見出し画像

「せっかくだから」のおすそわけ

一人暮らしデビューしてから5年、結婚して旦那と二人暮らしを始めてから1年が経とうとしている。

そもそも私はなぜ実家を出て親から離れたのだろう?そんなことをふと、考えるときがある。
実家での暮らしは穏やかで、不自由がなくて、平和で。でも何か物足りなくて…私はそれを見過ごせなかった。

          ❇︎❇︎❇︎

本来は楽しい!しかないはずの特別感があるイベント時に、この「物足りなさ」は存在感を示した。

例えば年末年始。決まったおせちを買って、決まったテレビを見て、決まった神社に初詣に行って、決まった近所のお店でごはんを食べて。
とても穏やかで平和。でも、何か物足りない。
とっておきのレシピでおせちを全力で手作りしたり、初売りでこんなもの買おうと作戦会議したり、いつも行かないこんな場所で外食してみたいねと話したり…わがままながら、そういう「せっかくだから」を私は欲していた。

旅行に行っても、ホテルの食事を食べて、お風呂に入って、テレビを見て…
とても穏やかで平和。でも、やっぱり、何か物足りない。
全力で探検したり、みんなでゲームしたり、周辺の観光地を調査して巡ったり、近くの海に立ち寄ってみたり…そういう「せっかくだから」を私はどこかで求めてしまっていた。

こんなこと言いながらも家族とはとても仲がいいし、何不自由なくここまで育ててくれたことに本当に感謝しているし、贅沢な悩みなのかもしれない。
ただ、どれだけ最高であるはずの特別な時間を一緒に過ごしても、いつもどこかで物足りなさがあり、モヤモヤした気持ちが残る。

その原因は、「せっかくだから」不足だった。
家族が大好きだからこそ、せっかくだからその瞬間を全力で楽しむこと、全力で工夫して思い出を作ること、をもっともっと一緒に探したかった。

今思えばせっかくだから不足のわたしは、当時は名もなきモヤモヤと共に、それに耐えきれなくなって家を出た。家族がそれに対してどう思うか…など、ちゃんと考えもせずに。
       
          ❇︎❇︎❇︎

初めての一人暮らし。実家暮らしと打って変わって、これはもう、「せっかくだから」を試す絶好のチャンスだった。せっかくだからこんな部屋にしよう、こんな生活をしよう、こんな人たちを呼ぼう、近所のこんなお店を開拓しよう…
私が求めていたのはこの感覚だったかも、と少し浮かれた気持ちで一人満足していた。

しかし、一人暮らしに夢中になる一方で私が気づいてなかったことが一つ…それは、母のメンタルの変化
数年前からメンタルの上がったり下がったりを繰り返していた母が、残念ながらゆっくり下りのほうに向かっていたのだ。

真の原因はわからないし、当時は自分と母のメンタルは別問題として切り分けて考えていたけれど、自分が家を出たことは間違いなく母にとって喪失感の一つだったのだろう…と今になって思う。

そして、その後も一人暮らしは続き、
やがて私には恋人ができて、結婚をして、
今年結婚式をした。

せっかくだから家族にも全力で楽しんでほしい…と人生最大の「せっかくだから」精神で準備をした私。さすがに人生最大のイベントなんだしまた母の笑顔が見れるかもしれない…そんな期待も、少ししながら。

母はそれまでに比べて、その日は笑顔が多かった。でも、結婚式の写真を見ると、満開の笑顔…とまではいかなかったように思う。アルバムを見返すと、なんとも言えない表情の母に胸がきゅっと締めつけられる。
      
          ❇︎❇︎❇︎

どうしたら母を元気づけられるだろう?
ネットでそれらしきことを検索してみても、
励ますのはだめ。無理に外出させるのもだめ。
やってはいけないことばかりが羅列されている。

どうしたら良いかが本当にわからない。でも何かしたい。私には何ができるだろう…

そんなとき、自分一人で抱えていた「せっかくだから」精神をおすそわけしよう、とふと思った。

せっかくだから、ワンピースを色違いであげて出かけないかと誘ってみよう。
せっかくだから、カーディガンを勝手におそろいにしてプレゼントしよう。
せっかくだから、毎日飲むコーヒーを自分がおすすめのおいしい豆に変える提案をしてみよう。

こんなことは正直、今までしたことがなくて少し恥ずかしい気持ちもあった。
でも、コミュニケーションする機会をなんでもいいから増やして、母がここ最近していなかったおしゃれをするきっかけや、普段飲んでるものをアップデートするきっかけをつかんでもらえたら…と思った。


そしてここ数ヶ月の話だが、母の調子がとてもいい。

理由はわからなくて、たまたまかもしれないし、毎日一緒に過ごす父の力が間違いなく大きいし、自分のおかげだなんて思わないけれど、少しでも「せっかくだからのおすそわけ」が心の豊かさにつながって、変わるきっかけになっていたら嬉しいな…と思っている。

          ❇︎❇︎❇︎

人生のステージが変わり、今度は自分が家庭をつくる番。幸い旦那とは「せっかくだから」を合言葉に一つ一つの旅行の道中や日々の雑談、食事、テレビを見るなどの何気ない時間を全力で楽しめている。

「せっかくだから」は自分がいる世界や、周りの人がいる世界を変える力を秘めている。
大袈裟なことはいらない。お金をむやみにかける必要もない。せっかくなら…と自分が少しでもわくわくすることや気分のあがるものを見つけて、そっとおすそわけして、落ち込んでる人がいれば手を引っ張るのではなく、自分の手を軽く添えればいい。それが自分自身にとっても学びになり、豊かな時間になる…そんなことを私は自分自身の経験や家族と過ごす時間の中で、実感した。

あの頃のモヤモヤを
「せっかくだからのおすそわけ」
に変えて、大切な人たちと手をとりあって、
全力でその瞬間を楽しむ良き妻へ…
そしていつかは良き母に、私はなりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?