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〔台本〕三毒三巴 作:吉谷しな

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主題歌
https://twitter.com/nene_himari/status/1391661988841811968?s=61&t=L8649_aLKU3v184OND2hLQ



前置き

横浜で情報屋を営む鷹司の元に現れたのは一人の少女。セーラー服を纏い、高慢な態度でキンキンとがなりたてる彼女の通学鞄の中には縄とゴム手袋、その他諸々。そう、彼女は裏社会で有名な殺し屋JKー!?三人の殺し屋の三つ巴の戦い、三毒三巴。いさ、上演。

登場人物

(女)蛇:ワガママでお子ちゃまなJK殺し屋。
(男)豚:寡黙で多弁な殺し屋。伊藤。
(女)鶏:貪欲でがめつい殺し屋。
(男)鷹司:嫌味で胡散臭い情報屋。警察兼ね役
(女)給仕:鷹司の元で家事をこなす馬鹿。警察兼ね役

上演時間

30分ほど(声劇で)

本編

0:ホテルのスイートルーム、男性の死体がひとつ、そして一人の男が立っている。
0:照明暗いまま
豚:あぁ、頭が重い。
豚:足先に迫った血を避けた。
豚:虚な瞳がこちらを、いや、後ろの壁、そのさらに奥を見つめている。
豚:「見つめている」
0:明転
豚:いや、彼女ならこんな言い方はしないだろう。
豚:ただ瞳孔がこちら側に向いているだけ、かもしれない。
0:ベッドに腰掛ける
豚:「罪人は死ぬべきだ」
豚:「恨まれるに値する人間は、死ぬべきだ」
豚:どうして、殺されなければならなかった?
豚:不細工なツラをしたやつだった。
豚:下らない動機だった。
豚:あの豚みたいな顔が尚更憎たらしかった。
豚:人と呼ぶことすら烏滸がましいような…
0:風が窓を揺らす
豚:「ホテルの一室には鼻を削がれた肢体がゴロリと転がっている。喰い荒らされたソレは微動だにせずじっと聳え立つ。
豚:『ヒュルリ。』
豚:不気味な風音が耳を掠めた。」

0:場転
0:オフィスの一室。机を挟んで鷹司と蛇。

蛇:だーかーらー!そんなことはどーでもいーの!
       豚の正体を教えろっつってんの!情報屋でしょ?

鷹司:駄目だ

蛇:どーして!!

鷹司:さっきも言ったけれど、彼は僕の顧客でもあるんだ。親を殺されて憎いのは分かるけど、殺してもらっちゃ困るんだよ。

蛇:鷹司、あんたの客なのは知ってんのよ、だから聞いてんの!

鷹司:彼は情報の仕入先でもあるんだ。しかも彼は殺し屋だよ。君と同じね

蛇:だったら何

鷹司:もし君が失敗して、情報を渡したのが僕だなんてバレたら

蛇:私が失敗するわけないじゃん!

鷹司:…君の腕の良さは知ってるよ。もうあちこちで『蛇の仕業だ』『蛇にやられた』って聞くし

蛇:ならいいじゃない!あたし、失敗しないから

鷹司:あのね。失敗しなかったら成功じゃないんだ。君が失敗しなくても、豚が上手くやるかもしれないだろ、嫌だよ。情報屋はリスクを負わない。

蛇:あんた詐欺師でしょ?リスク負いまくりじゃない頑張りなさいよ

鷹司:詐欺師だけどギャンブラーじゃない。リスクは微塵も負いたくない。

蛇:ふん、警察に追われるようなことしてる奴がよく言うわ。

鷹司:追われる?この僕が?

蛇:はぁ?

鷹司:だって僕、警察に情報プレゼントしてるから

蛇:……私の情報流したりしてないでしょうね?

鷹司:はははははは!まさかぁ〜

0:鷹司の首根っこを掴む蛇

蛇:そのキショい喋り方止めなさいよ

鷹司:ぐっ…暴力はよくないと思うなぁ、苦しい。
   首、離してくれないかな

蛇:私が人殺す人間だってこと忘れてない?

