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4年生『2けたの数のわり算』のデザイン①:仲間の「?」に寄り添い、解決していく算数授業

 わり算の学習に難しさを感じる子に出会ったことはないでしょうか?

 私はよく出会いました。4〜6年生のどの学年を担任しても「わり算か…苦手だな。」「割合…わり算か。」「5年生の勉強ってわり算を使うの多くない?」こんな声、よく聞きます。

 出会った子どもたちは、わり算に難しさを感じた結果その後の算数につまずき、算数が苦手になる子が多いように感じました。

 わり算は、所謂、「(商を)たてる→かける→ひく→おろす」のサイクルを繰り返す手続き的な知識(技能)と見られることが多く、「やればできる」「わかればできる」類に捉えられやすいです。そのため、「ひたすら計算練習!」という筋トレ的な指導が生じやすくなります。

 しかし、その「手続きを繰り返す」こと自体が難しい子が存在します(本当は手続きだけを指導しようとすることに問題があるのですが)。「「商をたてる」って言うものの、商の検討がつかないよ。」「たてた商をどこに書いたらいいの?」「わる(わられる)数が増えたらもうどうしたらいいかわからない。」こんな子どもの悲しい声をよく聞きました。「はい、大きい位の数に◯は何個入る?」「入らなかったら次の位もいれてみるよ!」その指導だけでは、こうした子を救うことはできませんでした。

 もしかすると、私の勤務校が学習に難しさを抱える子の割合が多い学校だったのかもしれません。しかし、全国にはきっと同じ子どもの声を聞く先生もいると思います。



 先程の子どもの声。



 経験則的な意見になりますが、劇的にわり算ができるようになる特効薬はないと思います。

 3年生で学習したわり算の意味を思い出してその意味を拡張し、計算の手続きに慣れていく。その過程は、苦手意識がある子ほど時間がかかります。数の感覚であり、記憶を保持するワーキングメモリの部分によるものも多いからです。「75÷14を計算しましょう!」と言われて、さっと「14×5=70だから商は5」と思い浮かべる。「(商を)たてる→かける→ひく→おろす」のサイクルはそんなに簡単なものではないはずなのです。

 だからこそ、学習の途中で「諦めてしまう子」を「がんばってできるようになりたい!」の状態で維持し続け、そのうちに「できるかも!」と思えるようにこちら側が準備してかかる必要があると思うのです。

 そんな泥臭い『2けたの数のわり算』の授業を紹介します。

 当時の私の最優先事項は「「分からない」と感じる時間を減らす。でも、「教え込み」とは違う授業」でした。

1時間目:子どもたちは「筆算をやりたい!」 〜意味(図)に立ち返る手立てを〜

1時間目

導入

 マスキングを用いて、既習を想起します。マスキングによって式もわり算になることが確認できるので打ちやすい手立てです。

 子どもたちは問題文から「わり算になりそうだね。」「これ、筆算やりそうじゃない?」「難しそう」などと思いをつぶやきます。そして、□の数に何を入れたいかを子どもと話し、「□が2だったら80÷2は40だね」などとイメージを膨らませ「80÷□」と立式をします。そして、□の数が20を伝えることで「2けた÷2けたの計算はやってない!」と未習が明確化されていく流れです。

 そうすることで、板書左上の「0をどうにかしたい!」「2けたを1けたにしたい」「2けた÷1けたでやってみる」などと、子どもたちなりの解決の方向性が見いだされていきます。

 実はここではまだ「図」を全体では見せませんでした。図を使う必要性を子どもたちは感じていないからです。もちろん、個人で解決するときに「先生、図で考えてもいい?」と聞かれるので、「もちろんだよ。大切なことだね。」と伝えます。

交流「なんかおかしいよ!」「やっぱり図だとはっきりするね!」

 交流です。まず、先行知識や筆算に価値を感じている子が確実にいるので、強制しなければ筆算で商を導く考えがでてきました。

 ただ、商は「40」でした。

 同様に、板書を見ればわかりますが、筆算の考えの隣に「8÷2=4だから40」を矢印で表現した考えが出されています。

 なぜ「40」なのでしょう?

