音速のドラ猫30
〜北部SOC〜
部長「本当にLOSTしたのか!?よく探せッ」
オペレータ「り、了解ッ」
部長「状況はどうなってる!?」
あゆ「もう少し待ってください!」
北部防空司令所は騒然としていた。
さゆり「Altair. request situation」
(アルタイル、状況を教えてください)
祐介〔 Trello.緊急事態なので日本語で申し上げます。1番機が…熊岡3佐の乗る機体が…〕
さゆり「詳しい場所は分かりますか?」
祐介〔現在…39.65,141.01岩手県の雫石町上空 この付近に1番機が墜落したと思われる〕
さゆり「了解しました。詳しい状況が分かり次第連絡お願いします。」
祐介〔roger〕
部長「安村君!救援の状況は!?」
さゆり「現在、秋田基地の航空救難団及び松島基地より情報収集の為T-4が離陸しました。」
部長「了解、急がせろ。」
さゆり「分かりました。」
先程パイロットから連絡のあったポイントの座標位置を調べると…そこは
過去に凄惨な航空機事故が発生した空域付近だった…それは
〔全日空機雫石衝突事故〕
今から約50年程前に発生した自衛隊機と全日空機の空中衝突事故だ。
今回も民間機に?と私は考えてしまった…
T-4〔 Trello.thisis windy25 now
maintain angel15〕
(トレロ、こちらウィンディ25 現在高度15000ft)
松島基地を発進したT-4からの交信だ。
レーダー画面を確認するとT-4は岩手県と宮城県の県境付近である一関上空を飛行していた。
さゆり〔windy25 thisis Trello your under my Control stare 330 direct Matthew〕
(ウィンディ25 こちらトレロ 貴機を誘導します方位330 Matthewへ向かって下さい。)
T-4〔roger〕
Matthewとは花巻市上空を指す。
現在の速度は350kt あと数分で現場上空だ。
その時…
理樹〔 Trello!こちらアルタイル06 1番機の残骸と思われる部品を発見しました!〕
祐介〔どこだ!?リトルッ〕
理樹〔はい、え〜と…〕
結弦〔発見した!39.65, 141.00…慰霊の森公園から西へ1.5kmの位置だ!〕
部長「慰霊の森のすぐ側じゃないか…」
さゆり「状況はどうなってますか?」
風子〔最初に部品が見つかった場所から少し離れた場所に機体後部と思われる部品があります!辺りは焼け焦げていますッ〕
私は言葉を失った…
〜鹿角上空〜
事故が発生した直後、俺達は高崎1尉から基地へ帰投するように命じられた。
葉留佳〔樹くんが…樹くんが…〕
玄武「落ち着け葉留佳、今は取り乱しても仕方がない。兎に角…佳奈多ちゃんに一刻も早く…」
葉留佳〔分かってる!〕
玄武「す、すまん…」
葉留佳〔私の方こそゴメン…〕
玄武「もうすぐで三沢の管制下に入る。」
葉留佳〔了解〕
いつになく真面目な葉留佳だ。
20分後俺たちは基地へと降り立った…
機体を降りるやいなや俺達は病院へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
〜三沢病院〜
みゆき「お母さん…」ギュッ
佳奈多「みゆき…」
その時だった…
佳奈多「あああああああああッ!ウッっっっっッ!痛いッ痛いッ痛いッ!」ズキンッ
突如として周期の短い陣痛が始まった。
唯湖「佳奈多くん!頑張れッ!」
小毬「そうだよ!佳奈ちゃん! 樹くんももうすぐ来るよッ!」
みゆき「お母さん!頑張って!」
鈴「そうだぞッ!佳奈多お前なら出来るッ」
椋「佳奈多さん!頭が見えてきましたよッ!」
唯湖「もうすぐだぞッ 佳奈多くん」
みんなが私を応援してくれている。
待ってくれている…頑張る…
この子のためにも、私…頑張る
その時だった…
ガチャ …バンッ
葉留佳「お姉ちゃん!」
それと同時刻…
「オンギャーオンギャーオンギャーオンギャー」
元気な産声が手術室の中で響いた。新たな生命の誕生であった。
椋「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!佳奈多さん!よくがんばりました!」
小毬「おめでとう〜!本当におめでとうッ!」
鈴「頑張ったな!佳奈多ッ」
クド「おめでとうなのです!わふ〜ッ」
涙を流しながら祝ってくれる、鈴さんと小毬さん…そしてクドリャフカ
みゆき「お母さん!おめでとう!よくがんばったね!えらいえらい」
佳奈多の頭を優しく撫でるみゆき。
唯湖「佳奈多くんよく頑張ったな。一時はどうなるかと思ったが…母子共に健康だ。さっ抱いてあげてなさい。」
佳奈多「うんッ」
唯湖が目の端から雫を溢し、ニッコリと微笑みかける。
葉留佳「おめでどう!お姉ちゃん…ほんどうにおめでどう…!よく頑張ったね…ッ」
葉留佳は涙を流しながら祝福の言葉を贈る。
しかし、言葉とは裏腹に顔は深刻だった…
佳奈多「どう…したの?葉留佳」
葉留佳「お姉ちゃん…よく聞いて…」
佳奈多「うん…」
いつもふざけている葉留佳がいつも以上に真剣な顔つきになる。私は何かあったと察して心を落ち着かせながら話を聞いた…
葉留佳「実はね…副隊長が…樹くんが事故で…行方不明…なんだ…」
佳奈多「え、嘘…」
小毬「え…」
鈴「嘘だろ…?」
クド「わふ……?」
みゆき「冗談だよね…?お父さんが」
唯湖「………。」
その場に居た全員が口を閉じる。
先ほどの和やかな雰囲気は無くなり一気に重苦しい空気となる。
佳奈多「そんな…」パタッ
私はそこで意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜佳奈多の夢〜
あたりには何もない白い空間が広がっている。
ここはどこだろう…?