鷹司:僕を殺したら、いよいよ蛇さんは警察に捕まってお終いだ。

蛇:あんたやっぱり…

給仕:キャーーーーーーーーーー!!!

蛇:っ?!

鷹司:痛っ…急に離すの止めてくれな…

給仕:鷹司さん!

鷹司:なんだい

給仕:一体何したんですか!

鷹司:へ?

給仕:こ、高校生?中学生?に首絞められるなんてやばいじゃないですか!

蛇:は?

給仕:よっぽどなにか怒らせるようなことしたんでしょう?未成年はダメだってあれほど…ごめんなさい、鷹司さん悪い人じゃないの…

蛇:…………

蛇:(猫なで声)ごめんなさい。私もムキになってしまって。

蛇:鷹司さんも、ごめんなさい…

鷹司:(鼻で笑う)

給仕:なにか失礼なことされてません?大丈夫?

蛇:えぇ、大丈夫です、お気遣いなく。

給仕:ならよかったぁ。

給仕:(小声)鷹司さん、この子は?

鷹司:客だ

給仕:あらお客さま?!こんな小さなお客さまは珍しいですね

鷹司:はは…そうだね。お茶をお願いしていいかな。

給仕:はいはーい!ただいま〜

0:給仕退室

蛇:……あの女、私の事小さいって言った?

鷹司:言ってない言ってない

蛇:言ったよね?

鷹司:…ま、格好からして仕方がないんじゃないか、制服だし小さくも見えるだろ。若く見えるってことだ、喜びなよ。

蛇:実際若いから喜ぶもクソも無いんだけど。
  しかもオッサン、未成年はダメってあんた何してんの?

鷹司:いやまぁ、僕ってハンサムなほうだし。そりゃホットな話題の一つや二つ…

蛇:きしょ

鷹司:最近の子って上下関係とか習わないのー?僕、年上なんだけど

蛇:歳とってんのにきしょいことしてたら尚更きしょいだけでしょ

鷹司:(無視して席を立ちソファーに移動する鷹司)

蛇:それで、豚の情報は何がなんでも渡さないわけね。

鷹司:そうだね、どうしても渡せない。親の仇なのは分かるけれど、ダメだ。すまないね。

蛇:すまない…ね、頭と口が別のところにあんのね。

鷹司:ごめんごめん。代わりにサツに流す君の情報、少なくしとくから。

蛇:絞め殺すわよ

鷹司:殺し屋が言うと洒落にならないね

蛇:ふん、お代は無しね

鷹司:ここ時間制なんだけど?

蛇:情報よこさなかったくせに何生意気いってんの?

鷹司:はぁ、君と揉めるのは嫌だな。今回だけタダでいいよ。学生割引ってことで…

蛇:当たり前よ。じゃね。

0:蛇と入れ替わるように給仕入室

給仕:…あれ?お、お茶は…もうお帰りですか?

鷹司:あぁ、見送ってやってくれ

給仕:かしこまりました!

SE:扉閉まる音

鷹司:これだから業界ルールがわかってないクソガキは…
   …はぁ。何にイラついてる?

0:机に反射する自分の顔に目をやる鷹司

鷹司:オッサン…かなぁ。

0:長めの間
0:給仕、下手入り。

鷹司:どうだった?彼女

給仕:どうって…可愛らしいお嬢さんですね。あの子はどうしてここへ?

鷹司:なんか悪態つかれたりしてないかい?

給仕:悪態…?いいえ、ちっとも。

鷹司:(小声)…すごい徹底ぶりだな

給仕:徹底…?

鷹司:いや何も。猫かぶるのも大変そうだなって思って。

給仕:??へぇ〜

鷹司:でも、ま、あんな聞き方なら豚…伊藤も勘づいてるだろうな。

給仕:ぶ、豚?伊藤さん?晩ご飯のお話ですか?

鷹司:はは。なんでもないよ。…夕飯は~(陽気に)しゃぶしゃぶにしようか〜!

給仕:おお〜いいですねぇ!じゃぁ私買い物してきますね〜!

鷹司:いってらっしゃ〜い!
   ……さて、どうなることやら。

0:長めの間

0:場転

鶏:どうしても殺されてくれないの?

