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オフコース&小田和正「愛を止めないで」その4 小田コード 「その時はじめて」

前回の終わりで、「あなたのすべて」「愛を止めないで」「愛あるところへ」の彼と彼女の関係をもう少し掘り下げる試みをしました。

つまり、彼女と彼は幼馴染という設定です。家も隣同士で、家族ぐるみの付き合いで、小さい頃からの遊び相手で、何でも話せる関係だったでしょう。でも、いつしか彼は友達以上の想いを彼女に感じてしまいます。彼女はそれに気付かずに「あの人」のことを彼に相談していたのです。

こう言う感じで、彼と彼女の関係を設定すれば、彼が彼女に対して友達以上の気持ちを抱いていることを彼自身が初めて自覚する状況を描いた作品があります。

その時はじめて

これもアルバム「Three And Two」に収録された作品です。


月曜の朝 いつものように
君が出てゆく

9月の雨にぬれた道を
君が駆けてゆく

人混みの中に君が消える
その時はじめて誰より

あゝこんなこと
今まで気づかずに

この曲を初めて聴いて以来、この歌詞が謎でした。

主人公の彼は彼女が朝出かけて、その姿が人混みにまぎれてゆくのを見て、初めて彼女のことを愛していると実感した様子です。

うーん、この彼と彼女はどういう関係なのだろう。同棲してるわけないよなぁ。ましてや結婚してるはずはないし。でも、出かける姿は見てるのだし、彼女の姿が消えるのを見て「あゝ行かないで」などの感情が湧いてきて、彼女への愛を「初めて」自覚してるわけだしな…。

という疑問。

しかし、ようやく謎が解けた気がします。

「あなたのすべて」「愛を止めないで」「愛あるところへ」で考察し設定した情景を前提にすれば解決するのではと思います。

彼女と彼は幼馴染で家も隣同士。彼の二階の部屋から家の前の道が見下ろせるのです。そして、隣に住む彼女が出勤していく姿を見ることができるのです。

なぜ月曜なのか。月曜の前は日曜です。そう、前の日曜日という休日に彼女は久しぶりに、この主人公の彼に会ったのです。「あの人」のことを相談するために。

久しぶりに彼の家を訪問した幼馴染の彼女。彼は恥ずかしそうに恋愛相談をしてくる彼女の姿を改めて見直します。いつの間にか綺麗になった彼女。彼は平静を装って彼女の相談にアドバイスをしていきます。

彼女が帰った後、彼は何故かスッキリしません。この感情は何なのだろう。気になった彼は翌朝彼女が出かけていく姿を見ます。彼女の姿が人混みに紛れ見えなくなった時、彼は初めて彼女のことを一人の女性として愛していることを自覚するのでした。

これが「その時はじめて」の歌詞の解釈です。

そうです。この「その時はじめて」こそが起承転結の「起」なのです。「その時はじめて」があって「あなたのすべて」「愛を止めないで」「愛あるところへ」と物語は続いていくのです。

もう一度、1番の歌詞を心理描写を想像をして見てみます。

イントロ
(彼の戸惑いや心の葛藤を感じさせます。)


月曜の朝 いつものように
君が出てゆく

(彼女の姿を目にした彼は何故かホッとして落ち着きます)


9月の雨にぬれた道を
君が駆けてゆく

(また遅刻しそうなんだろうなと思った彼、学生時代から相変わらず朝が弱い彼女のことを思った彼の顔にはきっと微笑みが浮かんでいるでしょう)


人混みの中に君が消える
その時はじめて誰より

(彼女の姿が見えなくなった瞬間、寂しさが彼の心を占めていきます。その時はじめて彼は)


あゝこんなこと
今まで気づかずに

こう解釈すると、後の歌詞も納得です。


新しい愛も自由もいらない
できることなら
時間を止めて
心ゆくまで
君を見ていたい
その手を その目を その声を
誰にも 誰にも 誰にも
あゝそのまま
ここから動かないで

彼は幼馴染の彼女が好きだと分かった以上、新しい恋愛など必要ないわけです。

時間が進行し彼女の心が相談の対象の「あの人」にこれ以上傾いていくことを止めたい。時間よ、止まれ。彼女のすべてを誰にも渡したくない。

このようなことを彼は彼女の姿を見送りながら思ったことでしょう。


あゝそのまま
ここから動かないで

彼女を「あの人」のところへ行かせたくない。彼の切実な願いです。

9月のとある月曜日に彼女への愛を実感してから堪えていくんですよね、この彼は。あくまでも幼馴染の友達として彼女の恋愛の相談相手を演じていくのです。次の年の初夏の頃まで。これが「その時はじめて」です。

二人が愛し合い、彼女の心が癒やされた時、彼女は懐かしく回想します。それが「あなたのすべて」。

彼女のことを心配して彼女の家人に様子を聞く彼。彼女がすごく落ち込んでいることを知った彼は彼女の部屋を訪ねます。これが「愛を止めないで」。

彼が如何に根気よく彼女の心を癒やしたのかを描いた「愛あるところへ」。

こうして幼馴染の彼女と彼の物語はハッピーエンドを迎えるのです。

オフコースを聴き始めて40年以上の年月が経ちました。歌詞から受ける多少の違和感や疑問などを凌駕する感動を受け、その雰囲気に浸ってきました。

しかし、今こうして改めて聴き直してみると、小田さんが作品に埋め込んだ暗号(コード)が浮かんでくるように思います。まさしく小田コードと言っても良いと思います。

一つのテーマに対していろいろな角度から設計図を描き作品を創造してきたかもしれません。建築家の道を選ばなかった小田さんですが、身についた思考は建築家なんでしょうね。その緻密さと美しさをもった作品群は華麗で壮大な建築物のようです。

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