音速のドラ猫31

 

〜初夏 7月某日〜

〜某記念公園〜

ミーンミンミンミンミーン

蝉の鳴き声が本格化して数日…

玄武「来ましたよ…先輩…」スッ

俺は持ってきた花とお菓子を供える。
今日は珍しく、私服でもなければフライトスーツでも無い…制服だ。
それに…

由紀「パパ…ここはなぁに?」

玄武「ここはね…パパがお世話になった人が眠っている場所だよ…」

俺は由紀にそう伝える。いまいちピンと来ていないようだ。5、6歳の子に人の死を理解させるのは容易ではない…

由紀「ふぅん、そうなんだ…」

玄武「うん…温泉一緒に行った眼鏡かけたおじさんが眠ってるんだよ。」

由紀「そうなんだ!おじさんこんにちは!」

玄武「ッ…」

唯湖「玄武くん…大丈夫か…?」

俺は目頭が熱くなるのを感じていた。

玄武「だ…大丈夫だよ…ありがとう。」

由紀「パパ泣いてるの?」

唯湖「由紀、私と向こうで待っていよう…」

由紀「うん…」

玄武(ありがとう…唯湖。)

2人の姿が見えなくなると、俺は頬を伝うものがある事に気が付いた…涙だ…

玄武「先輩…早過ぎますよ…」

葉留佳「玄武くん…大丈夫ですか…?」

玄武「葉留佳…うん…大丈夫だ。何でもない」

俺は涙を拭った

祐介「やっぱ、お前達も来てたんだな…」

ふと後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声だ…

玄武「あ、高崎1尉 お疲れ様です。」

祐介「お疲れ様…なんか実感湧かないよな…今にもそこら辺から出てきて。「何しとん?」って聞いてきそうだよな…」

葉留佳「そうですね…本当にそう思います…」

祐介「これが、夢だったら良いのにな…」

玄武「ええ…そうですね…」

千景「乙女チックなのね高崎君、松原君」

柊甫「泣いてたら、笑われるでアイツに」

玄武「隊長、副隊長…」

祐介「そう言うお二人も、目が赤いですよ…」

柊甫「まぁね…切磋琢磨した仲間だしね。」

千景「そうね…」

玄武「そうですね…ところで、揖斐谷はどうしたんですか?」

祐介「強がって、家で泣いてたりしてな…」

柊甫「いんや、アイツならアラートや…」

祐介「あぁ…そうでしたか…」

玄武「基地のちり紙、大丈夫ですかね…?」

朋也「心配するとこそこかよ…」

祐介「あ、朋也…来たんだ…」

朋也「そりゃ世話になった人だからな来るさ…」

沙都子「未だに信じられませんわ…」

理樹「僕もそう思うよ…」

風子「風子も居ますよ…これを持ってきました。」

そう言うと風ちゃんはヒトデパン置いた。

理樹「良いのかい?風ちゃん」

風子「良いんです…せめてもの気持ちです…」

理樹「そっか… そういえば豊は?」

祐介「豊はトイレだ…」

理樹「とりあえず、草むしりからやりますか?」

千景「そうね…」

柊甫「よし、北条と伊吹はバケツに水を汲んでこい。高崎と松原で石を磨け、そのほかの手空きは草むしり 以上かかれッ」

全員「かかりますッ」

一通り綺麗になった後 俺たちは手を合わせた。

柊甫「黙祷ッ」

玄武(先輩…ゆっくり休んでください…)

祐介「先輩…うっ…うっ…」

朋也「お、おい祐介…」

柊甫「早すぎるで…バカヤロウ……」

千景「はい…柊甫くん」スッ

柊甫「すまん…ありがとう。」

豊「ふぐたいちょょぉう…えっぐ…えっぐ…」

風子(お世話になりました…)

沙都子(副隊長…)

葉留佳(お姉ちゃん達を遺して先に逝くなんて…樹くんは大馬鹿野郎です…)

