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音速のドラ猫

 音速のドラ猫

ゴォォォォォォォォ


微かに聞こえる飛行機の音
空の高い所で伸びる一筋の飛行機雲

娘「パパ!見て〜 飛行機だ〜」

彼女は僕に飛行機を見つけたことを伝える。

父「あんなに高い所の飛行機雲を…よく見つけたね。」

僕は正直、驚いた。
僕でさえあの空高く飛ぶあの飛行機を視認するのは苦労すると言うのに…


声〔理樹くーん〜、沙紀〜 ご飯にするわよ〜〕

妻の声が聞こえてきた。僕はふと我に帰る

沙紀「どうしたの?パパ?」

理樹「なんでも無いよ。さ、ママの所に行こっか」

沙紀「うん!」

僕は沙紀の手を取り、妻の元へと歩いた。

理樹「ただいま。沙耶」

沙紀「ただいま〜ママ」

沙耶「お帰りなさい。2人とも さ、手を拭いてお昼にしましょ」

彼女は僕の妻である沙耶
とある諜報機関のスパイとして働いていたが僕との結婚を機に諜報機関を退職し現在は外務省に勤務している。

沙紀「わ〜ママのお弁当美味しそう〜」

沙耶「いっぱいあるから沢山食べてね。」ニッコリ

沙耶の作る弁当は栄養バランスが摂れており尚且つ彩も綺麗な弁当だった。
僕のお気に入りは彼女の作るハンバーグだ。

沙紀「うん!頂きま〜すッ」パクッ

理樹「頂きます。」パクッ

沙耶「ど、どうかしら?」

2人「おいし〜ッ」

沙耶「良かった。ふふッ…早起きして作った甲斐があったわ。」

理樹「沙耶、あまり無理はしちゃダメだよ?その…お腹の中には…」

僕は彼女のお腹に目線を落とす。
妊娠7ヶ月、性別は女の子

沙耶「ありがとう…理樹くん 」

理樹「沙紀の時は無理だったけど…今度は立ち会いが出来るようにするから…」

沙耶「ありがとう…でも、理樹くん貴方は貴方の任務を全うしなきゃ駄目よ?貴方は国防の最前線にいるのだから…」

理樹「うん…寂しい思いをさせてごめんね」

沙耶「大丈夫、私は1人じゃ無いわ。沙紀だって居るし、いざとなれば鈴ちゃん、小毬ちゃん、ハルちゃんだって居るし。」

理樹「そうだね。でも、無理はしないでね?」

沙耶「うん」(////)

国防の最前線での仕事…そう、僕は航空自衛隊のパイロットだ。

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ー航空自衛隊 三沢基地ー

青森県三沢市、ここに三沢基地は存在する。
この三沢基地は米空軍、航空自衛隊、民間機が使用しており管理は米軍が行っている。

F-14DJ戦闘機を運用し日本北部の防空を担っている第5航空団第114飛行隊に僕は
勤務している。

僕は…

直枝 理樹 2等空尉 TACネーム〔リトル〕

TACネームとは空で呼び合う愛称のようなものでパイロット一人一人の特徴を表したものや名前を英語読みにした物まで様々だ。
僕のTACネームの由来は身長が低いことから付いたらしい?現に僕は167cmしかない…

???「どったの?理樹 朝から暗い顔して」

その時、1人の男に声をかけられた。

理樹「あ、おはよう。玄武」

玄武「おはよう。何かあったん?」

理樹「ううん、なんでも無いよ。」

彼は …
 松原 玄武 2等空尉 TACネーム〔ピクシー〕

僕と同期で、三沢に来る以前は百里の501飛行隊でRF-4EJに乗っていた。
唯湖(旧姓 来ヶ谷)さんと結婚しており1人娘の由紀ちゃんが居る。

玄武「そっか。なら、ええんやけど」

理樹「玄武、今日はアラート?」

玄武「そうなんよ、せっかく唯湖と俺の結婚記念日やから久しぶりに夫婦水いらずキャッキャムフフな事しようと思ったのに…チッ」

理樹「玄武…欲望が滲み出してるよ…」

玄武「つい俺としたことが…」

ガチャッ

???「おはよ〜ッス」

理樹「おはようございます。先輩」

玄武「おはようございますッ 」

???「おはよう。2人とも早いね」

玄武「そうですかね?」

いま、僕らが挨拶したこの人は…

音無 結弦 2等空尉 TACネーム〔カナデ〕
僕達の一期上の先輩で航学(航空学生)の時に
お世話になった。普段から温厚で、114飛行隊のツッコミ担当?でもある。
奥さんは救難隊に所属している奏さん。
ツッコミ担当だが物静かでクールな人だ。

