オフコース&小田和正「秋の気配」その3 「あの歌」を探せ
2回に渡って、オフコースの「秋の気配」そして「秋の気配」と「夏の終り」の関係を考察してきましたが、個人的に気になっていることがあります。それは「秋の気配」で彼女が言ったセリフである「あの歌だけは他の誰にも歌わないでね」の「あの歌」についてです。
彼女がそこまで言うには、彼女にとってとても思い入れのある歌のはずです。彼女は男が自分の為に作ってくれた歌だと信じているでしょう。だからこそ「あの歌だけは他の誰にも歌わないでね」とまで言えたわけです。そして、男もその彼女の言葉を自然に受け入れているので、やはり彼女の為に作った歌だと男自身認識しているのでしょう。
果たして「秋の気配」の「あの歌」に該当する歌があるのか?私なりに検証してみました。
条件としては
(1)小田作品であること。
これは当然ですよね。「秋の気配」が小田作品であるので当然です。
(2)「秋の気配」より前の作品であること。
これも当然でしょう。「秋の気配」の中で出てきているので、その前に作られた歌のはずです。
(3)歌詞の内容が主人公の男と彼女のことについて歌われていること。
彼女が「他の誰にも歌わないでね」とお願いするくらいですから、歌詞の内容は男と彼女のことについて歌われたものでなければならないでしょう。
以上の3つの条件を満たす歌を探した結果、これこそが「あの歌」ではないだろうかという歌がありました。
それは「青空と人生と」です。この「青空と人生と」は小田さん作詞作曲で、76年11月に発売されたアルバム「SONG IS LOVE」に収録されています。「秋の気配」が77年8月5日なので条件(1)(2)はクリアです。残るは条件(3)ですが、これがもうピッタリの内容なんですよね。
青空と人生と
「私の歌でなにができただろう
見果てぬ夢抱いて
あゝ消えてゆきそう」
今まで歌ってきたことに対して男は疑問を持ってしまっています。歌ってきたことに一体何の意味があったのかと。若さゆえに夢中で歌ってきたが、周りを見ればボチボチ身をかためる友達もでてきている。このまま夢を追いかけていいのだろうか、そんな焦燥感に苛まれる男。
「あなたが思うほど私は強くない
凍える風の夜は明日が怖くなる」
過去に対する疑問、そして、将来に対する不安。こんな最低最悪の状況で出会って励ましてくれたのが彼女だったのでしょう。だから、次の歌詞で男は決意を明らかにするのです。
「それでも私は歌い続けてゆけるだろう
青空と人生とあなたを歌っていたいから」
ここで一気に疑問や不安を吹き飛ばすように歌い上げます。
そして、「歌い続けてゆくだろう」ではないんですよね。「ゆけるだろう」なんです。自分の意志だけではなく、彼女がいるから、彼女のためにも、って意味が込められています。こんなの目の前で歌われたら、そりゃあ、私の為に作られた歌って思いますよ、絶対に。うん彼女は悪くないわ、これは。そりゃあ「他の誰にも歌わないでね」って言いますわ。
こうして、この3曲を見ていくと、「青空と人生と」を彼女の前で歌った幸せな時があり、それでも「秋の気配」を迎えざる得なくて、彼女に「あの歌だけは他の誰にも歌わないでね、ただそれだけ」と言わせてしまった。そして、その1年後に「夏の終り」があって彼女を完全に諦めた、そんな男の人生の軌跡をたどることができます。
この「青空と人生と」の扱いってどうなんでしょう。オフコースのアルバム「SONG IS LOVE」で発表されて以降それっきりではないでしょうか。オフコースのベスト版や小田さんのセルフカバーアルバムに入っていない気がするのですが。私が知らないだけかもしれませんが、もしそうであるなら、ある意味「他の誰にも歌わないでね」を小田さんは守っているのかもしれませんね。
うーん、話は変わりますが、それにしてもミュージシャンはモテますよね。歌という圧倒的に有利な武器がありますからね。オリジナル曲を作られ演奏され歌われたら、女性の心も揺れ動きますよね。
ただ、負け惜しみではないですが、それが幸せへとつながっているのかどうかは誰にも分かりません。この「青空と人生と」を作り、「秋の気配」を迎え、「夏の終り」で彼女と会わずに去らなければならなかったミュージシャンの男。結局、彼はどうなっていったのでしょう。その行く末が気になります。
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