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〔台本〕心理的アノミー 作:吉谷しな


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あらすじ

殺しのテーマは爆殺。高らかに叫びながらマズルフラッシュばりの弾ける笑顔。後ろには眉間に皺を寄せて蹲る殺し屋、否、掃除屋。天才児×才女の最強タッグの生い立ちとは?


─登場人物─


鴼:バレットとタッグの人を殺せない殺し屋。読書が好き。女

バレット:虐待されて育ったため倫理観の欠如が見られる。鴼とタッグ。銃の天才。男

─本編─


0:目の前には荒らされた死体

鴼:どうして…

バレット:あん?

鴼:もっと綺麗にやれっていってんじゃん

バレット:ヤだね。俺の殺しのテーマは『爆☆殺』だ!

鴼:あのねぇ…私はアンタの親じゃない。こうやって”お世話”できるのもいつまでか…

バレット:俺は一度だっておめェに傍にいてくれなんて頼んだ覚えはねェよォ

鴼:じゃあ離れてあげようか。あんた捕まるよ。

バレット:…捕まんねぇよ。『オエライサン』とやらが守ってくれんだろ?

鴼:いいえ?

バレット:はあああ?前と話が違ぇなァ

鴼:あんたっていつもそうよねー、私がABCを話したらそのうちのCだけ覚えてんの。

バレット:はァ?

鴼:A,BがあってこそのCなのに、Cだけ覚えてるのが お・ま・え

バレット:なァ知ってるか

鴼:何を

バレット:例え話って、話をわかりやすくするために使うんだぜェ。話をわかりにくくするために使わねェよ。

鴼:嫌な奴。つまり私の話が分かりにくいって?

バレット:あァ分かりにくい。

鴼:都合のいい解釈すんなってことだよバカ。

バレット:じゃあてめぇはどういうカイシャクをご希望なんだ?

鴼:オエライサンは無条件に私達を守らない,ってことをわかっとけってことよ。

バレット:じゃあどういう条件なら守ってくれんだよ。

鴼:…オエライサンが消したい人間を私達が消す。その謝礼として、やってきた犯罪、やる犯罪全部見逃してもらう。

バレット:それだったらお前がいるいねぇカンケーねぇだろ

鴼:無理

バレット:どォーしてだよ

鴼:アンタの殺し方は汚い。だからもし私が消えれば、アンタの後始末するやつを新しく手配しなきゃいけない。アンタはタッグがいないと絶対に殺し屋業なんてできないから、どうせ一人雇うんなら、綺麗に殺せる殺し屋一人雇って、アンタを見捨てた方がいい。

バレット:それなら俺ら二人をクビにして新しく一人雇えばいいじゃねぇか。

鴼:そうね

バレット:じゃあどーしてそーしねェんだ?

0:沈黙

鴼:…あんたが優秀だから。

バレット:優秀ゥ?俺に世界一似合わねぇ言葉じゃねェ?

鴼:あんたって容赦ないじゃん。

バレット:容赦かァ……容赦ってなんだ?人殺しに容赦も何もねぇだろ。

鴼:あるんだよねそれが。…あんたは殺し屋業に就く奴ってどんな奴だと思う?

バレット:知らね

鴼:少しは考えろ

バレット:考えるのが嫌いなんだよ

鴼:はぁ。
結構、普通の人達なのよ。私もこの業界に入る前は、バレット、あんたみたいなのばっかりだと思ってた。
でも実際は違う。普通に家庭を持ってたり、パートナーがいたり、親がいたり、バイトしてたり…ふとした時に大金が必要な状況に追い込まれて、ちょうどタイミングよく、「人を殺せば大金が手に入る」って話が舞い込んでくる…

バレット:ほーん、カワイソ

鴼:他人事ね

バレット:お前言ってたよなァ、神の意思って。

鴼:言った。よく覚えてたね、本の話なんか。

バレット:そんなタイミングよく事が進むわけねェだろ。大方、『全部決まってた』んだろ?

鴼:…。

バレット:金が必要な状況に追い込んだ奴と、仕事を提供した奴、…一緒だろどーせ

鴼:ま、そりゃそうよねー。

バレット:オエライサンってのは何でもかんでも思い通りにできて、羨ましいかぎりだなァ〜…俺もオエライサンがいいんだけどなァ

鴼:ルールを作るのはオエライサン、ルールを変えるのもオエライサン。ならオエライサンがチートになるのは当然でしょ。

バレット:ふーん

鴼:この世はオエライサンの為の出来レース。

バレット:でもオエライサンだって頑張ってオエライサンになってんだろ?

