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ベトナムの高層マンションで火災発生 決死の脱出

5年前、僕がハノイのTIMES CTIYに住んでいた頃。日の出前に突然マンションの警報が鳴った。ベットで熟睡していた僕は飛び起きて警報が鳴り続けているマンションの廊下に出るためドアを開いた。
次の瞬間、焦げ臭い匂いと共に真っ白な煙りの壁が僕の前に現れた。
「火事だ!」煙りの中から同じ階に住んでいる住人の声が聞こえるが、ベトナム語で何を話しているか理解できない。状況が分からず一旦ドアを閉めた。心臓の鼓動が早くなりアドレナリンが分泌されるのを感じた。
僕の部屋は高層階にある。この階か下のどこかの階が火元だろう。

ベトナムのマンションは内廊下になっている。何処かが火事を起こすと煙が逃げずに廊下に溜まる。部屋の窓は転落防止や防犯のために大きく開かなかったり、鉄格子がはめられている。

火事による死因の原因のほとんどが煙による一酸化炭素中毒だそうだ。
逃げ場の無いこの部屋に留まるとやばい。僕は電話と財布、水の入ったペットボトルとタオルを手に取った。ペットボトルの水をたっぷりと含ませたタオルで口を覆い廊下へ出た。
視界は3mくらいしかない。普段エレベーターしか使ったことがないため、どこに階段があるか分からない。同じ階の住人が何人か居たので低い姿勢で彼らのそばに近づいた。彼らは僕に何か話したがまたベトナム語が分からない。とにかく彼らに付いて行くと階段まで辿り着いた。
階段を何段か下りると足が止まった。下のほうが煙りが濃くまったく前が見えない。火元は下の階だった。
「行けるのか?」躊躇(ちゅうちょ)している僕の横を上の階から下りて来た住人が通り過ぎて煙りの中へ消えて行った。
「行くしかない!」僕も階段の壁に手を付けてそれを頼りに下りて行った。
5階分くらい下りるとだんだんと煙りが薄くなってきた。
「助かった!」最悪の事態は脱した。
そのまま1階まで下りる途中で背中におじいちゃんを背負った大柄の住人がいた。彼とおじいちゃんは小さな簡易的な酸素マスクを着けていた。大柄の彼は息を切らしていて足はフラフラだった。僕はその彼に声をかけおじいちゃんを背負うのを変わろうかとジェスチャーで伝えたが伝わらなかった。
下に下りるにつれて避難している人が多くなり階段は人でいっぱいになった。下層階ではみんな落ち着いており、我先にと押し退けて逃げる人は誰もいなかった。
マンションの外に出ると沢山のマンションの住民がパジャマ姿や下着姿で避難していた。警報が止まり、みんながぞろぞろとマンションの中へ戻って行く頃、辺りは薄っすらと夜が明け始めていた。
僕も部屋に戻ると部屋のドアは開けっぱなしなっており、部屋中が煙り臭かった。僕が閉め忘れたのかセキュリティーが換気のために開けたのかは分からない。念のため貴重品を確認したが何も取られてはいなかった。
後日、火元の住人とたまたまロビーで出会って部屋を見させてもらえた。
子供部屋からの出火でストーブをつけていたら引火したそうだ。ストーブとその周りは真っ黒になっていたが家族全員無事だった。

今ぼくの家には簡易酸素マスクが置いてある。

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