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〔台本〕陽の光は残照を置いて


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─登場人物─


内藤:どこか達観したような女の子。陰キャではないけど陽キャでもない。友達は少なめ。性別不問。語尾変更可能。当台本は女性想定で書きました。

今井:かわいい女の子。陽キャのはずだが…?

所要時間


20〜30分ほど

─本編─


(内藤):夕日が教室の窓から差し込み、風になびくカーテンの影が黒板の上にのる。
規則正しく並んだ机は斜陽に照りつけられて熱く、椅子から立ち上がるために置いた掌を暖め、じっと、放さない。
期末テスト直前だというのに、週番の係に割り当てられてしまった。学校が閉まるまで校舎に残って帰っていない生徒を追い出し、教室に鍵をかける仕事。
三人いるはずなのだがどうしてか。二人とも急用とやらで帰らなければ行けなくなったらしい。
野暮用の間違いではなかろうか。
最早、用すらないのでは?
そんなわけで、私はこんな時間まで教室に残らなければいけないのだった。
別に学校でも期末テスト対策ぐらいできる。愚痴を零すほど困る仕事でもない。
ーーーーー
内藤:誰かいますか〜…いない……なら電気消して、窓も閉めてよね…ったく。…誰かいます〜?……高二Cも大丈夫っと……次は高二D……少し離れてるんだよなぁ…



内藤:誰かー…って、今井さん。まだ居たんだ。あと五分で校門閉まっちゃうけど…

(内藤):声をかけた瞬間、伏せられた長いまつ毛から、大きな瞳がこちらを向いた。
きょとん。という文字が頭の上に乗っかっているような顔をして。

今井:えっ…こんなに門閉まるの早かったっけ?

内藤:期末テスト前だからね、部活がない分、いつもより二時間早い。

今井:あー、…そうなんだ、失敗したなぁ。家で勉強できないから学校でやろうと思ったんだけど、そっか、期末前は早く閉まるのか。

内藤:うん、今まで期末前どうしてたの?

今井:駅前のカフェでやってたの。でも今改装中でさぁ、だから。

内藤:なるほどね、それは残念……

今井:ほんとに残念……

沈黙

内藤:……あのさ

今井:ん?

内藤:一緒に帰らない?私週番なんだけど、係の人は裏口からでるんだ。校門閉まってるから。そしたら私が先生に報告して帰ってくるまで勉強できるよ。

今井:……んー、いい…かなー

内藤:えっ…あ、そう

今井:うん、勉強はもういいや、でもあなたと一緒に帰る。

内藤:そっか…あ、うん?あー、うん、分かった。終わるまでもう少しかかるけど

今井:うん、帰る準備して待ってる。

ーーーーーーーーー

今井:あー、誰かと帰るの久しぶりだなぁ

内藤:いつも一人なの?

今井:最近は1人だなぁ…あ、別にぼっちじゃないからね?

内藤:はは、分かるよ。今井さん人気者じゃん。

今井:え、私のこと知ってるの?

内藤:知ってる。知らなきゃ一緒に帰ろうなんて声掛けづらいよ。

今井:なんだ、てっきり知らない人とでも会話を続けて帰路につける特殊スキルをお持ちなのかな?と

内藤:そんなスキルないよ…

今井:私、今井です。

内藤:……うん、知ってる。

今井:ちがーう!あなたの名前を知りたいの!ずっと『あなた』って言ってたのに、この流れで『名前わからないのかな?』ってなんで察してくれないの!

内藤:あ、ごめん。内藤と申します。え、去年同じクラスだったのに覚えてなかったの?

今井:内藤ちゃんね、おけおけ。

(内藤):そう言って彼女は目の前の石をすこんと蹴り飛ばした。石はアスファルトを蹴り、数回飛んだ後、青いプリウスのタイヤにぶつかった。

今井;うわぁー!!!!

内藤:うわびっくりした。どうしたの?

今井:いや、見たでしょ?!あと少しで車にぶつかっちゃう所だった、危ない危ない。これから石蹴るのやめよ。

内藤:……うん、…やめた方がいいね

今井:そっけなーい。内藤ちゃんアイス好き?

内藤:えっ?

今井:アイス、好き?

内藤:…うん、好きだけど」

今井:じゃあコンビニよろ。私が奢ったげる、200円以内ね!

内藤:懐が深いのか浅いのかよくわからないけど、ありがとう。

今井:そこは『ありがとう』だけでいいじゃぁん、そんなんだとモテないぞ!

内藤:いいよモテなくても

今井:お?強がり?

内藤:本当に要らないんだって

今井:まぁ、わかるけども。

SE コンビニ入店音

今井:何にしよっかな〜ハーゲンダッツにしよっかな〜

内藤:私もハーゲンダッツにしよ

今井:え゛っ?200円以内じゃないじゃん

内藤:いいよ、自分で出すから

今井:ムム……いいよぉ、ハーゲンダッツでも。裏口入学ならぬ裏口出学させてくれたお礼だ…受け取りたまへ……」

内藤:あ、ほんと?ありがとう

今井:遠慮ってものが無いなぁ

内藤:するだけ損でしょ

今井:正直でいいと思う

(内藤):そう言うと今井さんはハーゲンダッツのクリスピーサンドの袋の端をつまんで、ローファーの音をコツコツとどこか楽しげに鳴らしながらレジへ向かった。今井さんは1万円札をだして、買い物前より分厚くなった財布を携え戻ってきた。

今井:はいこれ、内藤ちゃんの

内藤:ありがと。

今井:んー!うま!このサンドのやつ好きなんだよねぇ…

内藤:私も好き

今井:誰かとアイスを食べるのも好きだぁ

内藤:え、そうかな?

