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4年生『2けたの数のわり算』のデザイン②

 前回の「4年生『2けたの数のわり算』のデザインの続きです。1・2時間目でわり算ができる位を拡張していきました。その都度、子どもたちに生まれる疑問(「?」と表現)を一緒に考え、解決していきました。前回の記事はこちら↓

3・4時間目:図から筆算へ
 …「図は最終手段」と思えるように

3時間目
4時間目

 図で考えることのメリットは、図に印をつけることで具体的になり操作がしやすく根拠をイメージしやすい点です。では、デメリットは何かというと「時間がかかること」です。算数の問題を解くときに全ての問題を図で解くとすると気が遠くなります。だからこそ、「時間をかけずに解けるようにするために」筆算が必要となっていきます。

 筆算の方法(アルゴリズム)のよさを森田真生は次のように指摘しています。

 現代の私たちが難なくそれをできてしまうのは、私たちが特別優秀になったからではなく、筆算の一連の手続きが、非常に巧みに設計されているからである。
 たとえば「 36 × 73」を計算するところを思い浮かべてほしい。二桁どうしの掛け算だが、筆算の手順が分かっていれば、その過程で必要になるのは、一桁どうしの掛け算と足し算だけだ。一桁どうしの掛け算でさえ煩わしいので、日本人は九九を暗記してしまう。そうなると使うのは言語野で、あとはちょっとした足し算だけで済む。

森田真生『数学する身体』p26

 思考を最小限にし、その他のことに思考の容量を避けるように自動化していく。筆算はより複雑なことをより多くのことを考えられるようにするために編み出した人間の知恵なのです。

 その知恵が生まれる道筋をちょっと味わってみることができると、そのすごさが体験できるのではないでしょうか。そんな願いを込めて授業をしています。


3時間目

 3時間目も1、2時間目と同様、マスキングを使って既習と比較し、子どもは「中途半端な数」と表現しています。今までの問題のように「10分の1する(0をとる)」といった「10のまとまりで見る」見方を子どもたちは簡単に引き出すことができましたが、今回はそうはいきません。


 ここでも基本は「図」です。しかし、子どもの図の扱い方に変化が見られるのです。

 図で考えた子に「どう考えたの?」と問い、板書中央の「10」と「1」のカード貼ってもらいました。位を意識されていることが分かります。そして、まず80から20ずつ取り、残りの1を5から1つずつ引いていきました。このような包含除の計算イメージを「位で分けて」考えているのです。

 板書右端の筆算も、図と同様な位に分ける考えの基で取り組まれています。しかし、子どもたちがあらかじめ方向付けていたアイデアは、「除数(わる数)を分ける」というものだったので、筆算ではなかなかうまくいきません。悩みながらも少しずつ「21を20とみて、まず4という商を見つけることが良いのではないか」と気付き始めます。そして、「80÷2=4」「21×4=84」「85−84=1」という計算の道筋をはっきりとさせていくのです。その結論が「中途半端な数ずつとっていけば(ひいていくと)よい」となりました。

 少しずつ「たてる→かける→ひく→おろす」が見えてきます。簡単に教えてしまえばいいのかもしれませんが、子どもたちの中で納得いくようにじっくりと時間をかけた授業でした。



4時間目

 前回の授業の結果、子どもたちは何とか筆算の方法をはっきりさせたいと思っています。すでに知っている子は筆算での計算方法をどう分かってもらうかを考えています。「中途半端な数のわり算を筆算でできるかな?」という課題もそうした子どもたちの思いの現れです。「図ではできる。だから、筆算でもできるようになりたい。」そうした思いから「図は最終手段」という言葉も生まれました。

 話は少しそれますが、教科書の問題で図が出ている内容は図を使わせるのが筋かもしれません。ただ、そこに「子どもが図を使って考える必要性を感じているか」という視点を忘れないようにしなければならないと思います。

 図は「問題を具体的にして理解しやすくするための道具」です。問題を理解できてしまっている場合、図は必要ありません。子どもたちにとって「困ったら図」ぐらいの感覚にしておきたいし、教師が図を使って考えさせたいなら、「図を書きなさい」ではなく、図で考えなくてはいけない状況になるような問題(発問)を準備する方が効果的です。


 授業では、図で「48から12をとる」子から取り上げました。

 そして、筆算です。問題もさほど難しいものではないので、できた子も多くいました。「なぜそういう筆算になったの?」と問うと、「まず、4をたてて…」という手順が出てきますので、その都度に「今書いたのは式で言うとどういう式?」と問い返し、「12×4」などと引き出して図とつなげていきます。そうすることで、図と筆算の方法を関係付けていきます。こうして、わり算の筆算の手続きを全体で共有していきました。

 そうすると、最後に残る問題は「商をたてるのが難しい」という声です。そこで、教科書の練習問題を1問ずつ「このわる数だと商はどう立てよう?」と問い、「この数なら〜と見るとよい!」と商を立てる感覚を共有していきます。そのうち自分でたてられるようにしていくためです。