豚:はは、ごめんだね。美人のお願いはききたいところだけれど

鶏:アナタそんな反吐が出るようなセリフ言えたのね

豚:まぁね。気分はどう?褒められてなかなかいいんじゃない

鶏:最悪ね。依頼失敗だなんて、涙が出ちゃいそう。女の涙なんて見たくないでしょう?
死んでちょうだいっ(ナイフで切りかかる)

豚:ごめん、ね(避ける)

鶏:(再度切りかかるが豚に手首を掴まれる)ぐっ…あなたどうせ生き延びてもすぐ噛み殺されちゃうでしょうし、蛇ちゃんに。

豚:蛇ちゃん?

鶏:知らないのォ?蛇ちゃんよ。最近ちょっとした有名人なの

豚:知らないなぁ、どんな人なのかな?

鶏:これから死ぬのに知る必要あるかしら?

豚:僕、あまりにもこの業界について知らなすぎるんだ、教えてよ。

0:鶏の手首を捻ってナイフを落とす豚

豚:知って死ぬのと、知らないまま死ぬの、前者の方が遥かにいいだろう?

鶏:そうかしら、どうせ死ぬなら同じでしょ。

豚:諦めてはくれないみたいだな。…君はなんのために殺しなんてしてるんだ?

0:肘で豚の腹をつく鶏

豚:がっ…

鶏:ふん、答える必要ある?

豚:…はは、人生最後の会話を楽しませてよ。

鶏:大金が手に入るからよ。私、毎日会社に行ってブッサイクな上司から叱られるのとか嫌いなの。

豚:逆にそれが好きな人っているのかな

鶏:あなた本当によく喋るわね。殺し屋なのに、もう少し寡黙になれないの?

豚:はは、これでも焦ってるんだよ。
  君、なかなか力強いね。

鶏:そう?特に何もしてないけれど。
たまたま殺しの才能があった。努力せずとも大金が手に入る仕事が目の前に転がってきたら…やるでしょ?人殺すだけで何の苦もない生活ができんのよ?
あなたもそんなものでしょうどうせ

豚:そんな浅い理由で人を殺せてたまるかよ

鶏:怖い顔。あなたそんな正義感だとか罪悪感だとかある人間だったの?

豚:僕は不誠実な人間が本当に嫌いなんだよ。

鶏:確かあなたのターゲットって犯罪者…だったかしら?小耳にはさんだわ、警察の手に負えない犯罪者を始末してくれるから人を殺しても罪にならないだのなんだの…

豚:へぇ、知らないところで僕はそんな聖人になっていたのか。

鶏:あら違うの?

豚:僕はただ、依頼を選んでいるだけさ。あまりにも理不尽だったり、勝手だったりする依頼を受けてないだけだ。
『この世に必要ない』と思った人間を殺してる。

鶏:ふっ、あなたは神様か何かなのかしら?あなたの裁定一つで生死がきまるなんて…殺しの依頼なんて大抵が理不尽なものじゃない?逆恨みとか…

豚:はは、そうかもね。それでも僕は選ぶよ。ところで君は金のために人を殺してるんだっけ?

鶏:ええそうね

豚:じゃあ僕を殺すよう依頼してきたやつより金を払ったらやめてくれる?

鶏:そんなのでいちいちやめてたら殺しなんて仕事にできないわ、知ってるでしょ?

豚:あぁ、君が依頼放棄なんてしても結局別の人が殺しにくるだろうね。そして失敗した君も殺される

鶏:なんだ、知ってるじゃない。

豚:でも君は一つ大事なことを忘れてる。

豚:僕が凄腕の殺し屋だってことを。

鶏:忘れてないし知ってるわ。

豚:僕が依頼主より金を払って、依頼主を殺せば、解決しない?君もナイフを振り続けるの疲れただろ

鶏:『聖人』のあなたにできるかしら。そしてさっき言ったでしょ、この場を切り抜けても蛇ちゃんが殺しにくるって

豚:金はどうとでもなるし依頼主も必ず殺すよ。君、今、僕を殺すメリットほとんどないよ

鶏:ええそうね

豚:じゃあなんではっきりと『やーめた』って言わないんだい?

