新たな治療法で肺がん治療が進化「肺がん=悪化しやすい」は終わる?

肺がんの治療成績は、他のがんと比べてまだ「良い」とはいえません。しかし、薬や放射線などの治療法が次々と開発され、肺がんにかかっても治る方、長く生きる方は増えています。肺がんの85%を占める「非小細胞肺がん」での治療法の進化を紹介します。

肺がんは今でも悪化しやすいが、治療成績は改善している

国立がん研究センターの2018年の統計では、1年間にがんと診断される方の中で、肺がんは3番目に多いがんであり、1年間に亡くなる方が最も多いがんです。
また、肺がんは悪化しやすいがんでもあります。

がん情報サービス 年次推移のまとめ

上図のように、5年生存率(がんと診断されてから5年間生きている方の割合)を、胃がんなど患者数の多いがんの中で比べると、肺がんは男性では最低、女性では2番目に低くなっています。
しかし、肺がんの5年生存率は徐々に改善しており、1993~1996年に診断された患者さんでは22.5%に対し、2009~11年に診断された方では34.9%と1.5倍です。

ステージ(進行度)に合わせて治療法を組み合わせる肺がん治療

肺がんの治療は、ステージ(進行度)によって、手術、放射線、薬物を組み合わせて行います。非小細胞肺がんでは下記のような組み合わせです。

日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2021年版より作成

そのなかでも、近年は末期であるステージ4での薬物による治療成績の改善が注目されています。

肺がん発生原因の解明がステージ4の薬物治療の成績を伸ばす

肺がんの発生原因の解明とそれに合わせた薬剤の開発が、ステージ4の治療成績を改善しています。注目は「分子標的薬」と「免疫チェックポイント阻害薬」です。

分子標的薬の登場で治療成績が改善

がんは通常いくつもの遺伝子異常が積み重なってできますが、肺がんは1つの遺伝子の異常で発生することが発見されました。これが「ドライバー遺伝子」と呼ばれるものです。
そして近年、ドライバー遺伝子をターゲットにした分子標的薬が化学療法を上回る効果を示すことが明らかになりました。代表的なものは、2002年に登場した「EGFR」というドライバー遺伝子をターゲットにした「イレッサ」という薬です。イレッサは、EGFRの遺伝子変異がある患者さんのがん増殖リスクを、化学療法の半分にするほどの効果を示します。
EGFR遺伝子変異を伴う肺腺がんは日本の肺がんの50%を占めることもあり、多くの薬剤が開発されています。現在日本での肺がんに保険適応のある薬剤は5つです。
EGFRの後にもドライバー遺伝子が発見され※、それぞれの分子指標的薬が化学療法を上回る治療成績をあげています。
※EGFR以外に「ALK」「ROS1」「RET」「BRAF」などが発見されています。

免疫チェックポイント阻害薬の登場で治療成績がさらに改善

もう1つ、肺がんの薬物治療に変化をもたらしたのは、がんが免疫の攻撃を逃れる仕組み「免疫チェックポイント」の発見と、それをブロックする「免疫チェックポイント阻害薬」の開発だといえるでしょう。
免疫チェックポイント阻害薬で代表的なものはオプジーボです。オプジーボは2015年に日本で承認され、従来の抗がん剤を上回る効果が証明されています。さらに、従来の化学療法では認められなかった、長期間の効果も認められています。
現在、日本で肺がんに使える免疫チェックポイント阻害薬は4種類です。いずれも化学療法を上回る治療成績をあげています。
これらの新しい薬の登場で、ステージ4肺がんの生存期間は、2000年代初めまでは1年程度だったのが、その後の10年で一部の患者では生存期間が3年に達するケースもあります。
また、これらの新薬は、有効性の高さが認められ、日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」では、最初から使う薬剤に設定されました。

デジタル技術の進歩が放射線治療を進化させる

肺がん治療の進化はステージ4に対してだけではありません。ステージ3で化学療法とともに使われる放射線治療も大きく進化しています。
放射線治療は、高エネルギーの放射線をがんに照射して、がん細胞を殺す治療法です。
しかし、体外から放射線を当てる際に、がんの近くの正常組織も傷つけてしまうことがあります。そこで、肺のCT画像から計算して、あらゆる方向から放射線をがんに集中して当てる「体幹部定位放射線療法」が開発されました。

最近では、放射線治療装置とMRI(磁気を使って体内の画像をとる検査)を合わせた「MRリニアック」というシステムが開発されています。MRリニアックは治療中も患者の MRI画像を見ながら、がん病変の位置関係をリアルタイムにとらえ、正常組織の被曝を少なくしながら、がんにピンポイントで放射線を当てることが可能になりました。現在、大学病院などで導入され始めています。
放射線の種類も増えており、従来のエックス線に加え、がんに高い放射線量を当て、正常組織に当てる量を少なく調整できる「粒子線」が先進医療として行われています。

絶え間ない研究開発で肺がん治療に光が見え始めた

肺がんは治療成績が良いとはいえません。しかし、原因の解明と薬剤の進化で、ステージ4でも治療成績の改善が見られています。また、最新技術の応用でステージ3の放射線治療も進化しています。さらに、ロボット手術が適応になるなどステージ1、2の治療も進化していくでしょう。肺がんが悪化しやすいがんではなくなるのも遠い未来の話ではないかもしれません。

(医学ライター/医薬情報プロデューサー 細田 雅之)

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