佳奈多「ここはどこ…? あれ?私、病院で女の子を出産してたんじゃ…」
⁇?〔大丈夫か?佳奈多〕
ふと聞き覚えのある声が後から聞こえてきた。
懐かしい声、私の好きな声…愛する人の声…
振り返るとそこには…夫である樹くんが立っていた。
佳奈多「樹くん!」
樹「わっ、ちょ…びっくりしたぁ。」
佳奈多「事故したって聞いたけど大丈夫なの!?何とも無いの!?」ギュッ
私は樹くんに飛びつき彼を抱きしめた。
樹〔何とも無いで。この通りピンピンしとるw〕
いつも通り関西弁で和ませてくれる樹くん
しかし…私はある違和感に気がついた。
佳奈多「ねぇ、樹くん?」
樹〔んにゃ?〕
佳奈多「どうして…下半身が透けてるの?」
樹〔……。〕
佳奈多「答えてよ!ねぇ!」
樹〔佳奈多…〕
佳奈多「何よ…」
樹〔今から言う事を絶対に守ってくれ。ええな?ゆびきりげんまんやからな?〕
佳奈多「藪から棒ね…」
樹〔これから先何があっても…強く…優しく
生きてくれ。俺の後を追おうなんてアホなことは考えんといてくれ… 子供達を頼む…。〕
スゥゥゥゥゥッ
そう言い残すと彼は私の目の前から消えた。
佳奈多「樹くん!?樹くーーーんッ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜病室〜
佳奈多「はッ…ゆ、夢…?」
目を覚ますとベッドの横には心配そうに私を見守る葉留佳とみゆきの姿があった。
葉留佳「大丈夫?お姉ちゃん…」
みゆき「お母さん…」
佳奈多「嫌な夢を見てたわ…赤ちゃんは?」
葉留佳「こっちで寝てるよ…」
赤子「………」zzzz
葉留佳「お姉ちゃん、どんな夢を見たの?」
佳奈多「樹君が出てきてね…」
みゆき「………。」
髪留めをしながら2人に話す。
葉留佳「………。」
佳奈多「ねぇ、どうして黙ってるの?」
葉留佳「お姉ちゃん…落ち着いてよく聞いてネ…樹くんがさっき息を引き取ったの。」
佳奈多「え…」
コロン…
私の髪留めが虚しく床に転がり落ちる…
佳奈多「嘘よ!だって…さっき」
みゆき「お母さん…ッ…ウッ…ウエッ…エグッ」
葉留佳「お姉ちゃん…ッ」
2人の涙を流す姿を見て私は現実に戻されていく…暗い闇の中に落とされそうな勢いだった…
佳奈多「そんな…」
後々、聞いた話によれば私が目を覚ます数分前に樹くんは息を引き取っており。
それが、私の目の前から彼が消えた瞬間と一致しており尚更現実を突きつけられた感覚だった。
彼はもうこの世に居ない…
佳奈多「名前考えてくれるって言ったのに…家族4人で一緒に幸せになろうって言ったのに…そんな…嘘だ…」
みゆき「お母さん…お父さんのね服から出てきたんだけどね…」スッ
みゆきが一枚の紙を手渡してきた。
それは、事故の影響か半分が黒く焦げていた…
その紙を広げると女の子ぽい名前がたくさん書かれてあり…その中の一つに大きく丸い印がされていた。
その名前は…
〔なゆき〕だった。
佳奈多「これって…」
みゆき「お父さんが最後に遺した物だよ…」
佳奈多「この子の名前…」
葉留佳「ッ………。私、外に出てるネ」パタン
葉留佳が病室の外に出る…暫くの沈黙
堰を切ったようにみゆきが涙を流す。
みゆき「お父さん…お父さんッ」
佳奈多「……ッ…ウッ……」
連られて私も泣いた…みゆきと2人して泣いた
続く…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?