初恋は妄想の味
初めて異性を意識したのは小学四年生の頃だった。
しかもその日は突然何の前触れもなく訪れた。
相手の女の子のことを毎日少しずつ好きになったということではなく、それまで全く意識下になかった存在が、ある日を境に明確に意識下に入ってきた感覚。
前日までは、私はクラスの中でもお調子者でふざけて笑いをとる立ち位置だった。
今もって何が面白いのか全くわからないが、「おら、おら、オラウータン」と歌いながら猿の真似をするのがとにかくよく受けた。
あのまま甘やかされて直進していたら全くツマラナイ人間になるところだった。危なかった。
ところが、ある日を境に「なんて私は恥ずかしいことをしていたのだ」と突然冷静になり、まるで別人のように静かで真面目な少年になった。
それと同時にクラスメイトのアイちゃんが突然猛烈に気になり始めたのだ。
アイちゃんは背が高くてスラッとしていて、目がくりっとしたえくぼの可愛い女の子だった。
天真爛漫で、周りの女子たちが急激に大人びていく中、パンツが見えるのも気にせずジャングルジムを駆け回り、体育前に着替える際も堂々と上裸になるような少し変わった子だった。
そこから2年間、私は密かにアイちゃんを想い続けた。
学校にいる間は常に視界の端でアイちゃんを追いかけていたと思う。
アイちゃんが給食当番の時によそってくれるご飯は格別美味しかったし、アイちゃんが運動会のリレー選手に選ばれた時は赤組ではなくアイ組を1人応援していた。
5年生の林間学校ではフォークダンスで手を繋ぐことを一丁前に期待したりもした。
6年生になりメガネをかけ始めたアイちゃんを見て自分もメガネになりたいと暗いところで本を読むようになった。
そして特に何のアクションも起こさないままに小学校を卒業した。
アイちゃんは地元の中学に進学し、私は片道1時間かけて別の中学に通い始めた。
中高一貫の男子校だったので、そこから女子と縁のない6年間の始まりだった。
アイちゃんとの時間が止まったまま卒業してしまったので、6年間私はアイちゃんのことを想い続けることになる。
これだけ好きだったのに、実はアイちゃんの家がどこにあるのかも知らなかった。
だから私は会いたくてもアイちゃんの家に突然押しかけるような真似はできなかった。
結果、アイちゃんと会うのは毎日妄想の中や夢の中だった。
実際のところ、リアルで会いたかったのかは自分でも分からない。
ある日街中でばったり会った2人。
「久しぶりやね」って最初はお互い恥ずかしくて会話にならないけど、偶然昨日見たテレビの話題になって盛り上がる。
そしてその流れで「実は僕アイちゃんが好きやってん」と告白し、付き合うパターンA。
ある日アイちゃんが突然うちの隣の家に引っ越してきた。
「久しぶりやね」ってそこから急激に仲良くなって、隣り合ったお互いの部屋の窓ごしに毎日話すようになり、その流れで「実は僕アイちゃんが好きやってん」と告白し、付き合うパターンB。
アイちゃんが街中でヤンキーにからまれているのを偶然目撃し、ほんとは怖かったけど「何してんねん」ってかっこよく飛び出して、案の定ぼこぼこに殴られるも、アイちゃんが「私のためにごめんね。好き」って告白されるパターンC。
こんな感じで無限大のシチュエーションでアイちゃんと会うことを楽しむことができた。
結局18歳で初めての彼女ができるまでの6年間、アイちゃんのことを考え続けた。
大人になってから思い出した時に、Facebookや mixiでアイちゃんを探したけど見つかることはなかった。
思い出は思い出のままがいいのだろう。
今頃アイちゃんはどこで何をしているのだろう。
久しぶりに実家に帰って小学校のグランドで当時を懐かしんでたら、鉄棒している同年代の綺麗な女性がいて、なんとアイちゃんだった。「30年ぶりやね。ずっと会いたかった。好きです」って告白すると、「私も好きでした」って言われるパターンX。
やっぱりこのパターンにはならないだろうか。
ちなみに、今日見た夢にティコさんとあこさんが出てきた。これはあれだ。お二人の声を聞いたからだ。
夢の中では建築デザイナーの学校みたいなところで見学をしていて、木の断面が怖いと言って逃げ惑う私を見て、ティコさんがケラケラ大爆笑していた。なんのはなしかわからないが、悪くない夢だった。
素敵な2人の声はこちら。
え、なんか1人多いって?
確かダンディなひげもじゃの人も夢に出てきたような気がする。
サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー