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来訪者

高校に勤めている時、イスラエルの高校生が訪問してきたことがある。
外国語科があり、国際交流に熱心な学校だったが、前々から計画されていたことでもなく、突然その日の朝だかの打ち合わせの時に、連絡された。

特にこちらが呼んだということでもなく、どうも周囲の学校を順番にまわっていたようだ。

友好だか文化交流だか、そういう名前のついた使節ということだった。

急な訪問に、この手のことの対応を任されている外国語科の教員は、慌てて英語部あたりの生徒と懇談する場を設けて、なんとかお茶を濁した。

英語とも国際交流とも関係のなかった自分は、廊下ですれ違った、このイスラエルからの使節を一瞬目にしただけだったが、男女一人ずつ、いかにも賢そうな若者で、表情も立ち振る舞いも自信にあふれていたように見えた。
後から英語の教員に聞いた話でも、まさに印象通りの聡明な高校生だったようだ。

だが彼らは何をしに来たのだろうか?
懇談ではイスラエルの成り立ちなどを熱心に説明していたという。

そう、彼らの祖国は日本の一公立高校へまで、ある意味国家のプロパガンダの使命をおびた学生を送り込むことのできる、したたかで経済力のある国なのだ。
一方、パレスチナの学生が我々の前に姿をあらわすことは決してない。

当時そんなこともうっすらと考えもしたが、それっきりになった。

あの時の彼と彼女も、今はもう40を超えているはずだ。
現在の心凍てつくような戦闘の有様は、その瞳にどのように写っているのだろう。

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