???「まぁ、そう固いこと言うなよ結弦」

結弦「あ、おはようございます。祐介さん」

理樹「おはようございます。高崎1尉」

玄武「おはようございま〜すッ」

祐介「おはよう。皆」

高崎 祐介1等空尉 TACネーム〔エルモ〕
高身長で誰に対しても優しい、前髪で目が隠れておりエロゲの主人公のような人だ。
以前は百里の302飛行隊で勤務していた。
奥さんと娘さんが居る。飛行班長と仲が良い

祐介「ん?どうした?理樹、俺の顔に何か付い
てるか?」

理樹「いえ、何でもありませんッ」

祐介「そうか。そういえば先輩…いや班長を見てないか?」

理樹「班長ですか?」

玄武「そういや今日はまだ見てないですね。」

結弦「寝坊…ですか?」

???「ここに居るわよ」

ふと、後ろから声がした。振り向くと班長が立っていた。

玄武「おはようッス!先輩!」

理樹「おはようございます!班長!」

樹「おう。元気か皆の衆」

祐介「探しましたよ。先輩」

樹「俺を探しよったん?」

祐介「はい。先輩に飛行計画を確認していただきたくて…」

樹「ほーい」

班長こと…

熊岡 樹 3等空佐 TACネーム〔ミーシャ〕
班長は高崎1尉と同じ百里基地の302飛行隊に勤務していた。当時は百里の妖怪乗りの鉄板コンビとしてF-4J乗りの間では有名だった。
機種転換訓練を受け三沢に来た。
奥さんは僕達と同じ学校で風紀委員長を務めていた佳奈多さんだ。


???「お〜揃ってるか〜?」

結弦「おはようございます。副隊長」

玄武「おはよう御座います!」

理樹「おはようございますッ」

樹「お〜おはよう 柊甫」

柊甫「おう。皆若いねぇ」

樹「いや、俺ら同い年。しかも、アンタまだ32
じゃないの…」

柊甫「確かにw」

安村 柊甫 3等空佐 TACネーム〔ジャック〕

熊岡3佐と同期で以前は新田原の23教育飛行隊で訓練教官として勤務していた。
空に上がると口調が荒くなり、飛行学生の間ではデビ(悪魔)と呼ばれているのはここだけの話だ…奥さんは神出鬼没で気づいたらそこに居ると言う特技を持つ…さゆりさん(旧姓 遊佐)だ。

柊甫「あ、そうそう。今日は隊長が出張で不在だから。何かあれば俺に言うてきてくれ。」

理樹「あれ?隊長はどこ行かれたんですか?」

樹「頭」

理樹「へ?」

玄武「www」

祐介「また始まった…」

理樹「え〜と…頭?」

結弦「出た出たw班長の言葉遊び」

理樹「どう言う意味ですか?」

玄武「ちょい、考えてみ」

理樹「ふ〜む……」

僕はしばらく考え込んだ…そして

理樹「あ、なるほど!」

全員「遅ッ!wwwww」

このように114飛行隊は和やかに朝を迎える。

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08:00 国旗掲揚後

柊甫「おはようッ」

全員「おはようございますッ」

柊甫「今日は隊長が不在の為、私が隊長代理だ。何かあれば私のところまで来るように。それじゃ気象士、WBを始めてくれ。」

気象士「分かりました。おはようございます」

全員「おはようございます。」

気象士「本日の天気図はこのようになっています。日本海を中心に低気圧が覆っているため訓練エリアD4〜E2は曇天または雷雨が予想されます。」

各自メモをとりながら気象士の話を聞いている
先ほどの始業前の和やかな雰囲気とは打って変わり、全員が真剣な目つきとなる。

気象士「続いて台風の動きです。台風13号(ニコル)は現在、沖縄の南160km 南大東島付近を時速10km/hでゆっくりと東へ進んでおります。三沢及び訓練空域に再接近するのは明後日午前3時ごろとなっております。」

