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昭和ライダーエレジー6

ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも
知れないと思えた日


※このお話は俺が高校生だった頃、1977年
(昭和52年)頃の物語ですが、フィクションの為、登場する人物、団体等は実在するものと
一切関係ありません。

第六話

辻󠄀が持つ小さな鉄騎。
それはそれは見事なV字っぷりでございます。
文字通りの鬼が如きそのツノは天を衝き、
異形を放つその佇まいは闇空を駆ける龍の
様な鈍色の光を携えて、その身を解き放つ
時が来るのを、今はただ静かに待ち構えて
いるように私には見えたのでございました。

なんて文学っぽい書き出しで始めましたが、
想像力の欠如ゆえ、もう限界!無理無理!

「辻󠄀!これってどうやって作るん?」
実際に作る気はないけれど、参考までにと
思い聞いてみた。
「あぁ、このV字ハンドルの事?簡単簡単!
スコップの持つトコをハンドルに通したら、
あとはテコの原理でクイッ!とな。
鬼みたいやろ?」
辻󠄀が言ってたように地域によっては
" 鬼ハン " と呼んでるところがあるそう。
まぁ正直、見た目優先で、実際に運転すると
なると、とんでもなく疲れる。
じゃあ、何でわざわざそんなものに
変えるんだ!って話よね。
理由はこの年代の男子ってのは……
バカなんですよ、はっきり言って!!

「辻󠄀っ!まぁ百歩譲ってVハンはええとしよ。
でもこれやと長距離はしんどいやろ?」
「そらそやで。不自然な手首の形になるから
キツいやろな。って自分コイツでどっかに
行く気なん?そうなん?」
「あっ、いやその日本…………を」
「えっ?何て?よう聞こえんかったけど、
まさか " 日本一周Vハン制覇の旅 " とか
言うんちゃうやろな?」
図星!
「な、何を、い、言い出すのだよ、辻󠄀君」
「まぁそやろな。甘い夢見たらアカン!」
「その通りだよ、辻󠄀君。現実を見ないと!」
あっぶな!バレるとこやったわ。

実のところ、俺の夢なんだ。日本一周。
原付でのんびりトコトコ各地を巡る。
こう見えて中学卒業までボーイスカウトに
いたから、野営はお手のもの、心配ない。
しかしVハンじゃあ……。
とりあえず一ヶ月、コレに乗ってみて
あとは前田に期待しよう!
「とにかくお借りしますわ!」
「おぉ、楽しんで!でも事故だけは✕な!」
「おう」俺は辻󠄀んちを後にした。

まぁこれで俺たち6人全員、バイク持ちと
なったわけだが、大体6台、少ない場合でも
2台が一緒に走るからお巡りさんからは
目を付けられる。
マサやんのお姉さんの同級生がお巡りさんに
なってて、マサやんが何かの違反をして
停められた時に、免許証を見ながら
「何や、自分、朱美ちゃんの弟か!
あんまりお姉ちゃんに迷惑かけんように
せなアカンで!はいこれ。反則金払ろてな」
えっ?見逃してくれるんちゃいますの?
冷たいわぁ!ってマサやん、怒ってた。
で、一人嫌なお巡りがいて、俺たち何もしていないのに、俺たちを見かけては、やっても
いない違反を押し付けようとしてくるんだ。
皆んなもいい加減頭に来てたので、何か
出来ないかと考えて、俺杉田がある作戦を
立案し決行する事となった。
名付けて「あっち向いてカギポイ作戦1」!
「スギケン、最後の " 1 " って何?」
「あぁアレ。付けた方がらしいやろ?」
やっぱりこの時期の男子はバカだね!

70年代の地方のお巡りさんは白バイの他に
黒い125ccのビジネスバイクで巡回してた。
(通称黒タン)
その嫌なお巡り(思い出した!三木っていう
名前やった!全国の三木さん、悪気はない
ので許して下さい)も黒タンで俺たちを
追いかけ回していた。

ある日、何時ものように俺たちを見かけては
言いがかりをつけて停めてきた。
よしっ!ここがチャンス!
と、ばかりに空き地にバイクを停めた。
案の定、三木巡査も同じ場所に停めてきた。
俺、杉田が対応に当たった。
「何ですのん?俺ら何もしてへんよ!」
「いやいや、これからするって顔にデカく
書いてあるぞ!」
ある意味鋭いな、このお巡り。
「そう予見出来るんやったら世の中の犯罪を未然に防いだらどないです!こんな小僧達を追いかけ回して切符切ってもしゃーないんと違いますの?」
あえて煽ってみた。
「な、何ィ!」
三木巡査が熱くなった。

そのタイミングを俺は狙ってたんだ。
俺を組み伏せるが如く詰め寄ってくる
三木巡査に気付かれない様、背後に回った
ヒデミに俺は目配せをし合図を送る。
同時に残りのメンツはエンジンをかけた。
ヒデミは黒タンからキーを抜き取り、
田んぼに向かって大遠投!

「グゥェ!」三木巡査の叫び!
そして俺たちは脱兎の如く逃げ出した。
「コラァ〜、待てェ〜!」
三木巡査の声を背中に聞きながら俺たちは
大声で笑いながら疾走った。

「あっち向いてカギポイ作戦1の成功だ!」
トモの家に着いてからも皆んなの笑いが
止まらなかった。
「あ〜可笑し!」
「グゥェ!とか言いよった。カエルか!」
「アカン、腹痛い!ヒッヒッヒ」
「スギ、次は向こうも考えてくるやろ?
なんか策はあるんか?」
その問いに俺は自信を持って答えた。
「第二弾は〈プラグでポン作戦〉!」
                 つづく


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