(内藤):沈黙……。パキッとアイスを噛む音が横から聞こえて、今井さんの方を見た。瞬間、アイスの欠片が溢れた。

今井:あっ……落ちちゃった

内藤:……

今井:んー、いやね。私仲間外れのD組だからさ。

内藤:うん?

今井:高二の中でD組だけ校舎離れてるでしょ。」

内藤:あーね。

今井:そのせいで、なんか一人になっちゃった。

内藤:へぇ?

今井:なーんかみんな冷たいよねぇ!高一の頃に仲良くしてたグループの中で、私だけD組になっちゃって。そしたら帰る時も、お昼休みも、一人になっちゃった。あんなに仲良かったのに、校舎が離れただけで会いに来てくれなくなってさ。部活仲間はもう既に別のグループいるし…

内藤:へぇ、去年あんなに賑やかだったのに。同じクラスの子と帰んないの?

今井:うーん、帰る時もあるけど…別に一人嫌いじゃないし、無理して誰かと帰ろうとはしないかなぁ。仲良しグループのいる校舎に行ったりもしたんだけど……なんかね、仲間外れな感じがしちゃって……

内藤:仲間外れのD組だからね

今井:だからね……うん、しょうがないっちゃしょうがないよねぇ!あっちだってわざわざD組来るのめんどくさいだろうし」

内藤:まぁ結局、その程度の仲だったんでしょ

今井:……

内藤:あっ……今のって…………失言…?

今井:失言ってやつだよ。

内藤:あー……ごめん

今井:いいよ、事実だし。

内藤:……友達とかそんないないから、よくわかんなかったや

今井:うん、いなそう。

内藤:はは…それも失言じゃない?

今井:じゃないよ。いなそうだもん。

内藤:怒ってる?

今井:ちょっと

内藤:ごめん

今井:いいよ……結局、友達でいたいっていうより群れていたかっただけなんだろうね。『私は独りじゃありません』っていう証拠みたいなもの。仲良しグループって、そんなもんだよね。」

内藤:そんな感じする。

今井:これは今急に思ったことなんだけどさ。きっと私たち同類だよね。

内藤:一緒にしないでよ

今井:冷た

内藤:なに、アイスが?

今井:いやどう考えても内藤ちゃんが

内藤:私がか

今井:なんつーか。内藤ちゃんはさ、話してて陰キャって感じではないんだよ。

内藤:陰キャじゃないしね

今井:でも友達いないでしょ

内藤:ゼロじゃないよ、ちゃんといる。

今井:なんというかさ、その感じが似てるんだよ。

内藤:へぇ?

今井:無理してないじゃん。私たち。友達作るのとか、群れるのに、無理してない。友達のハードルが、高いのかな。

内藤:全然わからない

今井:ぅうん、言葉が上手くまとまらないけど。……友達はいるけど、友人はいない……みたいな。

内藤:あー。あー?

今井:まぁいいんだよ。アイス食べ終わった?

内藤:ん。帰ろうか。

今井:帰ろ。最寄りどこ?

内藤:南船橋。京葉線。

今井:あぁ〜路線別だ。駅までだね。

内藤:ん

今井:どしたの、手なんて差し出して。一人で立てるよ?

内藤:違うよゴミ、アイスの。捨てるから。

今井:あぁなんだ、ありがと。

内藤:どういたしまして

今井:よっこいせ。

S E:着信音

今井:あ、電話。喋りながら歩いてもいい?

内藤:いいよ、もちろん

今井:あんがと。もしもーし、うん。いや、今帰ってる途中。期末終わったら?うん、いいよぉ。うん、じゃーね、ばいばい。

内藤:早いね

今井:うん、彼氏から

内藤:彼氏いたんだ

今井:いるよぉ、私可愛いからさ、モテちゃうんだよ。

内藤:本当に可愛いからちょっと腹立つ。

今井:何照れる。

内藤:いやでも、友達は作ろうとしないのに、彼氏はいるんだ。それこそ彼氏と帰ればいいのに。

今井:うーん。多分あいつ私の事、好きじゃないし。近いうちフラれんじゃないかな。

内藤:どうしてそんな

今井:いや、向こうから告白してきてさ。あんまりよく知らない人だったけど、悪い人ではなさそうだったから、いいかな〜って思って付き合ったの。でも時々一緒に遊びに行くぐらいで、特に何も無い。多分あれだね、私と付き合いたいんじゃなくて、彼女が欲しかったってだけのやつ。

内藤:…キスとかしてないの

今井:えっち。

内藤:いや気になったから

今井:してないよ。一回そういう雰囲気になったけど拒否っちゃった。

内藤:へぇ、彼氏かわいそ

今井:えぇ、男の味方すんの?

内藤:そういうものでしょ、男って

今井:そうかなぁ。一回目のデートでキスされそうになったらさ、怖くない?

内藤:あー…それは怖い…というよりキモい、かも…

今井:怖いもんだよ。結構。なんかね……そういうことしたいだけなんだろうなって、思ったよ。

内藤:ふぅん。…さっき私達似てるって言ったでしょ。

今井:言ったね

内藤:全然似てないよ。

今井:……そっか。似てないかも。

内藤:じゃ、私路線こっちだから。またね。

今井:…うん。またね、楽しかったよ。『友達』みたいで。

内藤:私も楽しかった、『友人』みたいで。

(内藤):日が落ちて、肌寒い駅を歩く今井さんの後ろ姿を横目に見つつ、改札へ向かう。自販機のお茶でアイスの甘ったるさを喉奥に流し込む。上手く出なかった言葉も一緒に流し込んで。彼女は違う、私とは違う。私は一人で、彼女は、独りだ。

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