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【参考書レビュー】『肘井学の読解のための英文法が面白いほどわかる本 必修編』肘井学

昨年から今年2024年にかけて次々と「英文解釈」に関する新しい学習参考書が出版されている。その背景には、大学受験に、あるいは社会人の英語資格取得に、英文解釈が有効かつ必要な基礎訓練であるにも関わらず、近年の文科省によるコミュニケーション重視の指導方針などもあり学校ではあまり、どころか、ほとんど、取り組まれていないという実情がある。

その秘めた需要に応えるかのようなここ数年の動向の先触れとなった参考書の一つがここでレビューする『読解のための英文法 必修編』(旧版2015、音声付き新版2022)であろう。著者はスタディ・サプリの人気講師、肘井学先生。

この参考書登場の意義は、以前なら『入門英文解釈の技術70』(2008)や『英文読解入門基本はここだ!』(旧版1996、新版2005)などが長らく担ってきた、高校基礎文法を一通り終えた学習者が初手に取り組む英文解釈のニーズを新たに掘り起こしたことにある。2023年まで武田塾の英語学習「ルート」に組み込まれていたことも大きいかもしれない。(2024年からは『動画でわかる英文法[読解入門編]』に差し代わっている)

以下に、本書の優れている点と個人的に弱点と思うところを挙げていく。これは塾講師の私が、実際に使ったさまざまなレベルの生徒から得たフィードバックも反映させたものだ。

◎使用語彙レベルを抑えた短い例文からスタートし、難問にまでチャレンジできる
本書の構成は、「SVの発見」からはじまる33のテーマに対し、それぞれ、例題・確認問題・発展問題が付いている。『解釈70』などと比べると、例題の文が短く使用語彙レベルも抑えられているのが特徴(70にはlubricateみたいな英検1級レベルの語も出てくる)。それでいてカバーする重要構文の射程は広く、発展問題の中にはかなり難易度の高いものも含まれている。生徒の中には、東大入試のものなどが解釈できると高揚感が得られる子もいるようで(実際には英文の難易度と大学偏差値が比例するわけでもないのだけど)、そういう出典記載にも一定の効果があるのかと思わされる。

◯演習量が多い
例題183+確認問題137+発展問題38の合計358題ということで、一冊でかなりの基礎演習量をこなすことができる。後述するように正直「解説」はそこまで詳しくもなければ親切でもないのだが、英語は結局類似パターンに数多く触れることが正義という側面がある。実際このレベルの英文が難なく理解できるようになれば、しっかりした基礎力がついたと言って良いだろう。

◎第4章「動詞の型」に教育的効果!
SVOCMの文型のとり方を学ぶこの手の英文解釈本としては珍しく、provide A with Bやtake A for Bのような動詞の語法に丸1章を割いている。これは非常に画期的なことで、構文といっても結局は動詞と相性の良い前置詞など語法の知識がなければ理解の速度・精度は上がらないのだ。英文解釈とは流れてくる英文にSVOCMをつけていく小理屈パズルゲームではない、という本質に気付かせてくれる。もちろん、ここに載っている語法はごく一部のものだから、この気づきを教訓に日頃単語をおぼえる際にも語法を意識する習慣を身につけよう!

△解説が詳しくなく、親切でもない
これは実際に生徒と使ってみると深く実感するのだが、少なくとも公立進学校高1レベルの英文法(各総合英語対応の基礎文法問題集レベル)がわかっていないと、この解説だけでは理解が難しいと思われる箇所がある。例えば、英語が苦手な生徒なら、いきなり冒頭の、

That he ate ten humburgers surprised me.

に、heがS、ateがV、などとしてしまう。

正しくはThat he ate ten humburgersがS、surprisedがV、meがOとなるのだが、そのことを本書の解説にある、

Thatから「〜こと」という名詞節(名詞のカタマリ)が始まります。

とだけ読んでもなかなか納得いかない。

ここのthatが従属接続詞であり、しかもそれを主語のカタマリとして使うことがあるという知識を前提としているからだ。この参考書を必要とする生徒のレベルは、そもそもthatが接続詞として使えるという知識からして怪しいし、かりに知っていたとしても、I think that S Vの目的語としての用法しかわからないことが多い。実際、thatが従属接続詞で主語にも使えることを一から解説すると、はじめて知った!というリアクションになることがほとんどだ。さらに言えば、この用法はかなり「かたい」表現であり、自分の英作文などで多用すべきではなく、普通はIt surprised me that he ate ten humburgers.などとすることも押さえておく必要があるだろう。

他にも、テーマ17の強調構文では、何の説明もなく急に解釈にSVOCMがまったくついていないがいったいどうしてなのか、また節の中が複雑な文章の構文理解や日本語訳がなぜそうなるのか、また先日X(twitter)で話題になったIt seems that 〜 がなぜSVMになるのか、などなど、完全な「独学」なら理解に苦しみそうな箇所が少なからずある。

したがって、疑問点を質問できたり理解を定期的にチェックしてもらえる環境とか、辞書や総合英語で疑問点を解決していく気概が本書のポテンシャルを十全に引き出すには求められるだろう。

◉まとめ
総じて、高校基礎英文法がある程度理解できている学習者が初手に取り組む英文解釈本として、やり切れば十分に力のつくものと思う。特に第4章「動詞の型」が入っていることの教育的意義は大きい。ただし、ポップな見た目ほどには、易しくも優しくもないので、学習環境を整えて取り組むことが望ましい。

追記:
感想がまとまれば冒頭にあげた新作英文解釈本『動画でわかる英文法[読解入門編]』『大学入試 基礎からの英文解釈クラシック』『八澤のたった7時間で英文解釈』などのレビューも予定しています。

ただここで塾講師として強調しておきたいのは、いずれの参考書もやり切ればその分力のつく水準のものではあるから、すでに手をつけはじめている受験生はあれこれ迷わず目の前の一文一文に全力で取り組んでほしいなと思っています!

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