鴼:ぅーん、まぁ、そういう場合もあるかもだけど。大体は血筋じゃん…?。例えば…あんた藤原氏って知ってる?

バレット:んぁ?フジワラシ…?

鴼:飛鳥時代から続く貴族で…

バレット:アスカ…地上絵?

鴼:それはナスカ。なんで地上絵は知ってんのよ。

バレット:紫ヶ崎の部屋に写真があったんだよ

鴼:…飛鳥時代っていうのは大体1500年前くらい。

バレット:1500年前…へーあん時代とかか?

鴼:飛鳥っていってるでしょうが、平安より前よ。平安より200年以上前。

バレット:ほーん、んで、そのワラワラシがどーした

鴼:藤原氏。あのねぇ、私とあんたは漫才コンビじゃないの、いい加減にして。わざとやってるでしょ

バレット:ん???

鴼:……もういいや。んで、今の権力者、大きな会社を持ってる人とか、政治家とか…ま、大体血筋を辿ると藤原氏なの

バレット:へぇ…、興味ねぇな。

鴼:なんでよ、歴史の神秘とか感じないわけ?

バレット:大体、こんな長い時間生き残ってきた血筋なんて、元を辿ればそりゃ同じになるだろーよ、ちげぇか?

鴼:…………

バレット:なんで黙るんだよ

鴼:腹立つー(小声)

バレット:は?

鴼:…………片付け終わったから、行くよ。

バレット:んぁあ????俺の話は無視かよ

鴼:無視はしてない、返事はしてないけど

バレット:それ無視っていうんだよ

鴼:うっさいバカ

バレット:はぁ??馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!!ばーーーーーか!!!!!

鴼:うっさい大きな声出すな馬鹿。殺し屋としての自覚をもて馬鹿、目撃者を作るな馬鹿!

バレット:んぐ……

鴼:突然素直なのが気持ち悪い

バレット:(頷く)

鴼:はぁ。
あんたも持って!…よいっしょっと。はい、車乗って。

バレット:(頷く)

鴼:…もう車乗ったから声出していい

バレット:ぶはぁ!!!

鴼:なんで息も止めてんの?

バレット:はぁ…はぁ…おう。

鴼:ドヤ顔すんな。なんでよ。

バレット:わかんねぇけど止めちまった。

鴼:もういいわ、ツッコミいれんのもめんどくさい。

0:鴼、車を走らせる

鴼:それで?あんたはなんであんな殺し方しか出来ないのよ

バレット:あんな?

鴼:死体いっっつもぐっちゃぐちゃじゃない。穴だらけ。せっかく銃で一発でしとめられる腕を持ってんのに、どうして私が来るまでに死体をいじっちゃうの?

バレット:ンァー…俺、人殺しは平気だけどよー

鴼:うん

バレット:死体を見るのはヤなんだよなー

鴼:は?

バレット:は?

鴼:ぇ、…いや…………

バレット:だから、人を殺す瞬間は好いんだけど、殺したあと、死体がこっち見てくんのがヤなんだよ。

鴼:死体が見てくるわけないじゃん

バレット:るせぇな、見てくんだよ。

鴼:こないよ

バレット:くんだよ!!

鴼:…何キレてんの?

バレット:……だから、潰しちまうんだよ。潰しちまったら、人間っつーより、ただの…血と肉の塊だ。形を壊したら、物だ。ただの。

鴼:へぇ。…じゃあ、別に破壊衝動とかじゃなくて、単にあんたが辛いだけなのね。

バレット:辛いぃ?……

鴼:え?人を殺すのが、辛いんでしょ。

バレット:…………ァァ?

沈黙

バレット:そうかもな。辛いのかもな。


0:長めに間

0:回想
se:場転がわかるような何かしらの演出を加えた法が良いと思います

0:鴼、死体の処理中

鴼:あんた、ふざけてんの?

バレット:はァ?

鴼:どーして死体こんなにすんのよ

バレット:るせぇな。俺は殺すだけ、片付けんのはてめぇの仕事だろ。

鴼:そうだけど!あんたに仕事増やされてこっちは迷惑してんのよ。それに被害者も可哀想でしょうが

バレット:(遮り気味に)可哀想?おめェ馬鹿か?

鴼:はぁ?

バレット:人殺しといて可哀想そうたァ一どういう事だ?人間は死んだらただの塊だ。物だ。壊そうが何しようが、何も変わらねぇだろ。

鴼:変わるわよ。

バレット:何が?

