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ウィッシュノート
2022年4月26日 22:23
(前回の続きです。最終回)ところが肝心の罪滅ぼしは、全くうまくいきませんでした。今のところ弟が姉さんに会いたい以外に願ったのは、唯一「本が読みたい」だけ。「本が読みたい」を叶えても気休めにしかならないことは分かっていました。それでも知識があって困ることは無いと、(どうせなら人の世で役に立つ知識をつけさせてやろう。この男は頭がいいようだし、知恵をつけさせれば、おのずと成功するはずだ)
2022年4月22日 22:13
(前回の続きです)弟とおっかさんは疑っていますが、この世界には明らかに人外の力が働いています。特に弟は、ある時点から、ある神様によって、ずっと見守られていました。それは大店の娘が願をかけた、人の寿命を半分奪う代わりに願いを叶える邪神でした。今でこそ邪神と呼ばれていますが、もともとは人の気から生じた人のための神でした。この世界の神は、全て自然界のものが発する気から生じた存在で、花の神
2022年4月19日 22:03
(前回の続きです)姉さんとの過去を全て思い出した弟は、がああっと頭を掻きむしって、「なんで!? なんで姉さんは死んでしまったんじゃ!? 俺には姉さんだけじゃったのに! 大切じゃったのに! なんで神は俺から記憶を奪った!? なんで!? なんでじゃ!?」と大地を叩いて号泣しました。あまりに激しい悲しみに、僧侶はややたじろぎながら、「その方との思い出がそれほど辛いなら、再び記憶を封じまし
2022年4月16日 22:09
(前回の続きです)弟の母親は、流れ者の小汚い女でした。いつどこからやって来たのか、いつの間にか村の隅っこに住みついて、野良猫のように子を孕み、育てきれずにこの世を去りました。物心つく頃には弟はすでに一人で、村の人の慈悲によって育てられていました。しかし自分の子でもない弟を最初に引き取って育てたのは、本当は心当たりのある者だったのでしょう。女だけで子を授かることはできない以上、父親が
2022年4月13日 22:21
(前回の続きです)姉さんは大店の娘の話を、そのまま信じましたが、他人の身に起きた出来事を、外から正確に知ることは不可能です。真実は人間の嘘や思い込みによって、たやすく変化します。大店の娘も自分の得のために、姉さんに嘘を吐いていました。姉さんと離れていた三年間。弟の身に実際に起きた出来事はこうでした。弟は誘惑の多い街に来ても、遊んだり無駄遣いしたりすることなく、真面目に働いていました。
2022年4月10日 21:30
(前回の続きです)大店の娘との結婚を知った時点で、姉さんはもう自分と弟の縁は切れたのだと悟りました。けれど、せっかくここまで来たのだから、三年ぶりに会ったのだから、大きくなった弟の姿を目に焼き付けて、懐かしい声を聞きたかった。しかし弟が自分との約束のせいで、やはり縛られていたのだと聞いてしまえば、大店の娘の言うとおり、過去の象徴である自分は、会ってはいけないと思いました。仮に絶対に弟が
2022年4月7日 21:17
(前回の続きです)ところが遠くの街に奉公に出ても、弟の献身は止みませんでした。もともと毎月、文で様子を知らせる約束でしたが、仕送りまで入っていました。驚いた姉さんは、弟の残した読み書きの教本とにらめっこしながら、『アンタががんばって稼いだお金じゃろう。自分のために使いなさい』なんとか返事を出して、お金も送り返したものの『俺は姉さんにいい暮らしをさせたくて働きに出たんだ。姉さんが
2022年4月4日 23:28
昔々ある貧しい村に、血の繋がらない姉弟が居ました。弟は生まれつき孤児で、最初は他の村人の世話になっていたのですが、自ら家を飛び出してから、半年ほど野外で暮らしていました。しかし冬が近づくにつれて、外で寝ることも食べ物を探すことも難しくなり、独りでひっそり死にかけていたところを、五歳年上の姉さんに拾われたのでした。弟は前の家では大変な問題児だったようで「誰にも懐かん野良犬じゃ」「人