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ドラマ『海のはじまり』第3話感想 返す刀

このドラマ、私にとっては印象的な会話やセリフが多いように思える。


投じられた小石

第1話の終わり、夏は海に水季の動画を見せ、動画の再生が終わった時に何気なく「はい、終わり」と海に言った。海は「終わり」という言葉に引っ掛かり夏に「終わるとどうなるの?」とか「ママは終わちゃったの?」とかの疑問を口にし、その自然な流れで夏に「夏君のパパはいつ始まるの」という言葉を発した。

幼い海にとっては何気ない疑問だったが大人の夏、そして視聴者の私からすれば強烈な言葉だった。その言葉は夏の心の水辺に投じられた小石が起こした波紋のように広がっていく。この第3話は、その波紋がようやく夏の心の岸辺に到達したように私は思えた。

第3話の終わりで、ようやく夏は海に「夏君のパパはいつ始まるの?」という言葉の真意を尋ねることが出来た。海は夏に「パパにならなくていいからいなくならないで」と答えた。大切な人がいなくなる不安や恐怖。海は母である水季が亡くなってからずっとその思いを抱えていたのだ。

第1話の冒頭で、海辺を先に歩く海に水季は「いるよ。いるから大丈夫。行きたい方行きな」と声をかけた。その言葉に安心した海はさらに歩みを進めることが出来た。この第3話では、写真を撮るために海と距離を置こうとする夏の後をついて行く海がいた。夏は海に「ここにいて」と声を掛けるが海はその後も夏の後を負う。夏は足で砂浜に線を引き「ここにいて」と海に言い聞かす。ようやく安心したのか海は立ち止まる。「いるよ」と言っていなくなった水季。「ここにいて」と言う夏。この対比が良かった。

レンズを覗き込んだ夏は海の何をとらえたのだろうか。

元気な海

母親である水季が亡くなっても涙の一つも見せない海。大人である夏自身、水季の死を知ってから平常心でいられない。でも会うたびに元気な姿を見せる海に違和感を覚える夏。それは水季の母である朱音や水季の同僚である津野の姿と真逆である。朱音や津野は、水季を失った事実から平常心でいられない。その行き場のない感情を夏や弥生にぶつけてしまう。そんな理不尽な思いをぶつけられた夏も弥生もあえて反論しない。大切な人を失った悲しみを理解できるからであろう。

そんな大人達の反応を受けとめる夏は海に対しては違和感を覚え続ける。そして、夏の自宅で宿題をしている海に対して夏は自分の気持をぶつける。「我慢しなくていい。泣きたい時は泣けばいい」と。夏を止めようとする弥生。言い続ける夏。二人とも朱音や津野からの心ない言葉を受け止めたが、ここではそれぞれ違う反応を見せた。海に対して容赦なく迫る夏。海を慰める弥生。この違いはこの回で弥生や津野が何気なく口にした「外野」意識なのかもしれない。

「外野」とは、元々野球用語なのだろう。外野に対しては内野という言葉もある。野球で守備側がピンチに陥った時、ピッチャーを中心に内野手が集まり話し合う。外野手は大抵守備位置を動かず内野陣が集まっている様子を見ている。同じ試合に臨んでいるのに守備位置の関係で温度差が生じてしまう。

弥生は野球でいう外野手の視点だったのだろう。弥生に限らず朱音や津野など海を取り巻く大人たちは外野だったのだ。それに対して夏だけは内野目線だった。海を連れて夏の自宅に来た朱音に夏は家でも元気な様子と訪ねたり、朱音の自宅で夏に水季との思い出が詰まっているはずのランドセルを嬉しそうに見せる海に戸惑いを見せる夏。夏は終始海の心の奥底を見極めようとしている感じが伝わってきた。

夏は海に「我慢しなくていい」と言った。弥生は海にハンカチを差し出し「偉いね」と言った。海は弥生が差し出したハンカチには見向きもせずに夏の胸に飛び込んで泣き出す。海をしっかりと抱きしめた夏も涙を流す。

きっと、この瞬間が「夏君のパパのはじまり」なのかもしれない。

返す刀

月岡夏は、普段は優柔不断でどちらともとれる返事をしがちな青年である。しかし、そんな夏が断言するときは同時に百瀬弥生を傷つけていく。

第2話では、水季に突きつけられた中絶同意書にサインしてしまったことを悩み続け自分が小さな命を殺してしまったと弥生に断言する。夏にとっては自分の過去の決断を断罪したわけだけど、返す刀で中絶経験のある弥生を傷つける。

第3話でも夏は海の心を開かそうと強い口調で海に迫り、弥生はそんな夏を止めようとした。海を突き放そうとした夏。海に手を差し出した弥生。結局、夏の胸に飛び込んでいった海。海の心のフタを夏は切り開いたが、その返す刀で弥生を傷つけてしまう。弥生は改めて自分は外野なんだと思い知らされたのだ。


海と夏の親子関係がはじまった感じの第3話だった。

次回は傷つけられた百瀬弥生の動向が気になります。

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