鴼:私の心情が

バレット:知ったこっちゃねぇな。

鴼:なにそれ、タッグなのに随分と自分勝手ね

バレット:じゃあ俺と一緒に行動すんの辞めりゃいいじゃねぇか。

鴼:それは……

バレット:できねぇんだろ?なら俺のやり方に口出しすんな。

鴼:なによ、誰が好きでお前と一緒にいるもんか、やめてやるわ

バレット:できねぇことを言うなよ

鴼:できるって!

バレット:できねぇよ。だってお前は、人殺せねェかんな。

鴼:…っできる。

バレット:できねぇよ。できねぇからいつも、俺にやらせんだろ?

鴼:…

バレット:だからって別にどうってこたァねェけどよ。グチグチ言うな。俺が殺す、お前は片付け。それでいいじゃねぇか。お前は俺がいなきゃ成り立たねぇんだろ?人を殺せない殺し屋、お前、有名人じゃねェか。
”無能”って

鴼:殺せるわよ!

バレット:お前に残された仕事なんて、俺のオテツダイサンくらいだよ。

鴼:殺せるってば!!!!

バレット:ボスだって知ってんぞ。お前が人殺せないこと。

鴼:……

バレット:なのに一緒に仕事してる俺が分からないわけねェだろうが。

鴼:…前は…やれたのよ。

バレット:ヘェ

鴼:でもバレット、あんたのせいで出来なくなっちゃったのよ

バレット:ェ、俺?

鴼:私の苗字、紫ヶ崎っていうの。

バレット:紫ヶ崎…?

鴼:そうよ、あなたに銃を教えた紫ヶ崎。あなたに殺しを教えた紫ヶ崎。

0:ハッとするバレット

バレット:お前、紫ヶ崎のガキ?

鴼:……

バレット:あ、もしかしてシガサキのサキからとって鴼(サギ)なのかァ?

鴼:それもあるけど、私は騙す方の詐欺からとった。騙しているから、鴼。

バレット:騙す?誰を

鴼:組織の人たち、かな。
  私、貴方を殺すためにここ入ったの。

バレット:…ほぇ〜。初耳だなァ。

鴼:誰にも言ったことないもの

バレット:でもそれを今言っちまうってあたり、、、…んだよなァ?

鴼:そうね。

バレット:じゃ構わねぇよ。続けろ、仕事。

0:作業を再開し、しばらくして話し始める鴼

鴼:まぁ、元々、大して殺す気もなかったんだろーね。あんたのこと。

0:何も話さないで様子を見つめるバレット

鴼:ただのよくある嫉妬だったのよ。特別な殺しの才能なんて持たなくても”娘”だった私により、他人である銃の天才児に時間と愛情を注ぎ込む父親が、憎かったのかも。

バレット:…

鴼:父親に試されてるって思ったら銃なんてとても撃てなかった。上手くやろうと思えば思うほどダメになる。
…あなたに、やきもちを妬いていた。

バレット:ヤキモチねぇ

鴼:家でも口を開けばバレットバレット…父さんが名前付けたらしいじゃない、バレットって。

バレット:そうだな、俺の名付け親。

鴼:(鼻で笑う)…よく殺せたね。親のこと。

0:驚くバレット

バレット:なんだ、殺したかった理由は嫉妬とか言うからてっきり知らねぇと思ったら、知ってんのか。

鴼:(震え声で)どうだった、親を殺した気分は

バレット:ァ〜?どうって、別に。人だろ、ただの。普段たくさん人殺してんだ。親だからとか、友達だからとか、女だからとか、子供だからとかねェよ。人は人だ。依頼が来りゃ殺す。
俺は悪くねぇぜ、依頼したやつが悪い。

鴼:論理、倫理、めちゃくちゃなんだけど。

バレット:そうかァ?悪いのは手を下した奴じゃねぇだろ、殺意を持ったやつだ。
処刑の時、首切り役人は悪くねぇよ、首切りの責任を追うのは死刑にした奴だよ。

鴼:それがあなたの論理なわけね。

バレット:お前の父ちゃんの受け売りだよ。

鴼:…ッ、じゃあ依頼人は誰よ。

バレット:紫ヶ崎だよ。

鴼:馬鹿にしてるの?

バレット:してねェよ。紫ヶ崎本人が『俺を殺せ』って金渡してきたんだ。

鴼:…それは、それは銃が撃てなくなったから?

バレット:そうじゃねェか?理由なんて知らねぇけど…

鴼:……

バレット:お前さっき俺にヤキモチ妬いてたって言ってただろ

鴼:…言ったわね

バレット:見当違いだと思うぜェ

鴼:どうして?

