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愛おしい日常に寄り添う音楽たち

先日我が家の棚を占拠していたCD達を処分した。
結婚した時に私と夫で持ち寄った約200枚のCDのうち170枚程を買取に出した。残った30枚は全てクラシックで、サインが入っていたり、お気に入りで手元に置いておきたい物達だ。
そもそもCDプレイヤーが無いので聴けないのだけど、たとえAmazonMusicに入っていたとしても、多少の思い出を残す位の余裕は、人生を送るうえで持ち合わせていたいと思うのである。

私は音楽を聴くことが大好きだ。車の中、調理中、ウォーキング中、何処で何をしていようと音楽を聴く。
ジャンルは色々、割と幅広く聞いている浅めの音楽ファンだと思う。
技術的な事やうんちくを語る程の知識を持ち合わせてはいないが、【音楽は日々の自分の感情に寄り添ってくれる物】だと思っているので、喜怒哀楽によって聞く音楽を変える。
気分を盛り上げたい時は、お気に入りの80sポップミュージックを聞く。
特に【マイケル・ジャクソン】や【ホイットニー・ヒューストン】は私のお気に入りで、【Just Good Friends】や【How Will I Know】、【 I Wanna Dance With Somebody】等は運転しながら歌うと気持ち良い事この上ない。
そして、このノスタルジーな80sポップミュージック達は、私がいつもフロントガラス越しに見ている日本の田舎の田んぼの風景を、ヤシの木が並ぶロサンゼルスの風景に変えてくれるのである。行った事無いけど。

穏やかな気分で食事を楽しみたいと思う週末は、ダイニングで【ノラ・ジョーンズ】や【マイルス・デイヴィス】、【小野リサ】をかける事が多い。
頻繁にレストランで食事できない子育て世代にとって、いつものダイニングがちょっと雰囲気の良いレストランのように様変わりするから不思議だ。
音楽はいつもの食事を少し華やかにしてくれる魔法のスパイスの様だ。

悲しみや怒りに暮れてしまう時は、専らクラシックを聴くと決めている。
怒りがこみ上げてくる時に聴くラフマニノフの【パガニーニの主題による狂詩曲】やチャイコフスキーの【交響曲第5番】は聴いた後に気持ちを少しだけスッキリさせることができる。そして悲しい時はラベルの【亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽版が好き)】とチャイコフスキーの【交響曲第6番 悲愴】と決めている。
特にこの悲愴は気分が落ち込んだ時に聴くと、浮き沈みが激しく暗いこの曲に引っ張られるようにどんどんネガティブになっていくのだが、落ち込むとこまで落ち込んだ後、海底を蹴って浮き上がるように前向きさが戻ってくるので不思議といつも聴いてしまう。
私は元々ネガティブな人間だけれど、チャイコフスキーの曲を聴くと、私と張り合えるくらいネガティブな人なのだろうかといつも確かめたくなるのである。時に絶望し、時に高揚する。そして驚くほど華美な曲を書くこの作曲家が今の時代を生きていたらどうなっていただろうかと思わずにはいられない。

そして私が日常で最も愛すべき音楽は、週末の昼下がりに夫がひくピアノである。
ピアノが趣味の夫は小さいころからショパンが好きらしく、持ち寄ったCD達の中にも【マーラー】や【ブラームス】に交じって、【ショパン】が圧倒的に幅を利かせていた。
夫はいつも週末の昼食を終えると大体自分の部屋のピアノに向かう。
本人曰く、ピアノは好きで弾いているというよりかは、たまったストレスを吐き出しているだけなのだそう。
日々仕事に忙殺されている彼もまた、その時の心情に合わせて毎回、一人リサイタルのレパートリーを変えているようだ。
ショパンの【舟歌】やドビュッシーの【亜麻色の髪の乙女】、【沈める寺】あたりを弾いている時はまだ多少穏やかな気持ちが保たれていると思えるのだが、その日のプログラムにショパンの【エチュード Op.25-10】や坂本龍一の【ラストエンペラー】辺りが流れ始めると、それは「だいぶメンタルやられてるな」という注意サインなのである。そういう日は必ず夕飯の食卓に夫の好物の【カツオの刺身】を乗せるのがお決まりの対処法だ。
毎回心情に合わせてプログラムを構成する私の夫だが、意外と影響されやすい所もあるようで、私が調理中に歌った鼻歌や聴いていた曲が、その1,2時間後のリサイタルで披露されることもしばしばだ。
特に坂本龍一の【Aqua】やブラームスの【3つの間奏曲 Op.117-1】は私も好きなので、昼食の準備をしながら鼻歌を歌っていると、その日のプログラムに追加されていることがあるのである。
私は知っている。そんな彼の影響されやすい一面を。
だから敢えて今日もブラームスを鼻歌で歌うのだ。

休日の昼下がり、隣の部屋から聞こえてくる夫のブラームスを聞きながら趣味の英語の勉強をしたり、このnoteを書いたりしている時間が、私にとってどれだけ愛おしい時間なのかを、彼は知らないだろう。
でもそれで良いのだと思っている。





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