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その時代を読む: 『フローラの白い結婚』
原作: 並木 陽/作画: 辻 八雲『フローラの白い結婚』
史実というわけではないけれど、舞台背景がとてもおもしろい一作。
作者さんたちがすごく調査して時代考証しているのが伝わってくる。
特に、文献に言葉で説明されている衣装を描く際の苦労話がとても興味
深かった。
また、主人公のフローラがとても魅力的なのがいい。
貴族令嬢ではあるが気取ったところはなく、快活で利発で思いやり深く、
悩みはするが基本的に前向きな、親しみのあるキャラクターである。
そのキャラクターにだいぶ救われてはいるものの、物語の根底に横たわる
ものは、どうしようもない男女間の不均等だ (男女不平等とか男女差別と
いった文言は使いたくない。ここでそれを用いるのは、現代の価値観で
過去を評価することだからである)。
相手の心や立場を慮るのはもっぱら女性たちであり、男性陣はあくまでも
己の主観によってのみ行動する。
自らの信じる正しさに基づいた行ないであったとしても、そこに相手の女性
の心がなければ、ただの独りよがりにすぎないというのに。
よかれと思ってやったのに、ってやつ?
この先レオナルドがやらかすであろうことが、だいたい想像できてしまう。
◦ ラザロのことはなんとしても修道院に戻してやりたい
◦ フローラはいい子だし、彼女の生家への申し訳や世間体もあるので、離縁
して帰すということはできない
◦ それなら自分がフローラを娶ればいい
◦ そのためには、まずフローラに言い含めるか、もしくは実力行使
(後者の場合なおさらフローラはレオナルドの妻にならざるを得なくなる)
◦ 弟 → 兄への乗り換え婚が不義だとされないよう、ラザロとフローラの間に
何もなかったことを公表する
◦ そのうえで、ふたりを離婚させ、改めて自分がフローラを娶る
◦ ラザロは修道院に戻して、みんなめでたし!
こういう思考回路による目論見なんじゃないかと思う。
フローラの人格はまったく考慮されていない (弟であるラザロの意思も確認
せず独り決めしているが)。
女性の意志決定権が弱かった時代の話とはいえ、つい感情移入してしまう。
こういう理不尽は、洋の東西を問わず、ひと昔前までにはたくさんあった
ことだろう。
ラザロの心や都合にばかり寄り添い続けたフローラが、自分の怒りや悲しみ
に正直になった姿は、痛々しくはあっても潔く美しい。
・・・ と、つい現代のまなざしを差し込んでしまう私なのであった。
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