グレーゾーンの父

こんばんは。猛暑が続いておりますが、みなさんお元気でしょうか。
季節は晩夏、ちょうどお盆休みにあたります。
私はまさに、帰省真っ只中という次第であります。
合計6時間の長旅を終えて、やっとのこさ生まれ育った家に帰る。食卓にはたくさんの大皿が並び、ホースの水で洗った西瓜は、しずくをたたえて無造作に冷やされている。あんこの香りが漂い、誰かが買ってきたおはぎに手を伸ばす…
いいですね、夏、お盆。なんてったって休みですから。これ以上のことはありません。
私も、「やったあ、やっと帰ってきたぞ」そんな気持ちで玄関を開けたわけです。
もちろん、帰りを待ち侘びていた母はこの上なく嬉しそう。廊下を進み、居間まで来るとテレビを見る父の姿。
ああ、また白髪が増えているなあと思いながら、まだ逞しさを十分に残した白いタンクトップの背中に声をかけるわけです。
「ただいまー。」
「…」
「…」
突然起き上がった父は、当然のように二階の自室にあがって行きました。無言で。
…はい。これが私の家では普通です。
父は、私が帰ってきても「おかえり」を言ってはくれません。それが「帰って来るな」の意味なのか、それとも気恥ずかしいだけなのか、聞いたことはありませんし、誰も怖くて聞けません。
父は、家族とのコミュニケーションを取ろうとはしません。
なぜそうなのか、私は20年間考え、悩み、同時に嫌い、諦めてきました。
しかし、大学で福祉の勉強をするうちに、わかったことがあります。
人間には、情緒をうまく受け取れなかったり、言葉をうまく紡げない人がいることです。それは、生まれ持った脳の特性、つまり発達障がいです。
学びを得たことで、私は父の行動の捉え方が少し変わりました。「なぜ?」という疑問から、「こういうものなんだ」という捉え方へ。
こんなに身近に、ささいな一言をわかりあうことができなくて、共感を知らない個体がいるとは思いもしませんでした。だって血が繋がっているんですよ?それだけでわかり合える気がしませんか?
そんなこんなで、私の父親はおそらく発達障がいグレーゾーンです。
家族とうまくコミュニケーションがとれず、毎日疎まれて孤立しています。
私は、そんな父を受け入れきれていません。正直、発達障がいだろうがなんだろうが、問題なのはそこではなく、「おかえり」を言ってもらえなかった私の、心が傷ついたことにありますから。

毎回、帰省に6時間かけて、帰ってくるなり傷ついて、私がかわいそう。
毎日これと過ごしている母は、さぞかし大変なことでしょう。
人にはキャパシティがあります。相手が障がいだからといって、言動を受け取った相手が傷つくことは変えられません。
父は、さらに孤立を深め、それでも共に暮らしてくれる母を傷つけ、諦めさせるでしょう。
父が孤立することはかまいません。
どうか私の優しい優しいままが、平穏に過ごせますように。
そして一生、父を許せない私をどうか、許してください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?