見出し画像

【英文法】過去分詞の映画タイトルから考える英語と日本語の特質【過去分詞の謎】

先月は、"Oppenheimer"(邦題『オッペンハイマー』)とか"Dune: Part2"(邦題『デューン 砂の惑星PART2』)といったシンプルに固有名詞ドーンという映画タイトルの大作が話題をさらいましたが、ここでは日本語にはない英語ならではの「過去分詞」を活用した映画タイトルから、両言語の特徴についてつらつらと考察してみます。

過去分詞1語を採用した映画タイトルとして真っ先に浮かぶのが"Frozen"ですね。

邦題が『アナと雪の女王』であるのは、タイトルの中にディズニー・プリンセスの名前が入ってないと興行的に困るというのもあるでしょうが(実際、原題のままつけた先だっての"Wish"『ウィッシュ』は興行的には大失敗だったようですし)、そもそもfreezeの過去分詞frozenを日本語だと文字通り1単語では表現できないんですね。例えば「凍って」とすると、「凍っ」という動詞と「て」という助詞の2単語になってしまうし、「凍った」としても、「凍っ」という動詞と「た」という助動詞のやはり2単語になってしまう。

つまり1単語に込められる情報量が屈折語の英語と膠着語の日本語では自ずと違うので、特にfrozenのような過去分詞1語のシンプルながらイメージ喚起力のある語をそのまま日本語に置き換えることは難しい。

他にはやはりディズニーの"Tangled"なんかもそうですね。

これも邦題はやはり『塔の上のラプンツェル』という風にディズニー・プリンセスの名前+世界観の説明のようなタイトルになっています。

ところが英語のtangledは、シンプルに過去分詞1語で、物に引っ掛けられるほど長い髪の少女のこんがらがった物語を象徴することができていると。

また古い映画の例を挙げるならヒッチコック監督の"Spellbound"なんかも過去分詞タイトルですね。

こちらの邦題は『白い恐怖』。「白い」という視覚的表現と「恐怖」という心理表現を組み合わせた共感覚的表現で、こちらはこちらで興味深い。ちなみにこれにはダリの描いた有名な夢のシーンもあったりして、作品としてもとっても面白いです。

またこれはいわゆるシットコムですが、"Bewitched"なんかもそうですね。これは邦題は『奥さまは魔女』になります。

過去分詞spellboundもbewitchedも似たような意味で、「魔法にかけられて」とか「魅了されて」といったニュアンス。

そういえば、『魅せられて』という邦題のベルトルッチ監督作品もありました。

もっとも、こちらの英題は"Sleeping Beauty"だったりしますが(笑)

さて、ここまで英語の過去分詞のシンプルさやイメージ喚起力についていくつか例を挙げてきましたが、日本語にも別の特性をいかした簡潔ながら想像力を掻き立てる映画タイトルはあります。

例えば、シェイクスピアの悲劇『リア王』に着想を得ている、黒澤明監督の『乱』。

また谷崎潤一郎原作で、女性の同性愛をテーマにした増村保造監督の『卍』。

これらは一漢字の持つ情報量の多さがイメージ喚起力に活かされています。あ、先日の北野武監督の『首』なんかもそうか。

また、英語と違って動詞の辞書形単独で使っても命令文にならないことから、『流れる』や『さがす』のようなタイトルが、簡素にして余情を含むような味わいを出せる。

『流れる』の英題は"Flowing"というing形にしています。『さがす』には逆に"Missing"という英題がついているのは工夫があって面白いところです。

改めて考えてみると黒澤明監督には『夢』("Dreams")とか『生きる』("Ikiru")なんてのもあって、タイトルにも日本語の言語的特徴が活かせるような美的配慮があったのかもしれないと思わされました。

ここまでお読みいただいて、何か英語・日本語の言語的特徴の良く出た映画タイトルなどご存知の方がおられましたら、教えていただけると嬉しいです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?