鶏:悔しいからよ

豚:素直に負けを認めなよ。

鶏:………

豚:………

鶏:ええそうね……

鶏:私の負け…だわっ(切りかかる)

豚:っっ!!ふぅ、

鶏:……はぁ。

鶏:ダメね。やっぱり無理。強すぎるわあなた。慣れてる。

豚:はは、照れるね

鶏:…はっ
で、何、話してあげるわよ。金くれんならね。

豚:誘いをさんざん引き延ばしておいてその口ぶり…僕が君を殺さないという確信はどこから来てるのかな?

鶏:何、やる気?

豚:…

鶏:今までので全部わかるわよ。殺す気ゼロだもの。大方あれでしょ、女子供は殺せないとかそういうの。

豚:正解。

鶏:時々いんのよね~…なんなのそれ?なんかトラウマあり?

豚:…

鶏:図星?

豚:いや……単純に死体処理がめんどくさいんだ。女ものの服とか捨てるの難しいし、ま、ほかにもいろいろ。

鶏:ふぅん。うちのとこだと死体処理専属の人間がいるけど、一人だとそうもいかないのねぇ、不便。

0:顔色をうかがう鶏

鶏:ま、それだけが理由とも思えないけれど…一番の理由は前者でしょ、ちがう?

豚:さぁ?さて、話を戻そう。金は払う、依頼主も殺す。手早い解決で助かるね。依頼主は誰かな?

鶏:(目をじっと見て)良かったわね、依頼主が女じゃなくて。高橋。

豚:高橋…あぁ、この前依頼してきた、あの高橋か。情報はどこにも漏らさないって言ったのになぁ…信用できなくなっちゃったのか…。
信じてさえいれば殺されずに済んだのに。約束を守れない人間は殺すにふさわしいね。

鶏:駒を信用出来ない人間て、本人が信用の足りない胡散臭いやつなことが大抵よねぇ…ホント、迷惑しちゃう。
この職業をやってて良かったと思えるところ、今気づいたわ。人を見る目が養える。

豚:ははは、でも君も救われたんじゃない?そんな依頼主なら君もいずれ…

鶏:別に、よくあることだし対処できるわ。それに殺し屋は殺し屋を殺さない。ネットワークがあるから

豚:…じゃあ僕はネットワークがないから殺されそうになってたのか…金銭のやりとりのいざこざが怖くて一人で活動してたけど、それが仇になったかぁ…

鶏:蛇ちゃんについては聞かないのね

豚:教えてくれるの?

鶏:えぇ、金…と言いたいところだけれど、依頼人殺す前にあなたが殺されたら困るし。
蛇、本名は新戸うさ(しんどうさ)。16歳の女の子。

豚:うさちゃん?可愛い名前だね、それなのに通り名は兎じゃないんだ。

鶏:絞め跡が蛇みたいだからというのと…あなた三毒って知ってる?

豚:貪・瞋・癡(とん・じん・ち)だろう?

鶏:その瞋が彼女なのよ。

鶏:彼女は怒り狂ってる、憎しみまくってる。彼女はお金とか依頼とかそういうのはどうでもいい。ただ憎い相手を殺してる。

豚:ふぅん。殺し屋というより大量殺人犯か。

鶏:そうね。そして貪瞋癡(とんじんち)の瞋を司る生き物が蛇なの。だから蛇。殺し屋の通り名にしては由来が随分と洒落てる。
加えて、彼女が一番恨んでるのはあなたよ、豚。

豚:その『豚』っていうの気に入らないなぁ

鶏:しょうがないでしょ。あなたが殺した死体の鼻、全部削がれてて豚みたいな鼻になってるんだもの。それ以外に特に噂も殺しの共通点もないんだから

豚:僕は伊藤っていうんだ

鶏:あっさり教えるのね

豚:盟友になりたくて

鶏:犯罪者が盟友…?笑えるわね

豚:で、僕はなんでそんなに蛇ちゃんに嫌われてるのかな?

鶏:蛇ちゃんの親をあなたが殺したからってきいてるけど?

