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【英文法】アイ、ミー、マイ、マイン?と「訂正する力」【代名詞変化表の謎】

春休みからどんどん英文法を進めてきた新中学1年生はそろそろ3単現と並ぶ最初の難所である代名詞の変化表に入るころ。

「代名詞の変化表」とは例のアイ、マイ、ミー、マインのあれです。左から順に主格(〜は、〜が)、所有格(〜の)、目的格(〜を、〜に)、所有代名詞(〜のもの)となる。

I, my, me, mine
you, your, you, yours
he, his, him, his
she, her, her, hers...

昭和後期の公立教育を受けた世代の私もこの並びを自明なものとしておぼえたものです。アイ、マイ、ミー、マイン!

その語感は、子役時代の福原遥の代表作『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』にも反映しているし、


日本のニュー・ウェイブ・バンドPOLYSICSの楽曲にも響いているし、

さらにはその名もI MY ME MINEという女性アイドルグループまでいたようだ。コンセプトは「私は私、自分らしく」!

もとい、

つまりアイ、マイ、ミー、マインの格変化表は、元素記号表の「水平リーベ僕の船」や、古文における「ありをりはべりいまそかり」などと共に、文化の細分化が喧伝される現代日本において、数少ない世代を超えた教育原体験となるミーム(meme)を提供していると言えるだろう。

ただ惜しむべきは、アイ、マイ、ミー、マイン、この表を呪文のようにおぼえても、実際の文中での使い分け、特にmyとmineがごっちゃになってしまう学生が多いこと。

例えば、「それはわたしの!」
という日本語があるからか、つい逐語訳的に、

* It's my.

などとやってしまう。(正解はもちろん'lt's mine.')

この表では所有格と所有代名詞が離れたところに位置しているので、関連が直感的につかみにくくなっていると思う。myは単独では使用できず隣に名詞を置いてmy smartphoneのように使い、その点で単独でいけるmineとは似ているけれど違うのだと。

実は英語圏のESLでまとめる代名詞の変化表は以下のようになっていることが多い。

I, me, my, mine!
日本で代名詞の所有格とされているものは'possessive adjectives'、つまり所有形容詞!として扱われている。

ビートルズのアルバム"Let it be"に収録されている'I Me Mine'の中のフレーズ、

I me me mine!

の中にmyが入らないのは、言葉の響きもあるだろうけれど、myが横に名詞を置かない単独使用では、収まりが悪いからなのだろう。

こういったmyに対する捉え方は薬袋善郎先生の「黄リー教」(『基本文法から学ぶ英語リーディング教本』)でも採用されている。

つまりmyのような「代名詞の所有格」と学校文法で呼ばれているものは「品詞は形容詞、働きは名詞修飾、呼び名は所有格」として扱うのだと。そして同書ではI, me, my, mineという順に配列されている。

黄リー教を読み進めていくとこの捉え方がいかに理にかなっているか得心がいく。名詞を修飾するmyは形容詞と見るべきであり、所有代名詞のmineの左隣に配置してその特徴を理解した方がずっとわかりやすい。

黄リー教は明治以来の伝統的なパーシングの手法を現代に蘇らせた文法書として話題になったけれど、現在の学校英文法の非効率的な、不正確な部分を訂正し、アップデートしている側面も多くある。

私はここで、最近読んだ哲学者東浩紀さんの『訂正する力』を想起した。過去の思想にしがみつくのではなく、柔軟に訂正する力。それでいて過去を全否定するトップダウン型のラディカリズムでもなく、一貫性を保ちながら、ゆるやかに変化していく各現場での試み。

「訂正する力」はとても射程の長い考え方で、私は、明治以来の英語教育の歴史と重ね合わせて考えてみたいと思った。特に近年のコミュニケーション重視教育への舵取りとその迷走は、行き過ぎた過去教育の否定、「リセット願望」がもたらしたものではないか?

もちろん学校英語教育に訂正すべき点が少なからずあるのもまた現実だが、その全てを否定し去ってしまうのではなく、現状をあいまい3センチくらいには受け入れ、なんとか一貫性を保ちつつそれぞれの持ち場の創意工夫で訂正していくような力。

実際、It's my.と間違っていた中学生たちも、文法的な助言を取り入れつつ、多くの例文に触れて微調整を繰り返しながら英語らしい表現を一歩ずつ身につけていく。現実の教育はいつだって一人一人の具体的な日々の学びの中にしか宿らないのだ。


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