オフコース&小田和正「愛を止めないで」その3 白馬の騎士の紳士的ふるまい 「愛あるところへ」

小田和正という人は大学そして大学院を通して建築を専攻してきた経歴を持っており、そのことは割と有名なことでしょう。

建築に関して全くの門外漢である私には分からないですが、例えば、ビルを設計するとして、まずはおおまかな俯瞰図みたいなのをデザインして、それから詳細な設計図を描き起こしていくという手法をとるのでしょうか。

前二回にわたって考察した「あなたのすべて」と「愛を止めないで」はまさにそんな感じで設計されたかのような印象を私は受けるのです。

「あなたのすべて」は、彼女目線で、彼女の失恋から彼の出現、そして彼女の再生、という流れがおおまかに描かれている作品です。

「愛を止めないで」は、その流れのうち、彼に焦点を当て、彼の目線で彼女を暗闇から救い出そうとする様子が描かれています。

「あなたのすべて」が俯瞰図なら「愛を止めないで」はその俯瞰図の中の詳細な設計図と位置付けができるのかなって思います。

更に「愛を止めないで」で彼が彼女に対して取った言動の詳細が描かれているかもしれないと思われる作品があります。つまり「愛を止めないで」のより精密な設計図とも言える曲です。それは「愛あるところへ」です。この作品は「愛を止めないで」と同じアルバム「Three and Two」に収録されています。

今回は「愛を止めないで」での主人公の男性が如何にして傷ついた彼女の心を癒やしていったのかを「愛あるところへ」でみていきたいと思います。

愛あるところへ

まずこの曲のイントロが「あなたのすべて」と「愛を止めないで」を象徴しているかのようです。重苦しい雰囲気から抜け出して解放される雰囲気を表現しています。


耳をふさいで目を閉じてたら
そこから逃げられない
君はまだあの夏のなか

前回で述べたように、彼女が失恋したのが冬、春が過ぎ桜が散るがごとく涙も枯れた後、彼が彼女の目の前に現れたのが新緑の頃。初夏のときは彼女はまだ心の傷を引き摺っていたはずです。


出ておいで その部屋から
青い空が目に染みる
秋から冬へ季節は動いている

秋の高い空が目に眩しい。季節は冬へと変わっていく。新緑の季節から秋の終りまでの期間、彼は根気よく彼女の心の扉を叩き続けてきたわけですね。


数え切れない思い出も
君を抱きとめないさ
やがてひとりでに心は

裏切って去っていった「あの人」、その思い出はもう君を癒やすことはできないよ。


愛に誘われて
闇を飛び立つ

僕の君に対する愛が君を闇から飛び立たせてみせるから。


もうそれ以上喋らないで
あの頃のことなんて
また明日が遠ざかる

あの頃のことはもう忘れよう。新しい明日を迎えるために。


冬には冬の温もり
夏には夏の悲しさ
言葉を越えて
二人で感じるもの

冬は寒くて凍えるけど、温かさを感じることができるよ。二人でいればね。

夏の賑やかさの中に悲しみを感じることもあるけど、二人でいれば乗り越えられるよ。


涙でおわるあの日々を
繰り返し繰り返し
それでもまた心は

もしもまたあの頃のことを思い出したら、僕が繰り返し何度でも慰めるから。


愛あるところへ
たどり着くまで

君が僕の愛に安らぎを感じるまで。


見知らぬ愛を
信じるままに

君からすれば驚きかもしれないけど、僕は君を愛している。ずっと前からね。それを信じて。


愛あるところへ
たどり着くまで

愛あるところへ
飛んでゆきたい

こんな感じで、「あなたのすべて」と「愛を止めないで」で彼が取った言動が詳細に描かれています。

この彼は初夏から冬が来るまで、本当に根気よく彼女を慰めていたわけです。彼は紳士的にやさしく彼女を見守り続けたのです。

「あなたのすべて」から「愛を止めないで」を経て「愛あるところへ」に至る過程で焦点が絞られていく様は圧巻ですね。ストーリーの作成手法に起承転結がありますが、それに対して序破急というのもあります。この三つの作品群はまさに序破急と言っていいでしょう。

もっと想像を広げると、この彼女と彼は幼馴染かもしれません。家も隣同士で家族ぐるみでの付き合いだと考えられます。だから「あなたのすべて」で彼が彼女のところへ白い服で訪問しても何ら不思議ではないのです。彼と彼女は何でも話せる関係だったでしょう。でも、いつしか彼は友達以上の想いを彼女に感じてしまいます。彼女はその彼の気持ちに気付かずに「あの人」のことを彼に相談していた…

このような想像を前提にすれば起承転結の物語が完結するように思えてしまいます。起承転結の「起」に相当するものが果たしてあるでしょうか?

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