「『あなたにも生きていてほしい』と伝え返す場所に」wish you were hereの対話 第一話|自分たちの経験から
はじめに
「wish you were hereの対話」では、身近な人や大切な人を自死で亡くした経験にまつわる話をしています。
自死についての話で気分が悪くなるおそれのある方は、自分の今の心の状態に注意して、状況によっては読むのを控えてください。
大丈夫な方は、よかったら、普段僕たちが自死について話すときにそうしているように、好きなお菓子やコーヒーなどをお供にリラックスして読んでみてくださいね。
柿をつまみながらの初回収録
stand.fm「wish you were hereの対話」の初回の収録は、2021年11月に、奈良県内のもりもと(このnoteの筆者。以下、僕)の自宅で行いました。(収録に至る経緯については前回の投稿、「大切な人を自死で亡くした経験についての対話をnoteに書きます。」をご覧ください。)
11月といえば、奈良では柿がたくさん採れる季節です。我が家には、職場でもらった柿がいくつかあったので、それを切って器に盛り、テーブルに置いてから収録しました。
よだかさんと僕はどちらも自死遺族だけど、遺族仲間である前に、大学の同級生であり、友人でした。飲みに行けば職場の人間関係の悩みを話すこともあるし、恋愛相談をすることも、趣味の韓国映画の話をすることもあります。
過去に家族で経験したことの話から、いまの僕たちの周りにある人間関係の話に流れて行って、また家族の話に戻っていくようなこともあります。
普段しているように、できるだけ自然体で、カジュアルに話している雰囲気を届けたい。だから、ちょっとでもリラックスして話せるように、柿をつまみながら収録することにしました。
とはいうものの、初めての収録。お互いがちがちに緊張しながら、テーブルに置いたiphoneのstand.fmの収録ボタンを押して、話はスタートします。
最初に活動の紹介や配信の目的を紹介したあと、互いが自死で母親を亡くした経験について話しました。よだかさんは小学校4年生、10歳のときに母親を自宅で亡くし、もりもとは、生後半年頃に同じく自宅で亡くしています。
よだかさんは、お母さんが自宅で亡くなっているのを弟と一緒に見つけた当時のことをはっきりと覚えています。20年近くたった今でも、しんどいときには当時の感覚がよみがえることもあるそうです。
今でも母親の死を思うと辛くなるというよだかさん。
それでも、父親に対する感情は、時間とともに変化していきました。
母親が亡くなったあと、その死を「仕方なかったと思うし、覚悟はしていた」と話した父のことを、当時は受け入れられなかったけれど、いまでは「父もしんどかっただろうけど、親としての立場があるから、弱音を吐かずに自分を保とうとしていたのかも」と思えるようになったそうです。それとともに、自分自身が「死にたい」と思う気持ちとの向き合い方も、変わっていきました。
大切な人の自死を肯定できなくても、周囲との関係性のなかで自分自身が変わっていくことはできる
”wish you were here”の由来
初回の収録では最後に、wish you were hereの由来の話をしました。
よだかさんがこの言葉に出会ったのは、彼女の好きな韓国のアイドルグループ、SHINeeのメンバーのインスタグラムでした。2017年、SHINeeのジョンヒョンさんが27歳の若さで自死で亡くなりました。よだかさんはそれを知ったとき、彼が亡くなったことだけでなく、かつて自分が経験した、自分と切り離せないほど大切な人を失う経験を、その日から他のメンバーが背負ったことにもショックを受けました。
苦しみを抱えながらも、SHINeeは残されたメンバーで活動を再開し、その約5か月後にデビュー10周年を迎えます。
この収録まで、この活動の名前の由来を詳しく聞いていなかった僕は、その語りを、息をのみながら聞いていました。柿を食べる余裕などありませんでした。
自死で亡くした人たちのことを思い出すと、「生きているうちに、自分にもっと何かできることがあったんじゃないか」と思うことが僕はあります。それと同時に、いま生きている周りの人たちに、これからも生きていてほしいと思います。
死んだ誰かに対して、生きていてほしかったと思ったり、いま辛い思いを抱えている周りの人に元気になってほしい、これからも生きていてほしいと思うのに、人はメンタルの調子が悪くなると、自分には価値がないと思って、誰も自分の存在を望んでいないんじゃないかと錯覚してしまうことがあります。
だから、「あなたにも生きていてほしい」と、その言葉を伝え返せるような、一緒に生きていけるようなつながりを作っていきたいと思っています。
自死で大切な人を亡くした人の自殺リスクについて
著名人が亡くなった報道によって自殺者が増加してしまうことを指す「ウェルテル効果」や、「後追い自殺」という言葉がありますが、疫学的にも、身近に、あるいは親族に自殺をした人がいる人は自殺リスクが高いことが知られています。近年、自殺が生じてしまった場合に、残された人々の心理的影響を少なくするための対策(ポストベンション)の重要性が注目されつつあります。
参考:
・安全衛生情報センター、自殺後に遺された人への対応http://www.jaish.gr.jp/information/jisatu/thp43_48.pdf
※本文の引用箇所は、意図が伝わりやすいように実際の言葉から修正を加えています。
おわりに
wish you were hereの対話では、身近な人を自死で亡くした経験についてのリアルな話をしています。自死について考えることが苦手な方、気分が悪くなるおそれのある方は、自分の今の心の状態に注意して、状況によっては読むのをお控えください。読んで苦しくなった方はぜひ、信頼できる人に話したり、そのときの自分に合った気分転換になることをしたりして、リフレッシュしてから日常の生活に戻ってくださいね。
stand.fmの実際の音声はこちらから。podcastでも聞くことができます。
※このnoteについての説明は、こちらの記事でしています。
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