1分後…

柊甫「黙祷やめ殉職された熊岡1佐に敬礼ッ」バッ

一同「…」バッ

✳︎自衛隊は職務中に殉職すると2階級特進 
副隊長の場合、3佐で殉職した為 殉職後は1等空佐(大佐クラス)になる。

柊甫「直れッ!」

佳奈多「今日は…主人のためにご足労頂きありがとうござました。主人もきっと喜んでいると思います…」

柊甫「こちらこそ、皆ご主人にはお世話になりましたからね。ありがとうございました。」

千景「以後の行動は各人で決めるよう以上解散」

全員「了解ッ」

副隊長の号令で三々五々に解散していく。
俺は暫く先輩の墓前に居た…理樹も同じ考えだったようだ。

玄武「帰らないのか?理樹」

理樹「玄武こそ」

葉留佳「お二人は帰らないんですか?」

理樹「ちよっとね…」

玄武「佳奈ちゃんに伝えんといけん事があるからね。葉留佳は先に戻っててくれ」

葉留佳「私も残りたい…」

豊「葉留佳、行こう。邪魔しちゃ悪いから」

葉留佳「う、うん…」

葉留佳さんは豊に連れられて駐車場へと戻る。
ちょうど赤ちゃんをみゆきちゃんに預けた佳奈多さんが戻ってきた。

佳奈多「それで、話って?松原君、理樹」

理樹「何から話せば良いのかな…」

玄武「佳奈ちゃん、単刀直入に言う…今回のこの事故は二木本家が関与している可能性がある。」

佳奈多「え、まさか…」

理樹「本家って…佳奈多さんの実家なんじゃ…」

佳奈多「そうよ…もしかして源蔵叔父様が…」

玄武「可能性の段階ではあるが…ほぼ間違いなく二木源蔵が関わっている。」

佳奈多「そんな…」クラッ

理樹「佳奈多さんッ」

佳奈多さんはその場で崩れ落ちた…

数分後…

玄武「大丈夫か…?」

佳奈多「ええ、大丈夫よ…少し落ち着いたわ」

理樹「本当に大丈夫?」

佳奈多「大丈夫、心配しないで。」

理樹「でも…何で玄武がそんな情報を?」

玄武「すまない2人とも…俺が話せるのはここまでだ。また、ことが進み次第報告する。」

そう言うと玄武は駐車場へと戻っていった。
副隊長が亡くなった事故…
あの事故は今から約1ヶ月ほど前に遡る…

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〜三沢基地 駐機場〜

祐介「先輩、考え直してくださいッ」

樹「と言われてもなぁ…女将からこれで訓練しろって命令受けてるし。」

祐介「そうだとしても、俺は反対です!揖斐谷、お前はどうなんだ?」

謙也「自分も反対です」

樹「そう目クジラ立てるなよお前ら…」

駐機場で副隊長と高崎1尉達が口論していた。
その理由は簡単だった…

つい先日、114飛行隊に配備された機体のテストを兼ねて副隊長が訓練するようだ。
その機体とは…

F-14R 〔トムキャットR〕

F-14DJをベースに改修された機体でレーダー等のアビオニクスが一新されている。
また、低速飛行でもストール(エンスト)を起こしにくいようにカナード翼が主翼の付け根付近に取り付けられている。
また、垂直尾翼も形状が変化しており米空軍の主力機であるF-22(ラプター)に近いものとなっている。

葉留佳「本当にアレ使うんですネ…」

玄武「みたいだな。」

理樹「なんだか違う戦闘機に見えるよ…」

豊「見た目はF-14でも中身は全くの別物さ…防衛技研本部は何を考えてんだか…」

新機体にいつもなら興奮するはずの豊がやけに不満を漏らしていた。
現に、この機体は噂じゃ欠陥機とさえ言われていた。

祐介「今からでも考え直してください!」

樹「祐介…俺は空では死なん。いつも言うてるやろ?やから心配すな…」

祐介「なら、俺も同乗します!」

樹「アホ、んな事したら誰が揖斐谷の面倒見るんな?俺は俺の与えられた任務を遂行する。お前はお前の仕事をやれ。ええな?」

祐介「はい…」

高崎1尉は渋々納得していた。
納得…?いや、諦めに近い返事だった。

〜駐機場〜

豊〔火器管制システム、航法装置、コンパス、各種レーダー異常なし system All clear〕

豊の機器類チェックが終わる。それと同時に僕はエンジンに火を入れた。

理樹「roger ignition…start!」カチッ
 (エンジン、点火ッ)

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥン

空気圧縮電源車が起動され、外部電源により僕の機体のエンジンが起動する。

理樹「15...30...65%」

タービンの出力計の針が上昇する。
僕はそれをハンドサインで地上にいる整備員に伝えた。

整備員〔roger  右エンジン、起動確認〕

理樹「次、左起動します。」ポチッ

キィィィィィィィィィィィィィィン

こちらもタービンの内圧が上がりレッドゾーンまで一瞬で上がった後、グリーンライン
(65%〜80%)で安定する。

整備員〔左エンジン起動確認〕

理樹「roger 外部チェック」

外部チェックとは…主翼、垂直尾翼、エアブレーキなどの動作を確認する事だ。

豊〔おい見ろよ。理樹〕

理樹「ん?」

豊〔副隊長のあの機体、外部電源なしで起動したぜ?APUの力って凄いな〕

理樹「そ、そうだね…」

APUと言っても僕は機械には詳しくないのでよく分からないが…
APU(Assist Power Unit)とは機体が外部からの補助電源を必要とする事なくエンジンを起動させることができる機械だ。
簡単に言えば発電機のようなものだった。
豊曰く…新たに配備されたF-14Rにはこれが装備されているらしい。

TWR〔Altair06 starting idol up taxy by a B2 〕
(アルタイル06 暖気運転を開始 誘導路はB2を使用)

理樹「roger Altair06」

TWR〔Altair02 cleared for take off〕
(アルタイル02 離陸を許可します。)

樹〔roger Altair02 〕

ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ

副隊長の機体がアフターバーナを焚いて全速力で離陸していく。それに続くように2番機の音無先輩も離陸していく。

僕達の乗る機体も滑走路の末端まできた。

豊〔final check clear〕
(最終確認終了)

理樹「roger」

TWR〔Altair06 cleared for takeoff runway16R〕
(アルタイル06 離陸を許可する。滑走路は16R)

理樹「roger Altair06」グッ

スロットルレバーを80%の位置で固定し、フットブレーキを緩める…期待が少しずつ動き出すのを確認した後、完全にブレーキから足を離す…

ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ

豊〔V1.....VR.....V2 positive〕

理樹「gear up」カチッ

ウィィィィィィン ガコッ

主脚が収納され、僕の駆る機体は大空へと舞い上がった。この後起こる事故を誰が予想しただろうか?



         続く…




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