豚:親…新戸(しんど)…新戸……

0:手帳をめくる

豚:あぁ!

鶏:あなたまさか、今までの依頼全部書き留めてるの?

豚:当たり前じゃないか。今の世の中情報戦だよ。金を払わなくてもなんでもスマホで調べられてしまうから勘違いしている人が多いけど、情報は形が決まってないからこそ客観性と主観性とが大事なんだ。経験はちゃんと自分の言葉で綴っておかないといけない。現代で勝つか負けるかの分かれ道だ

鶏:めんどくさ…。で、思い出した?

豚:あぁ、思い出した。新戸。地元の少年達とグルになってドラッグの売買をしてた、けど裏切って少年達は院に、収益は独り占め。出所した少年達からの依頼だったな。みんなで依頼金だしあって頼んできてさ…いやぁ、涙ぐましい……。
少年達がでてくるころにはもう新戸も足を洗っていたけれど…焼印は消えないからね、改心していたところ申し訳ないが殺させてもらった。

鶏:…でも彼女からしたら、あなたはたった一人の父親を殺した殺人鬼でしかないのよ?

豚:だからなんだい?君は人を殺す時、いちいち相手の生き様とかを考えて仕事をこなすの?

鶏:いいえ?

豚:だろ?家族の話になった途端人って甘くなるよね…結局人は人なのに

鶏:女子供は殺せないとかいうあなたが言うことかしら?

豚:はは…考えてみたらおかしな話だ。ちょっと知り合いに電話させてくれ

鶏:私にも聞こえるようになら、どうぞ

豚:もしもし?

鷹司:…伊藤か。なにかな、今夕食中なんだけど

豚:少し聞きたいことがあって、蛇って知ってるかい?

鷹司:、いや知らないな

豚:嘘だね絶対知ってる。「へび」を知らないって、そんなわけないだろ

鷹司:おっと、しくじったな

豚:知らないふりをするってことは”蛇ちゃん”も鷹司の客なのかな…

鷹司:…はぁ、……そうだよ。君についての情報を求めてきた

豚:やっぱり?珍しいね鷹司がそんなにあっさり客の情報を…

鷹司:いや、なかなか腹立つガキでさぁ

鶏:ぷっ

鷹司:ん?今女性の笑い声がしたけど

豚:あぁ、えーと、…君の名前って何?

鶏:あんま言いたくないのよねー。ニワトリ

豚:ニワトリ?

鷹司:鶏って、あの?

鶏:さすが情報屋。知ってるのね。

豚:へぇ、やっぱり有名人なのか。

鷹司:なんであの鶏と一緒にいるんだい?

豚:ちょっと殺されそうになって

鷹司:へぇ、君も大変だね

豚:そしておまけに蛇ちゃんにも殺されそうと来た。そこで頼みがある

鷹司:聞くだけ聞こう

豚:蛇ちゃんに嘘の情報を流してくれないかな

鷹司:嘘の情報?

豚:あぁ、詐欺師だろ?なにかでっち上げて、彼女の恨みの矛先をずらしてくれよ

鷹司:詐欺師だけど、作家じゃないんだ。でっち上げなんて無理だよ、できない

豚:じゃあ僕の情報を流してよ

鷹司:君の?

豚:あぁ、明日、午後三時に横浜のベイシェラトンにいるって伝えといて

鷹司:それなら……わかった。

豚:よろしく、じゃあね。また。

鶏:あなた、高校生の女の子の呼び出し先がシェラトン?

豚:いや、僕は行かないよ

鶏:え?

豚:言っただろう。女子供は殺せないんだ。しかも蛇ちゃんは女で子供だ。最悪だ。

鶏:じゃあどうするのよ。

豚:君に依頼。

豚:蛇ちゃんを、殺してくれる?

鶏:………私にガキを殺せって?

豚:だめかな

鶏:いくら

豚:五百

鶏:…いいわよ。やってあげる。盟友だからね。

豚:え、まさかワンコインでやってもらえるとは。代金、今手渡していいかな。

鶏:…クソみたいなジョークね

豚:にしても意外とあっさりだね。蛇ちゃんは凄腕の殺し屋なんじゃないの?

