私の名は赤 オルハン・パムク ハヤカワepi文庫(上・下)

 知る人ぞ知るトルコのノーベル文学賞作家、オルハン・パムクの名作。東西の融合と衝突をテーマに創作活動を行う事も多い方のようですが、本作もその中核にはその想いはあるものの、殺人から始まるミステリーを軸に十二年ぶりに再開した男女の情を横軸にエンターテイメントな味付けもある長編小説である。

 叔父からイスタンブールに呼び戻されたカラは、十二年ぶりに従姉妹のシェキュレと再会する。彼女は二人の男の子の母親ではあったが、夫は出征したまま帰ってこず四年以上が過ぎている。叔父は皇帝から極秘に一冊の本を仕上げるように依頼されていて、そのためにカラは呼び戻されたらしい。しかし、その挿絵を描く細密画師が一人、何者かに殺されていた・・

 一章単位に語り手が目まぐるしく変わっていき、人物だけでなく死体や殺人犯、金貨、犬までも語り手になる。もっとも印象的なのは題名にもなっている「私の名は赤」だろう。まさに赤のインク・画材が語るのである。西洋の写実、遠近法とイスラムの世界の伝統、偶像崇拝を禁ずる宗教観が交錯し、不思議な世界を感じさせてくれる。

 語り手が目まぐるしく変わるので、私にとっては読みにくい本だった。読了まで、一週間以上時間がかかった本はいつ以来だろうか。久方ぶりに本に振り回された感じがするが、悪い気はしない。

 新訳とあるが、旧訳は評判が悪いようだ。なかなかイスラムの細密画の薀蓄が興味深く、傍らに専門書と図録をおいて読みたいもの。何度か読み直すと新たな発見がかならずありそうな、そんな本である。

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ノーベル賞作家は読みにくい。なぜだろう。最近の受賞作家で読んだのは、この方とカズオ・イシグロくらい。


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