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医学モデル思考に染まり切ったソーシャルワーカーにならないために考えておくべきこと

目次
1.地域における医療連携を取り巻く現状とMSWの配置状況
2.他職種に伝えるMSW活用のポイント
3.チーム医療に欠かせない「生活支援」の視点の共有
4.MSWの組織内コンサルテーション能力を院内連携に活かす具体策
5.院内連携充実に向けた連携実務者、入退院支援担当者に求められるもの
6.おわりに

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1.地域における医療連携を取り巻く現状とMSWの配置状況

日本は「多死社会」を迎えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では2030年に160万人を突破し、その後20年間は160万人水準で推移するという。1)

国は、2025年には、団塊の世代が一斉に75歳以上の後期高齢者に突入し、医療と介護の両方を必要とする人が急増すると予測されることから、超高齢・多死社会への対応策として、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を進めている。

このような社会的背景に加え、社会保障費の削減を目的とした在院日数の短縮などの要因が相まって、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)として従事する者の数は17,547人(平成25年10月)から19536人(平成27年10月)と増加しており2)、全国の医療機関で配置が進んでいる。

2008年の診療報酬改定においても、退院調整加算(現:退院支援加算)が新設され、社会福祉士による退院支援業務に点数評価がつくようになり、MSWの配置を後押ししている。

MSWの業務の多くを占める退院支援業務は、医師や看護師からの依頼をもとに患者家族へ介入する場合が多く、それゆえ、医師や看護師にMSWへの活用方法や、介入依頼のタイミングやポイントを知ってもらうことは院内連携を考える上で重要なことである。

一方、院内スタッフからMSWへ寄せられる依頼の中には、「MSWでなくとも十分対応可能」と思われる内容のものがあることも確かである。院内スタッフの期待に応えるために、依頼をまるごと引き受けることも必要ではあるが、筆者は急性期医療機関での勤務の経験から、院内スタッフからの依頼を精査し、MSWが他職種へコンサルテーションを提供することで、院内連携をより円滑にし、チームの能力を高めることに寄与することができると考えている。

本稿では「MSWの持つコンサルテーション能力を活かした院内連携」と題し、院内連携をより円滑にし、チームの能力を高めることに寄与するために、MSWを含めた連携実務者、入退院支援担当者が院内でとるべきアクションについて考えていきたい。

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2.他職種に伝えるMSW活用のポイント

MSWの業務内容と方法については、厚生労働省健康局長通知「MSW業務指針」3)において、以下のように記されている。

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院内連携においてMSWを活用するポイントはどのようなものであろうか。以下は一例であるが、このようなケースの場合には、ぜひMSWを活用されたい。

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3.チーム医療に欠かせない「生活支援」の視点の共有

MSWは医師や看護師などの他職種と連携しながら、患者家族の状況に合わせた支援を行う。その際重要となるのが、医療モデルと生活モデルの視点の共有である。

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退院後も医療行為が必要な患者のケースを2つ例に出して考えてみたい。

1.点滴をしながら自宅に帰る患者の家族に看護師が点滴の交換等の方法を指導し退院準備をしている。病院では点滴に混注しているが、自宅でも同様の処置を行うとなると、その分手技が複雑になり家族の負担は増えるため、手技の獲得ができず、訪問診療と訪問看護の調整依頼があったケース。

2.独居で、軽度の認知症もある糖尿病の高齢患者。入院中はインスリン注射で血糖をコントロールしており、自宅退院に向けて患者にインスリン注射を指導しているが、手技の獲得が難しいため、「訪問看護師に毎日自宅に来てもらえるよう調整お願いできないか」という依頼があったケース。

このような依頼があった場合、MSWは、患者家族の意向を踏まえた上で、医学モデル(病気の治癒・救命)と生活モデル(QOLの向上)の視点を行き来して考え、「自宅で必要な医療行為を生活モデルの視点から整理する」ことをチームに対して働きかけることを考える。