鶏:ふん、突然若い女が業界に入ってきてチヤホヤされてるだけでしょう。
どの世界でもそう、大抵初めは『若い』『女』のキーワードで売り出してしばらくしたら廃れんのよ

豚:なんだか知ったような口ぶりだね、もしかして昔のき(みのこと)?

鶏:(遮って)それ以上口開いたら破棄するわよ

豚:ごめん、もう何も言わないよ

豚:じゃ、明日の三時、横浜へ。よろしくね。盟友の鶏さん。

0:場転

給仕:お久しぶりですね伊藤さん

豚:お久しぶり

給仕:緑茶でいいですか?

豚:ええ。

鷹司:それで?結局伊藤は約束の場所には行かないわけか
…ふざけるなよ…僕に嘘の情報流させやがって

豚:鷹司は悪くないでしょう?嘘をついた僕が悪い。

鷹司:相手がそんな事情いちいち知るわけないだろ、俺が嘘をついたのと同じだよ

豚:どうせ死ぬんだ。嘘つかれようがつかれまいが関係ないさ。

鷹司:えっ、死ぬ?

豚:あぁ、がめついニワトリさんに蛇の駆除をお願いしたんだ…

鷹司:駆除ねぇ…蛇と鶏なら、蛇が勝ちそうだけれど

豚:それは動物の話でしょう?

鷹司:どうだか…

SE:電話の音

鷹司:電話、蛇からだよ。駆除失敗かな。

豚:ストップ。

鷹司:ん?

豚:いいんだよそれで。出ないでくれるかな

鷹司:これででなかったらいよいよ僕の命が危ないんだけど

豚:出ないでくれ。命は僕が保証する。

0:電話の音止む

鷹司:またなにか策でもあるのかな

豚:策なんて大したものじゃないさ

0:電話番号を自分の携帯に打ち込む伊藤

SE:携帯電話の音

豚:もしもし…

0:場転

蛇:っざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんな鷹司!!!
嘘じゃねぇか!!誰よこの女……ふざけんじゃないわよ…また……また余計なの殺しちゃったじゃない…早く豚が死んでくれないと、私は、…『コレ』を止められない……くそっ

0:鷹司に何度も電話をかける蛇

蛇:なんで出ないのよ…鷹司……許さない…許さない………豚にばっかり贔屓して…『客は平等』だなんてどの口が…

警官1:(鷹司兼役)動くな!

蛇:っ?!

警官2:(給仕兼役)警察です。殺人容疑で現行犯逮捕します。新戸うささんですね?

蛇:な、なにこれ…

警官2:拘束して

蛇:うっ……!はなせ!!なんで、なんで…なんで私が捕まるのよ?!

蛇:ちょっと…きいてる?普段ちんたらして殺人犯一匹もろくに捕まえられない奴らが!どうして私なのよ…豚を捕まえなさいよ!!豚を!!彼を捕まえられず、死刑にもできなかったヤツらが、なんで私を捕まえようとするのよ!仇をうとうとしただけじゃない…なんでこっちの問題に介入してくんのよ!!!!

0:長めの間

0:場転

豚:これで全て解決だ。

鷹司:ずるいね伊藤は。

豚:どうして?飴と鞭は使いよう…だろ。警察の動かし方くらいわかるよ。鷹司、君にできることは僕にでもできる。
警察なんて正義の集団じゃないんだ。ただの職業団体に過ぎない。
みな人間だし、みな一様に恨みとか、怒りとか、憎しみとか、嫉妬とかを抱き、簡単に殺意を抱く。今生き残ってる殺し屋は大体、警察との付き合い方を心得てる。
ただ、蛇ちゃんは残念だったね。子供だからまだ社会のことなんて分からなかったみたいだ。いいお勉強になったんじゃないかな。
憎しみや怒りは斬り捨てて理性的に生きないと、相手を間違えると酷い目にあうってことを。
哀しくても、辛くても、憎くても、飲み込まないと進めない。
怒りを原動力に生きるのは不幸だからね。僕には無理でも、君ならできるだろ。
せっかく、若いんだし。

0:(終)




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