音速のドラ猫26




〜日本海上空〜

祐介〔中国機に告ぐ、貴機は日本国領空を侵犯しようとしている。直ちに進路を変えよ〕

豊「今日の中国機は中々しつこいですね」

日本海上空…厳密に言えば秋田県の男鹿半島沖95kmの位置だ。
俺は現在、高崎1尉の後席に座っている。

朋也〔だな…Altair03 領空まで15nm〕

沙都子〔この中国機以外に周囲に機影は見当たりませんわね。〕

豊「いつもの急行便にしちゃえらく頑固だな」

祐介〔繰り返す…貴機は〕

ゴォォォォォォォォッ

3度目の通告でようやく進路を北に取り中国機は防空識別圏から去っていった。

祐介〔Trello this isAltair03 unknown is SITEOUT say again unknown is SITEOUT〕
(Trello、国籍不明機は防空識別圏の外に出た。繰り返す防空識別圏の外に出た)

Trello〔roger Altair RTB〕
(了解、アルタイルは基地に帰投せよ)

祐介〔roger、アルタイル各機帰投する。〕

豊「了解」

朋也〔了解だ。〕

沙都子〔了解ですわ。〕

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〜三沢基地114飛行隊〜

柊甫「ふひゅ〜」

千景「どうしたのよ?柊甫くん浮かない顔なんかしちゃって」

柊甫「ん?そんな顔してたかい?」

千景「ええ、何か悩み事?」

柊甫「最近ねお隣さんの動きが活発でね。これを見てくれ」

柊甫くんがパソコンの画面を切り替える。
ここ最近のスクランブル発進のグラフが映し出される。先月から先週分までのデータでは圧倒的に中国の領空侵犯が増えている。

千景「本当ね。特に中国の戦闘機が多いわね…」

柊甫「こいつらは何が目的なんだ…?」

千景「さあ?憶測でしか言えないけど日本の領土を奪い取りに来る準備じゃ無いかしら?」

柊甫「気持ちの良い話では無いな。」

千景「そうね…」

キィィィィィィィィィィィィィィン

柊甫「帰ってきたな。」

外で鳴り響く轟音、スクランブル発進していた高崎くん達が帰ってきたようだ。

千景「今日は外に出ないのね」

柊甫「ん?あぁ、ちよっとね」

いつもなら真っ先に駐機場へ出て隊員を労うはずの柊甫くんが今日は席を立とうとしなかった

千景「良いわ、私が行ってくる。」

柊甫「頼むよ。」

〜駐機場〜

キュィィィィィィィン プシュゥゥゥゥゥゥゥンッ

豊「ふぃ〜疲れた」

祐介「豊、後で報告書提出しておけよ」

豊「了解っス」

沙都子「レーダー機器に異常無しっと」

朋也「アンチアイス(防氷装置)のヒーターの調子が悪いかもしれない。点検を頼む」

整備員「分かりました。」

千景「お帰りなさい。みんな」

祐介「お疲れ様です。郡3佐」ビシッ

千景「お疲れ様、そんなに固くならなくて良いわよ?高崎くん」

祐介「すいません。癖で」

朋也「豊に祐介の爪の垢煎じて飲ませてやりたいくらいだぜ…」

豊「朋也さん…それ本人の居る前で言わないでくださいよ…」

沙都子「本当ですわね。緑川さんにはもう少し緊張感を持って欲しいですわ。」

豊「沙都子まで…」

千景「皆して緑川くんを虐めないであげなさい。あと、緑川くんは報告書の提出を忘れずにね。なるべく急いで」

豊「分っかりました〜」

祐介「あれ?隊長はどうしたんですか?」

千景「柊甫くんは今ちょっと手が離せないみたいなの。だから私が来たのよ」

祐介「そうでしたか…」

千景「何か用事があったの?」

祐介「いえ、これと言った用事はないんですけど。いつもなら、出迎えてくれる隊長が今日は来てないから珍しいなと思いまして」

千景「そうね。最近は忙しいみたいよ。」

ゴォォォォォォォォッ

4機の戦闘機が基地上空を通過する…時刻は正午前 午前の飛行訓練を終えた302飛行隊のF-35が帰投してきたのだった。

千景「話は以上?」

祐介「はい」

千景「しっかり休息を取りなさい。それじゃ」

祐介「了解、失礼しますッ」ビシッ

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〜レジャー施設〜

〔サイクルトレイン〕

ペダルを漕ぐ事でレールの上をサイクルトレインが動く仕組みだ。操作は簡単で自転車に乗るのと同じ要領である。
スタートからゴールまで約300m あり遠くに見える山々や仙台の街並はとても綺麗で写真を撮りたくなるほどだ。
しかし、設置している場所のすぐ真下が崖のためそこそこスリル満点のアトラクションだ。


