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【英文法】『幸福な王子』における不思議なso ... that 構文と私の解釈【接続詞】

so ... that SV構文といえば入試問題などでも花形の文法ですが、最近、『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』を読み返していて、この構文の解釈で悩む箇所がありました。

その本題に入る前に、まずは本書でもScene3で解説されているこの構文の基本を確認しておこう。

But the Happy Prince looked so sad that the little Swallow was sorry.

このthat節は「程度」あるいは「結果」を表す副詞節で、それぞれ「でも、幸福な王子は、小さなツバメがかわいそうに思うほど、悲しそうに見えました」(程度)か、または「でも、幸福な王子はとても悲しそうだったので、小さなツバメはかわいそうに思いました」(結果)という解釈になる。またsoはthat以下と呼応し、「情報予告の副詞」の働きがあるという解説も同書には付されている。

さらに、手元の物書堂『ウィズダム3』によると、この結果用法の解釈を成り立たせるには主節と従属節の間に「因果関係」が必要であると説明している。

元の例文を見ても、幸福な王子が悲しそうに見えることと、小さなツバメがかわいそうに思うことの間にははっきりした「因果関係」がある。これは確かに明瞭だ。

ところが、これと全く同じ文構造を持つScene2の次の文を見てみよう。

His face was so beautiful in the moonlight that the little Swallow was filled with pity.

これを「程度」で解釈すると「彼の顔は、小さなツバメがかわいそうな気持ちでいっぱいになるほど、月明かりの中で美しかった」となるし、因果関係のある「結果」としてとると、「彼の顔は月明かりの中でとても美しかったので、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになった」となるが、いずれも通常の意味では、かなり不自然になる。美→哀には、悲→哀のような自然な因果関係はない。日本語にも、「悲哀」という言葉はあっても「美哀」という言葉はない。

『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』では、「彼の顔は月明かりの中でとても美しく、小さなツバメはかわいそうになりました」と訳しているが、これは先に挙げた『ウィズダム3』で言うところの、

His face was very beautuful in the moonlight and the little swallow was filled with pity.

の文の解釈になっているのではないだろうか?

さらに青空文庫に入っている結城浩訳も参照してみたが、「王子の顔は月光の中でとても美しく、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました」とあり、似た訳し方となっている。

しかし、ここで私はあえて構文の字義通りに解釈してみたい。すなわち、

But the Happy Prince looked so sad that the little Swallow was sorry.

His face was so beautiful in the moonlight that the little Swallow was filled with pity.

これらを上下ともに因果関係のある結果用法と見て、「しかし幸福な王子はとても悲しそうに見えたので、小さなツバメは悲しくなりました」と同様に、「彼の顔は月明かりの中であまりに美しかったので、小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました」とあえて因果関係で解釈してみたい。

両者ともにこれはいわゆる「地の文」だから、この話の語り手はsorryやpityの源泉に、sadnessやbeautyを見ているということだ。

あまりに美しいので、かわいそうになる。

この箇所の直前で、王子の涙が黄金の頬をつたってしたたり落ちる描写もあわせて、こちらの方がワイルドの描きたかった作品の世界観に近いのではないだろうか?

『幸福な王子』における作品全体のツバメの感情の流れとしては、最初、

What is the use of a statue if it cannot keep the rain off?

などと、作中のある議員(one of the Town Councillors)や市長(the Mayor)と同じような通俗功利主義的なことを思っていたのが、

His face was so beautiful in the moonlight that the little Swallow was filled with pity.

とpityを感じるようになり、

But the Happy Prince looked so sad that the little Swallow was sorry.

とsorryをおぼえ、そして王子の頼みごとに応えているうちに、

"It is curious," he remarked, "but I feel quite warm now, although it is so cold"

とwarmすら感じるようになり、ついには、

The poor little Swallow grew colder and colder, but he would not leave the Prince, he loved him too well.

とloveへ、そして両者揃っての死へと至るのだが、この一連の感情の流れの初動において、「美」の中にpityを見いだす、美しいがゆえに可哀想になるという因果関係は、作品鑑賞と作者オスカー・ワイルドの耽美主義理解の一助となるのではないだろうか。

ヴァイオラ: I pity you.
(可哀想だと思います。)
オリヴィア: That's a degree to love.
(それは愛への第一歩ね)

ウィリアム・シェイクスピア『十二夜』


※追記
先に「悲哀」という言葉はあっても「美哀」という言葉はないとしたが、実は日本語には美の中に哀しみを見る「哀艶」という語が存在する。


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