見出し画像

オフコース&小田和正「雨の降る日に」その3 倖せと幸せ

物語の展開としては、起承転結の4部構成とか序破急の3部構成などがあります。やはり「雨の降る日に」と「ワインの匂い」の2部構成だと若干座りがよろしくない気がします。

そこで、アルバム「ワインの匂い」の収録曲をみていると、小田さんはちゃんと用意していたんですね。うーん、もう言葉も出ないくらいです。さすがです。

タイトル曲「ワインの匂い」の直前にあるのが「倖せなんて」ですが、この曲が存在することで3部構成として物語が成立します。

「倖せなんて」

この曲も「雨の降る日に」と同じくらい短い作品です。詩の内容が、これまた「雨の降る日に」と対比させて作られたかのような感じなんです

「雨の降る日に」と「ワインの匂い」の天気は雨。「倖せなんて」は晴。

「雨の降る日に」と「ワインの匂い」の主人公は明らかに男性。「倖せなんて」は女性と考える事ができます。

つまり、「倖せなんて」の主人公は、「雨の降る日に」の主人公の男性が想っていた「あなた」であり、「ワインの匂い」の「ワインの好きなその娘」であり「あの人」なんですね。

こう考えると「倖せなんて」の歌詞の内容も「雨の降る日に」と「ワインの匂い」に合致します。

3部構成の序破急に合わせてみていきましょう。

「雨の降る日に」

象徴は雨。季節外れの寒さ。
主人公は男性。
過去の回想→現在、という流れで、この時点で主人公の男性が想っている彼女は街にいないと考えることができます。
この主人公と彼女との間に何があったのか、彼女はどんな人なのか、聴く人の想像をかきたてます。まさしく物語の序章にふさわしい。

「倖せなんて」

象徴は晴。暖かい。「雨の降る日に」の雨と寒さの対比がなされている。

主人公を彼女と考えると、彼女がこの街から旅立つ日を描いたものと考えられます。


どんなにあなたを
愛しても愛されても 
あふれるほほえみに包まれた時でも

誰かにすがるような「倖せ」なんて私にはいらないわ。あの人は良い人だけど…と彼女はあの人の暖かさから離れようとしたのでしょう。


よく晴れた午後には 
誰も知らない街へ 
ひとりで消えてゆきたい 
そんな時があるから

彼女も雨には悲しい思い出があるのでしょう。だから晴れた日は旅立ちにふさわしいと思っているのでしょうね。


倖せなんて頼りにはならないみたい 
今日はよく晴れた 暖かい日です

そして今日はよく晴れて暖かい。彼女のいきなりの旅立ち。物語が展開したわけです。

「ワインの匂い」

象徴は雨。
主人公は男性。
注目すべきは2番の歌詞。
「雨の降る日に」と「倖せなんて」が集束され伏線も回収されていきます。


逃げてゆく 逃げてゆく
倖せが
時の流れにのって
あのこから

しばらくのあいだ
この街から離れて
ひとり旅に出てみるの

あの雨の日傘の中で
大きくぼくがついた
ため息はあのひとに
聞こえたかしら

彼女は彼にあらかじめ告げているのです、旅に出ることを。その旅立ちの時が「倖せなんて」だったわけですね。

そして、あの雨の日の出来事を述べることで「雨の降る日に」の伏線回収です。

うーん、もうお見事としか言いようがありません。特に「ワインの匂い」は単体の作品としても秀逸ですが物語の結末としてもしっかりと成立しているんですよね。「ワインの匂い」の1番は彼女のことを具体的に描いていますし、2番では前2曲の伏線を回収しているのですから。やはり小田さんって稀有なアーティストなんですね。改めて、そう思います。

「愛を止めないで」考察シリーズでも述べたように、小田さんの中では緻密な設計図があり、それを作品化したものが「雨の降る日に」「倖せなんて」「ワインの匂い」の3部作ということなのでしょう。

「倖せ」という文字

小田さんは芸が細かい事に「幸せ」を使わずに「倖せ」を使っています。この人偏の方には、媚びへつらうなどの意味があるようです。また人との関わり合いの中での幸福という解釈もあるようです。

つまり、他人に気を使うことまでしての「倖せ」はいらないという彼女の気高さという姿勢が伝わってきます。この辺にユーミンにインスパイアされたというニュアンスが見え隠れしている気がしますね。

だから「逃げてゆく」でいいんですね。「倖せ」だから。人との関わり合いから得られる幸福はいらないという姿勢の彼女だから。でも、彼からすれば「どうしてそんなに心を閉ざしているの」と彼女の心がみえないわけです。その彼の気持ちが

逃げてゆく 逃げてゆく
倖せが
時の流れにのって
あのこから

に現われていますね。
そして、彼女の気持ちは

私はもう誰も好きに
なることもない 今は
ありがとう あなたはいいひと
もっとはやく会えたら

で表現されています。

彼女に寄り添って倖せになりたい彼と誰にも頼ることなく自分の幸せを求めたい彼女。

この対比も素晴らしい。

このアルバム「ワインの匂い」を聴いたのは、かれこれ40年以上も前です。当時は、それぞれの曲自体の味わいが深くて、一つ一つの単独の作品として鑑賞していました。特にタイトル曲「ワインの匂い」が大好きで繰り返し聴いていたものです。

でも、こうして作品群を見直すと一つの物語があり、アルバムのタイトルを「ワインの匂い」とした意味とか、レコーディング最終日に小田さん自身が雨の中をクルマを走らせて効果音を録音したエピソードの意味などがより深く理解できたような気がします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?