みゆき「すご〜い、綺麗」キーコキーコキーコ

佳奈多「風が気持ちいいわね」

樹「なぁ…まだゴール見えへんの…?」ブルブル

みゆき「どうしたの?お父さん、震えてるけど…寒いの?上着いる?」

佳奈多「違うのよみゆき。お父さんはね…」

樹「バ、バカッ…俺は高いところ怖くなんか…怖くなんか無いんやからなぁ…」

みゆき「お父さん…」
 (怖いんだね…)

佳奈多「不思議な人よ…常に上空10000m以上で仕事している人がただの200mも無い小高い丘の上が怖いだなんて。」

みゆき「本当だね〜」

樹「2人は怖く無いん…?」

みゆき「ぜ〜んぜん怖く無いよ〜」

佳奈多「私も同じよ。」

樹「お父さんはもう降りたい…」

みゆき「ふふ、お父さんなんだか可愛いね」

佳奈多「ほんと、面白い人だわ」

樹「揶揄うんはやめんさい…」

〔メリーゴーランド〕

メンヘルな音楽が流れて、馬や馬車などの乗り物がグルグルと回転している。

沙紀「パパ〜 里沙〜」

沙耶「沙紀、乗り出しちゃ危ないわよ〜」

沙耶と沙紀が一緒に馬の上に乗っている。
僕はスマホのカメラを構えて2人が回ってくるのを待つ…
背中のおんぶ紐では里沙がスヤスヤと眠っていた。

理樹「お、来た来た。はいチーズ」パシャ

2人「いぇ〜い」

沙耶と沙紀のいい笑顔が撮れた。

沙紀「あ〜面白かった〜次はあれに乗りたい!」

沙耶「どれどれ〜」

理樹「お〜あれね〜」

このレジャー施設の目玉と言っても過言では無い観覧車だ。これなら家族全員乗ることができる。

沙耶「良いわね。行きましょッ」

沙紀「うん!」

理樹「2人ともはしゃぎすぎだよ〜」

里沙「あぶぅ〜」

〔ゴーカート乗り場〕

大翔「パパ〜」

真人「大翔〜楽しんでるか〜?」

大翔「う〜んッ」ブォォォン

由紀「ママ〜、パパ〜見て見て〜ッ」ブォォォン

唯湖「はっはっはっ、流石は私たちの娘だ。ドライビングテクニックの才能があるな。」

玄武「そうだね。お、次は俺の番か」
 
真人「俺も同じだ」

玄武「む」

真人「お?」

玄武くんと真人くんの目が合った瞬間…互いが威圧し始めた。俺たちの間には誰も立ち入れないオーラのようなものが渦巻いていた。

由紀「ねぇ、ママ」

唯湖「ん?どうした?由紀」

由紀「パパ達…何か変だよ?」

大翔「僕もそう思う…」

葉留佳「パパ達が変なのはいつもの事じゃないですカ〜?」

唯湖「確かにそうだな。しかし…」

葉留佳「他のお客さん達に迷惑がかかってますネ…ここは…一発」

客「何だ何だ?喧嘩か?」

客2「警備員さん呼ぼうかしら?」

現に、2人の威圧オーラは他の一般客に迷惑をかけていた。

唯湖「葉留佳くん、子供達を頼んだぞ」

葉留佳「了解ですヨ〜」

由紀「ママ?」

大翔「唯湖お姉ちゃんは何をするんだろ…?」

ツカツカツカ

無言のまま2人の元へ歩いていく唯姉…
何をするつもりなのだろうか?