5〜7時間目:習熟(計算練習)
…変化に困る子に寄り添うことで定着を図る

5時間目
7時間目

 習熟の時間です。教科書の問題を使った習熟は以前に書いた記事の通りです。「「教科書を使わない」ではない。〜教科書は「問題」の宝庫〜」を参照してください。

 ここでは、問題を少しずつ変化させていくことで困ってしまう子の存在に大切にすることにスポットをあてて紹介します。

 5時間目では問題③「70÷23」と問題④「94÷32」などがポイントとなります。③は「かける」部分のエラーですが、両方の問題ともあまりが1に近いか、わる数に近いという共通した特徴があります。

 こうした問題は「たてる」部分にエラーが生まれます。「たてる」ことは数の感覚に鋭い子には難しいものではないですが、苦手な子にかなりハードルが高い難しい場面です。一発で「たてる」ことだけではなく、正しい商を探す試行錯誤する姿勢にも価値を見いだしてあげたいです。そのために、正しい答えをすぐに扱うのではなく、「最初たてた数が違った人もいるの?」「初めはどう考えたの?」「どう修正したの?」「よくたどり着いたね!」のようなやりとりを通して、「うまくいかなかった=失敗」ではないと伝えることを大切にしたいです。

 そして、変化を苦手とする子は確実にいます。7時間目もわられる数が2けたから3けたになった問題です。板書左側の考えは、百の位を飛ばして元々の2けたとして計算をしてしまっています。単純なミスのように見えますが、2けたの数の知識をうまく転移できなかった原因を子どもと一緒に考え、「ただの間違い」ではなく「〜〜と見てしまったのだね。だから、〜〜しよう!」というような具体的に解決方法として考えていきます。


 忘れてはいけないのは、勇気を出して自分のうまくいかなかったことを表現してくれた子に対しての感謝の気持ちと、みんなで考えたことをもう一度試す場をつくることです。

「最初はうまくいかなかったけど、次の問題ではそのエラーを起こさないで解くことができた!」と、失敗に対するイメージを払拭する機会によって、「失敗しても大丈夫!自分は友達の力を借りて失敗を乗り越えられる!」という思いを引き出したいと私は思っています。

 誤答は授業を活性化する道具ではありません。その子の勇気から学び、その学びをその子に返す営みなのです。



10・11時間目:きまり発見の授業 
…「他の商でも同じことが言えるのかな?」を引き出す

 最後は「わり算のきまり」です。「被除数(わられる数)と除数(わる数)に同じ数をかけても商は変わらない」という性質は、分数のわり算などの計算方法の説明にも使える重要な性質です。

 そんな性質を大切に扱うために、子どもたちが「きまりが見えた!」だけではなく、「他の商でも同じ?」と思える展開が良いと考えました。商が4の場合だけで簡単に「被除数(わられる数)と除数(わる数)に同じ数をかけても商は変わらない」としない姿勢で授業に臨みます。

10時間目
11時間目

 授業の結果としては課題が残る授業でしたが、子どもたちはノートに「他の数でも調べたい!」と振り返り、自分で調べる子もいました。

 問題を提示すると、子どもたちが困ります。「□と◯じゃわからない…!先生どっちか教えて…!」という声がでます。そのうち「商が4になればいいってことは検算で考えればいいんじゃない?」「いくつかあるんじゃない?」と考え始めます。

 子どもたちにノートに書いてもらうと、どんどん書く子もいれば、書いては違う商になり書いては違う商になり…を繰り返す子も。

 発表してもらうときにはa4の紙を半分に切った紙に式を書きます。

 理由は、「並び変えるため」です。

 算数ではよくとられる手法ですが、教師が提示したいきまり通りに出すのは不自然ですし、まだ見えていな子にもきまりを見いだす時間が生まれる点がよいです。「きまりが見えた!」と話す子に、「そのきまりが見えるように紙を並び替えてみよう!」と声を掛ければよいのです。カードが足りなくても、間が空いていても、そこにスペースを開けてくれます。そのスペースは思わず考えたくなるし、「〜〜だ!」と言いたくなるのです。

 そして、「(被除数を)+4したら(除数は)+1」という規則性が少しずつ見えてきます。(本来なら倍の関係も引き出したかったけれど、ここでは共有できませんでした。)

 このきまりに対し、「じゃあ、どんな商でも+4したら+1ということなのかな。」と問い返します。その一言で、子どもたちに「他の商の場合は?」という新たな問いが生まれました。

 その結果が11時間目です。

 自分が調べたい商を決め、規則性が成り立つかを検証する時間となりました。
 ここで倍の関係が見いだされ、他にも、商が違うと「+4」ではなく「+商」だということも発見しました。



 以上が、4年生の「2けたの数のわり算」の単元でした。

 「難しくてもみんなで取り組めばできるようになる!」そんな思いが算数の授業でも高まっていくと、きっと素敵なクラスになると思います。

 「困っている人がいたら、みんなが成長するチャンス」

 そんな風に考えられる授業が好きです。

 ありがとうございました。

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