季節が夏から秋に変わる頃、日本では台風が頻発する。今日、僕たちが訓練する空域も午後から天気が崩れる予報となっている。

理樹「訓練が終わる頃には天気が崩れるな…」

玄武「ああ、大幅に飛行ルートも変わるね」

理樹「豊、天気図を気象コンピュータにインプットしておいて。」

豊「OK、後で武器管制システムリストにも目を通しておいてくれ。」

理樹「うん、分かった。」

彼は 緑川 豊 2等空尉 TACネーム(グリン)
僕と玄武の同期で、僕のRIO(迎撃士官)を務めている。高崎1尉とは同じ高校の先輩、後輩の関係にあたる。

玄武「この天気やと…訓練組も大変やけど、アラート待機も面倒な事になるな。」

理樹「そうだね 玄武のペアは誰なの?」

玄武「今日は班長と待機だな」

理樹「熊岡3佐なら安心だね。」

そうこう話しているうちに、気象ブリーフィングが終わった。

柊甫「これでブリーフィングを終わる、各自飛行前のブリーフィングに移ってくれ。」

全員「了解ッ」

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ーブリーフィングルームー

理樹「直枝2尉、他一名入りますッ」

豊「入りますッ」

僕と豊がブリーフィングルームに入室すると
既に岡崎1尉と北条3尉が居た。

朋也「来たか、理樹」

沙都子「おはようございますですわ」

理樹「おはようございます。岡崎1尉、沙都子さん 今日はよろしくお願いします。」

豊「よろしくお願いします。」

朋也「おう。ま、そんな固くなるなよ。今日はお前のウィングマンに徹するから。よろしくな」

理樹「はい!」

沙都子「それでは、飛行前BFを始めます。本日の訓練空域は佐渡沖200km地点D5エリアにて行います。仮想敵機役はジャック組とカナデ組です。」

朋也「安村さんと結弦の所か…」

理樹「この2人は鉄壁ですね…」

沙都子「制限時間は20分、相手の背後を取った方の勝ちですわ。」

豊「使用できる武器はサイドワインダーと機関砲のみか…えらく限定的だな。沙都子、この訓練の目的は?」

沙都子「あくまで、今回は戦闘機同士の格闘戦を重点的に訓練しようと考えておりますわ」

豊「なるほど」

朋也「ま、気楽にやろうや。」

理樹「はい!」

豊「了解ッ!」

沙都子「了解ですわ!」

朋也「それじゃ、装具をつけて機体に搭乗ッ
以上、指示した通りカカレッ」

3人「かかります!」

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ー 三沢基地 駐機場ー

僕と豊はGスーツを装着し酸素マスクとヘルメットを持って駐機場に出た。

僕のヘルメットには個人のTACネームと114
飛行隊のエンブレムでもある猫のシルエットが描かれている。

キュィィィィィィィィィィィィィンッ

甲高いエンジンの音が鳴り響く

豊「やっぱF-35は独特のエンジン音だよなぁ、F-15やF-2に比べて音が高いよ。」

理樹「流石…マニアだね。僕にはちっとも分からないよ。」

沙都子「不思議な能力ですわね」

朋也「俺もそう思う」

今日、搭乗するのは105号機で航空自衛隊に
5番目に配備された機体だ。
尾翼には、114飛行隊のエンブレムであるドラ猫が描いてある。

理樹「おはようございます」

整備員「おはようございます!」


整備員と挨拶を交わし まずは機外点検を行う。
僕は時計回り、豊は反時計回りで機体の周りを一周し空気取り入れ口、パイロン、主脚、主翼、アフターバーナーノズルなどを点検する。

理樹「異常なしッと」

豊「乗り込むか」

理樹「うん」

機体に乗り込み、整備員のベルト装着補助を受け、僕は身を引き締める。いよいよだ…

各計器類の電源を入れ、各種計器点検を行う。一方、後部座席の豊は同時進行で武器管制システムやGPS装置、気象光学装置の点検を行う。
そして 整備員にコンプレッサー(空気圧縮機)を起動してもらいエンジンに火を入れる。

キュィンキュィンキュィンキュィンキュィンキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

背後でけたたましくエンジンがうねる。

「warning engine FIRE warning engine FIRE

engine FIRE right engine FIRE right 」

コクピットの音声アナウンスが鳴る。
右手のハンドシグナルで右エンジン出力を示す。10% 20%...50% 徐々に出力が上がりエンジン音も甲高い音へと切り替わる。 左エンジンも同じ要領でスタートさせていく、エンジンの起動後 
ラダー、フラップ、エアブレーキ、エンジンノズルなどの動作を確認する。

確認終了後、タワー(管制塔)と交信する。
2機以上でフライトする場合、TACネームではなく114飛行隊のコールサインを使う。

理樹「TWR this is Altair06 request taxy」
〔タワー こちらアルタイル06 誘導路知らせ 〕

TWR〔Altair06 this is TWR  taxy by E2 runway 25R wind 260 at 5  
cleared for take off〕
〔アルタイル06 誘導路はE2,滑走路25R風は方位260から5m 離陸を許可する。〕

理樹「roger Altair06」

朋也〔roger 04〕

僚機を務める岡崎1尉も無線に応答する。
離陸許可を受け機体を滑走路の端に滑り込ませ
最終確認を行う。

豊〔final check clear
〔最終確認クリア〕

理樹「cleared for takeoff Altair06」
〔アルタイル06 離陸する〕

朋也〔04〕

ゴォォォォォォォォォォォォォォ

スロットルレバーを80%の位置で固定し足元のフットブレーキを緩める…徐々に加速し機体が滑走を始めた。岡崎1尉も続くように間隔を置いてエンジン出力を上げる。
空港設備や景色が勢いよく遠ざかり瞬く間に僕の駆る機体は離陸した。


        続く…







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