唯湖「2人とも…」

真人「邪魔するなッ」

玄武「そうだぞッ…あ…」

真人「どわぁッ…」

玄武くんが「あ」と言った時には既に遅かった…
真人くんは綺麗な弧を描きながら宙を舞っていた
唯姉の必殺技である居合斬りが炸裂したのだ…

唯湖「次は玄武くんの番だが…どうする?飛びたいか…そうか…」

玄武「ぼ、暴力反対…」

数秒後…

玄武「ヘブゥゥゥゥゥゥッ」キラーン

葉留佳「あ、結構飛んでますネ」

由紀「本当だ〜 パパ〜バイバイ〜」

大翔「玄武おじさんが…」

玄武くんは真人くんより高く宙を舞ったと思った矢先…漫画のような勢いで空の彼方へと消えていった。星になったのだ…

唯湖「まぁ、こんなものか。さて…ウチのバカがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」

客「いえいえ、大丈夫ですよ。見ててこちらもスカッとしましたから。」ニッコリ

子供「お姉さんカッコよかった〜」

最後に他のお客さん達に頭を下げけじめをつける姉御の姿に私は惚れそうになった。

数時間後…玄武くんがボロボロの状態で帰ってきたのは言うまでも無い。

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〜露天風呂(男湯)〜

大翔「やっぱ、温泉って良いね〜」

理樹「そうだね。温泉は心の洗濯って言うぐらいだしね。」

大翔「ところで…パパ大丈夫?」

真人「痛てててて…くそぉ俺の筋肉でもあの居合斬りは防げなかったぜ…」

真人の体には無数のアザと傷ができていた。
葉留佳さんの話によれば、どうやらレジャー施設で唯湖さんの居合斬りで宙を舞ったらしい

理樹「でも、あれは…玄武と真人が…」

玄武「俺の嫁ってあんなに強かったんや…」

真人「恐れ入ったぜ…」  

樹「これに懲りていらん事せん事やなw」

玄武「そう言う先輩は、サイクルトレインでビクビクしてたって話じゃ無いですかw」

理樹「え?そうなんですか?」

樹「お、ちょ、待てぃ 誰から聞いたそれ」

大翔「僕のママが言ってたよ〜」

玄武「マジですかい先輩wwww」

樹「あの野郎…」

理樹「まぁまぁ…」

玄武「話変わるんすけど、先輩」

樹「んにゃ?」

玄武「これから1発どうですか?」

玄武が言う1発と言うのは昨日のリベンジ(女湯覗き)をしないかと言うお誘いだった。
昨日の結果は散々だった…何せ玄武は土左衛門になりかけたのだから。

樹「お前その誘い方はあかん、尻が痛くなる…」

真人「まぁ、玄武は普段からそっちの気があるから仕方ねぇよ。」

理樹「そうなんだ…僕もお尻に気をつけなきゃ」

大翔「そっちの気?」

樹「ヒロは知らんくてええんやで〜」

玄武「先輩は兎も角…お前ら今日寝る時覚えとけよ…後ろには気をつけるんやな」

理樹「う、うわぁ…」

真人「俺の筋肉で…」

大翔「???」


〜露天風呂(女湯)〜

みゆき「ねぇ、唯湖さん」

唯湖「む?どうした?みゆき君」

みゆき「どうすれば、唯湖さんのようにカッコいい女性になれるの?」

唯湖「私は別に格好良くなんかないぞ?」

葉留佳「またまたぁ姉御ったら謙遜しちゃって〜学生時代から男女問わず、人気があったじゃ無いですカ〜」

沙耶「え?そうなの?」

葉留佳「そっか、沙耶ちんはずっとお仕事してたから知らないんだったね…」

沙耶「そうね…今、こうやって皆でゆっくりできてるのが夢みたいだわ。」

沙紀「ママはずっと何のお仕事してたの?」

沙耶「それは秘密かな〜 沙紀がもう少し大きくなったら話してあげる」

佳奈多「本当、私たちの通ってた学校っていろんな人が居たわよね。」

葉留佳「そうですネ〜」

沙紀「どんな人が居たの?」

唯湖「そうだな。身近な人で言えば君のお父さんとお母さんは同じ学校出身だ。」

沙紀「パパとママが?」

唯湖「そうだ。お母さん達は全員同じ学校だったのだよ。」

由紀「へぇ〜じゃあママ達は幼馴染なんだね!」

唯湖「そうなるな。」

みゆき「ねぇ、お母さん。お父さんもお母さん達と同じ学校だったの?」

佳奈多「違うわよ。私と樹くんは…」

葉留佳「お、これはお姉ちゃんのお惚気馴れ初めタイムですネ〜 キタコレ!」

沙耶「興味深いわね」

唯湖「ほほう、気になるな。」ニヤリ

葉留佳「で、どうだったんですカ〜?」

葉留佳達に迫られて私は後ずさる…
その時、ふと嫌な視線を感じたのでその方向を見ると…

佳奈多「え、ちょ…あれ、え?樹くん!?」チラッ

樹「何で俺だけ名指しッ!?」  

理樹「逃げなきゃ…」スッ

真人「やべッ 見つかったぞッ」スッ

玄武「撤退しまっせ〜ッ」スッ

樹「あ、おいお前らッ…ぶへぇッ」バゴンッ

ヒューン ドポォォォンッ

葉留佳「あ〜あ、やっちゃいましたネ〜」

みゆき「お父さん…」

沙耶「理樹くんも居たわね…」

唯湖「ウチの旦那には昨日よりもキツイお仕置きが必要そうだな。」

由紀「マ、ママ?」

葉留佳「あ、姉御…?」

唯湖「少し出てくる」スタッ

葉留佳「き、消えた!?」

唯湖さんは立ち上がると瞬間移動するかの如く脱衣所にへと消えていった。

沙耶「理樹くん…」

沙紀「ママ?」

沙耶「大丈夫よ。沙紀、里沙〜」

里沙「うぶぶ〜っ」

沙紀「わっ…ママいい匂いがする〜」


葉留佳「大丈夫?お姉ちゃん」

佳奈多「大丈夫よ。まったく…最低ね最低…」

みゆき「まぁまぁ…お父さんだって悪気があった訳じゃ…ね?」

佳奈多「どうかしらね?後で説教よ」

みゆき「お母さん?顔が怖いよ…」

数分後…

玄武〔ヒィギャァァァァァァァァァァッ〕

松原くんの悲鳴が聞こえて来たのは気のせいだと信じたい。



         続く…





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