オフコース&小田和正「秋の気配」その4 その後

「青空と人生と」を作って彼女に弾き語りをして、けれども「秋の気配」を迎え彼女に別れを告げ、その1年後に彼女に会いに行こうとしたが「夏の終り」を感じ、そのまま彼女に会わずに帰ったミュージシャンの男。この男はそれからどうしたのかっていう疑問で前回は終わりました。

結局、この男は彼女と会えずじまいだったと思います。彼女が好きだった公園を男は何度も訪れたことでしょう。その都度、その公園がみえる彼女のカフェの前を通ったりもしたでしょう。いつしか店の様子も変わり、彼女の姿も見かけなくなりました。それでも男は機会があるたびに公園を訪れ、そこから見える風景を眺めているのです。

このような情景を思い描いてしまう歌があります。

緑の街

「忘れられないひとがいる
どうしても会いたくて
またここへ来る
思い出の場所へ」

「夏の終り」で言葉も交わさずに彼女の元を去った男。その男の思い出の場所とは当然「港の見える丘公園」でしょう。「夏の終り」でも歌われたように「誰よりも懐かしいひと」が好きだった場所ですからね。

「そのひとのために
今は何もできない
どんな小さなことも
あんなふうに」

付き合っていた当時は深く思うこともなく自然にできたこと、例えば、見つめ合ったり、笑い合ったり、手をつないだり、ギターで弾き語りをしたり、といった本当に些細なことが今はできません。この男の横に彼女がいないから。

「もしできることなら
あの日に戻って
もう一度そこから
歩きはじめたい」

戻りたい「あの日」とは何時のことでしょう。「青空と人生と」を彼女の前で歌った時でしょうか。「秋の気配」で彼女に別れを告げる前でしょうか。「夏の終り」で彼女の元から去らずカフェのドアを開ける時でしょうか。まさに人生の分岐点ですね。

「誰より君のことが
君のすべてが
今も好きだと伝えたい」

男は「夏の終り」以降、幾つかの出会いがあったに違いありません。もしかしたらパートナーがいるかもしれません。でも、若き日に別れてしまった彼女の存在は「忘れられない」存在なのです。

「届け この想い
あの日の君に
届け この想い
今の君に」

「いつかきっと会える
その時まで
僕はここで待っているから
いつまでも待っているから」

もはや思い出の中だけに存在する彼女。思い出という彼女の存在は時の流れによって角がとれ、男の心の中でより丸みを帯び純化されていったはずです。「そっとそこにそのままで微かに輝くべきもの」として。でも、それでも、もう一度会いたいと願ってしまう存在なのです。

「傷つけたひとがいる
ただ若すぎたから
流れた涙も気付かないで」

yesかnoか、人生の分岐点で男が選んだ道が正しかったのかどうかは誰にも答えられません。ただ、男の選択によって、彼女が人知れず涙を流したであろうことは確実です。

「緑が街を優しく包む頃は
別れたときの君を思い出す」

彼女と別れた「秋の気配」の頃、カフェの窓から見上げた公園の緑はまだ青かったでしょう。暦の上では秋でも紅葉にはまだまだ早くて、空の青さと木々の緑が男の目に眩しく映っていたはずです。

「緑の街」は、小田さん17枚目のシングルで、97年8月24日に発売されました。小田さんが監督した同タイトルの映画の主題歌として作られたとのことですが、残念ながら私はその映画を見ていません。もし見る機会があれば是非見てみたいですね。

「夏の終り」が78年でしたから約20年近くの歳月が流れています。この約20年、男は彼女のことを忘れられず想い続けていたわけです。そう解釈することで、一人の男の哀しいけど純粋な想いが胸に響いてきます。

「緑の街」は誰もが心の奥にしまっているものに共鳴するような、そんな名曲です。

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