バレット:紫ヶ崎は俺のこと大事になんて思ってなかった

鴼:そんなことない、言ったでしょ、口を開けばバレットバレッ……

バレット:(被せ)バレットじゃねぇよ。俺は。俺の本名を奴は知ってた。それでも一度だって俺を名前で呼んだことなんてなかった。

鴼:…

バレット:奴が好きだったのは、俺じゃなくて、銃だろ。
そして、大好きな銃が撃てなくなった時に、自分を撃ち殺してくれる弾丸が欲しかっただけだ。

鴼:…

バレット:…

鴼:ひとつ聞いてもいい?

バレット:ぁんだよ。

鴼:どうして、ぐちゃぐちゃになんてしたの…?父さんを殺す時でさえ、顔が分からないくらいに、弾丸を撃ち込んだの?

バレット:…殺し方の指定なんてされなかったから、いつも通りにやった。

鴼:…………そう。
  ……………………いつも通りに……(涙が滲む)
  いつも通りに……?

バレット:なんで泣いてんだよ

鴼:分からない?

バレット:分かってたら聞かねぇだろ馬鹿か?

鴼:馬鹿はお前だろ!(叫ぶ)

バレット:(眉を釣り上げる)

鴼:父親の顔を潰されて、大丈夫なわけないでしょ…自分より大事にされてた弟子が、父親を殺した、それだけで信じられなかったのに……あの死体は…………

バレット:…顔を潰すのって、悪ぃことか?

鴼:……悪いことでしょ…………

バレット:俺には到底わからねェ心理だな、それは。

SE:雨音フェードイン、カットアウト
0:長めの間 回想終了

鴼:へぇ。…じゃあ、別に破壊衝動とかじゃなくて、単にあんたが辛いだけなのね。

バレット:辛いぃ?……

鴼:え?人を殺すのが、辛いんでしょ。

バレット:…………ァァ?…そうかもな。辛いのかもな。

鴼:ふぅん。

0:沈黙

鴼:それってつまり、罪悪感があるからでしょ?

バレット:罪悪感?

鴼:自分では気づいて無いかもしれないけど…あんた小学校行ってた?

バレット:流石にな

鴼:なら分かると思うけど、クラス全体が説教される時なかった?

バレット:あった

鴼:その時、『辛い時』と『辛くない時』ってない?

バレット:ンァー、あった、多分

鴼:そういうことよ。

バレット:どーゆーことだよ

鴼:『辛い時』ってのはその説教の内容が自分に関することだったり、思い当たる節があったりするわけよ。逆に辛くない時は全く無関係の時。違う?

バレット:んぁ〜?そうだったかもな?

鴼:実際、死体に見つめられてる訳でもないのに、『見つめられてるように感じる』っていうのは、罪悪感でしょ。

バレット:そっかァ?それって同じ話か?

鴼:じゃあもっとわかりやすい話をする。

バレット:初めからそれ言えや

鴼:うっさい。
私シラスが嫌いなの。

バレット:シラス?

鴼:魚の。小さい頃から、理由は分からないけど、どうしても嫌いだった。
でもある時、たまたま出会った文章を読んで、納得したの。
『俺シラスってやだな。だってあいつら、食べようとしたら一斉にこっち見てくんだもん』

バレット:見るかァ?

鴼:解釈力ないな。シラスをあんたが殺した人に置き換えてよ。
私はシラスがこっちを見てくると感じる。
それは、なんて言うか、命のむさぼり食い感がして、嫌で。
『こんなに沢山一度に食べて、命を使って、ごめんなさい』って気持ちがなんとなくあるから、そう思うわけ。
でもあんたは見られてると感じない、それはシラスはシラスだから、食べ物としてしか捉えてないから。
食べる罪悪を感じていないから。

バレット:ほーん

鴼:そして、死体に対して、私は死体がこっちを見てるなんて思わない。
それは私が殺した訳じゃないから、あくまで死体は死体で、私はそれを処理するだけだから。もしくは家業としての慣れかもしれない。
対してあんたは実際に手を下してる。
死体に見られてると感じるのは、何かしら殺す罪悪感があるからでしょ。

バレット:ほぉ〜……

鴼:きっとそう。

0:長い沈黙、いまいちよく分からなさそうなバレット

鴼:…父さんの時もそう?

バレット:んぁ?

鴼:私の父さんを殺す時も、辛かった?

バレット:…知らね。

鴼:は?…

バレット:おめーの話、難しくてよく分かんねぇ。

鴼:…

バレット:…?

鴼:…(ため息)。(舌打ち)。

se:車の止まる音
se:信号の音楽

バレット:…?あ、俺ここで降りるわァ。用事。

SE:車のドアが開きすぐに強く閉まる音

鴼:ちょ…あぶなっ…

鴼:はーーーーーーっ(長いため息)。そーゆー奴だよね…あんたは。

(終)


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