 筆算の考えは、既習の「たてる→…」のサイクルを当てはめた結果、商が4となったが一の位が空位なため、0を入れて「40」だとしたと想像できます。

 もう一方は、「わられる数もわる数も10分の1したから商は10倍する」という「小さくした分だけ元に戻す」という発想です。それにしても、両方10分の1なら100倍じゃないかな…?とも思いますが、そう考えるのは大人の発想で「片方が「10」分の1ならもう片方も「10」倍でしょう」と考えるのは個人的には理解できます。

 すると、子どもたちは困った顔をしてつぶやきます。

「なんかおかしいよ」

 確かめ算をすれば800になるのでその通りです。
 そこで、図で商を導いた子の考えを出してもらいます。

 「どのカード使いたい?」から始まり、10のカードを貼るところから始まります。そうすることで、「10のまとまりでみれば8÷2だ!」「だから、元に戻すための10倍はしてはいけないんだ!」と、先に出した筆算や式操作の考えと関連付けながら理解をしていきます。

 このように、筆算で生まれたもやもやを図で解決していくことで、筆算を認めつつ図の価値を見出していくことができます。そして、子どもたちは「図でまとまりをつくって考えると良さそうだね!」とまとめていました。



2時間目:素朴な「?」を教師も子どもも考えることで分かってくる

2時間目

導入

 2時間目です。導入は1時間目と同じようにマスキングを用いた導入です。今回の子どもたちの未習は「あまりが出そう」というところで考え始めています。

交流「なぜあまりには0をつけていいの?」

 まず、図で説明し、式操作、筆算の流れで説明をしていきます。子どもたちは図のの有用性を再認識しているので、先に図から扱いました。板書の「1」のカードは「10のまとまりを1としてみる」という考えからです。「140÷40」を「14÷4」に変換した上で思考しているからでしょう。「なぜ10じゃなくて1のカードなの?」と子どもから質問がでたので発表した子に問い、それを100のカードと10のカードを可視化しました。(出なければ、私が質問します。)

 筆算まで交流した後、ある女の子が「先生、ちょっと分からなくて。」と話しかけてきました。算数が苦手な子です。

 聞いてみると、「わり算の商は0をつけなかったじゃない?なんであまりには0をつけるの?」と質問してくれました。

 その子は数操作で考え、疑問をもっていました。「みんなだったらどう答える?」と子どもたちに問いかけ、「2」は「10のまとまりが2個分なので20」「商の3は3人だから0はつけないけれど、2は2まいだから0をつけなくてはいけない(なるほど!)」ということが見えてきました。

 些細かもしれませんが、こうした質問を大切にしていきたいです。

 この子の他にも、「あまりなんてないよ?(40を途中から4として計算してわりきってしまった子)」「「商<あまり」ってある?(3年生の既習事項)」などといった質問が出てきました。

 質問をそのまま返すのではなく、「ちょっと筆算を書いてみてみようか!」「たとえば、40÷15でいったら…?(この式は他の子のアイデア)」などと、一歩踏み込んで(具体化)して考えてみることで、周囲の子がその質問について考えることができるようになります。すると、自然と「それは〜〜じゃないかな?」と周囲の子がその子に説明し始め、そこで交流が生まれていくのです。


 算数から話が逸れるかもしれませんが、「分かる!」と同じくらい「分からない」も大切にしたいものです。

 「分からない」を大切にしていくと、「分からないと教えてくれる」「クラスのみんなは優しいよ」と子どもたちが思い始めます。


 1時間目は、もやもやした気持ちをすっきりさせてくれる子がいました。

 2時間目は、「分からない」という子の考えに寄り添って、なぜそうなるのかを考えてくれる子がいました。


 学級経営を進めていくには、私(子どもたち)が大切にしたい(して欲しい)ことが実践できる場面が必要です。算数は困りが生まれやすいからこそ、相手の困りに寄り添い、解決方法を一緒に考えることができます。そして、その子の困りからさらに理解を深めていけるので、困ったことが出されたときこそクラス一人一人の成長のチャンスなのです。


 最終的にこの経験の積み重ねが、クラスのつながりを強くするのです。



 案の定、長くなってしまったので残りの授業はまた次回に書きます。

 3・4時間目、5〜7時間目、10・11時間目を紹介する予定です。

 ありがとうございました。

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