし心を閉ざしてしまった女性。ここで主人公は、この女性をその苦境から救い出すのは自分しかいないという心境になったのでしょう。

そこで女性の心の扉をたたき続ける主人公。女性も主人公の自分に対する気持ちは嬉しいけど、「あなたも知ってるように私は酷い失恋をしたばかりなのよ」という思いもあり、その結果が冒頭の「やさしくしないで」のセリフにつながるというわけです。

「やさしくしないで、私はあなたから想われる女じゃないの。あなたも知ってるでしょう」そんな女性の気持ちが伝わります。

そういう情景を

「やさしくしないで」
「君はあれから新しい別れを恐れている」

の2行で表現してしまう小田さんは流石としか言いようがありません。

この主人公自身、もう恋はごめんだっていう経験をし、そこから抜け出してきているはずです。それが分かるのが「眠れぬ夜はいらない もういらない」というフレーズです。

「眠れぬ夜」は小田さんと鈴木さんの二人時代のオフコースのヒット曲です。その内容は、もう愛にしばられたくないっていう感じでした。主人公はそんな過去の苦い経験を思い出し、だからこそ現在の彼女の苦しみが分かり助けてあげたいともがいている、そんな感じだと思います。

小田さんの凄いところは、この「眠れぬ夜」に二重の意味をもたせたところです。主人公の過去の経験を垣間見せると同時に、五人のバンドとなったオフコースの決意表明としても解釈できます。

「眠れぬ夜」は二人時代のオフコースの代表作の一つであり、それを「いらない もういらない」ということですから。実際、この「愛を止めないで」は今後のオフコースの方向性を示したエポックメイキング的な作品になったと私は感じています。

Official髭男dismの名曲に「Pretender」という曲があります。「Pretender」は決して自分とは結ばれないけど諦めきれない女性との関係を淡々と冷静に見ている主人公に共感できる曲です。良くも悪くも平成の男性って感じです。

それに対して「愛を止めないで」の主人公は、諦めが悪く、彼女の時間軸を自分の方へ引っ張ってこようと四苦八苦する昭和の男なんですね。

つまり、友人として彼女の恋愛を応援し相談にものってきたけど、その彼女が恋愛に破れ心を閉ざそうとする姿を見過ごすことはできない。彼女をその苦境から救い出すのは僕しかいないんだ、何とか時間軸を僕の方へ引き寄せるぞ、という昭和の男の心意気を感じさせてくれます。

「僕の人生がふたつに分かれてる
そのひとつが真っ直ぐに…」

で終わりますが、結局、この主人公の努力は実を結んだのでしょうか?結末が気になりますね。

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