「自宅でも混注が必要なのか?」

「自宅でもインスリン注射でなければいけないのか?内服ではだめなのか?」

院内スタッフからの介入依頼に対して、このような問いかけで返していくことは、結果として「自宅で必要な医療行為を生活モデルの視点もふまえて整理する」、つまりは「生活モデル視点」のコンサルテーションを提供することにつながる。

コンサルテーションとは、「業務遂行上、ある特定の専門的な領域の知識や技術について助言を得る必要があるとき、その領域の専門職から助言を受け、新しい情報・知識・技術を習得する過程」と定義される。

他職種に対する介護保険や他諸制度の申請手続き方法などに関するコンサルテーションの提供も重要なことではあるが、ケースを通じて都度「生活モデル」の視点を共有することで、医学モデルに患者の在宅生活を当てはまるための調整は不要になることも多い。

患者家族の生活環境や社会的背景を鑑みて、病院での医療から自宅での医療にシフトさせていくプロセスにおいてチーム全体で「生活モデル視点」を共有するケースを積み重ねることで、「なんでもかんでもMSWへ依頼」ということは減り、結果として、ソーシャルワーカーが介入すべき患者・家族に注力することができる。MSWの業務効率化の観点からも他職種に適切なコンサルテーションを提供できることは重要である。

なお、コンサルテーションを行う際は、「その後どうなったか教えてください」など、結果がどうなったかのフィードバックを得たいことを伝え、コンサルテーションの適切さと効果について知る機会を得ることができると、よりよいコンサルテーションの提供につながるとともに、院内スタッフとのコミュニケーションの機会にもなる。


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4.MSWの組織内コンサルテーション能力を院内連携に活かす具体策


前述したMSWのコンサルテーション能力を発揮するには、以下2つの条件が必要となる。

⑴院内におけるMSWの認知度向上

院内において、MSWが何をする職種か理解されていない、単なる転院調整をする職種としてしか認識されていないような状況にあるのであれば、コンサルテーションを提供する以前の問題であり、まずは院内スタッフにMSWの存在を知ってもらう必要がある。院内におけるMSWの認知度は当然、各機関によって異なるが、以下のような取り組みが考えられる。

・院内配布用のリーフレットの作成・配布

・他職種対象の医療費や介護保険に関する制度勉強会の開催を通したプレゼンテーション

・新任職員への研修等でMSW部門の説明の場を設定

院内に存在するさまざまな機会を活用し、他職種にMSWの存在を知ってもらうことは、特にMSWを配置して年月の浅い医療機関においては必要なことであろう。

新しく赴任した医師や看護師には、「こういう患者家族がいたら、MSWはこういうことができますので、言ってくださいね」と一声かけられる関係に早くなる等のコミュニケーションスキルもまたMSWに求められるベーシックなスキルである。

⑵他職種からの介入依頼経路の開拓

MSWが患者家族に介入する経路として多いのは院内スタッフからの間接的依頼であろう。

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MSWの支援を患者・家族へ届けるに院内の他職種の協力が欠かせない。それゆえ、他職種からの介入依頼経路の開拓が必要になる。そのために以下のような施策が考えられる。

・定例カンファレンス等への参加

・他職種にコンサルテーションを依頼

定例カンファレンスへの参加は、病棟とMSW部門が連携し、入院中の患者に対してスクリーニングシートを活用し、MSWの介入必要性を判断するなどの取り組みにも直結する。

MSWが他職種からコンサルテーションを受けることは、その過程でMSWの業務に対する理解を深めるという効果もある。そえゆえ、他職種とのコミュニケーションの機会を増やすという意味でも他職種へのコンサルテーション依頼は有用である。

コンサルテーション能力を院内連携に活かすには、何よりもまず「MSWに介入依頼をし連携ができると、自分たちだけでは対処が難しいことが可能になる」という「成功体験」を院内スタッフと共に得て、MSWの活用しどころを理解してもらうことが必要になる。それにはMSWの質の向上が欠かせないことは言うまでもない。

MSWの認知度向上、介入経路の開拓、他職種とのケースを通じた成功体験の積み重ね、これらの素地があった上で、はじめて他職種に対してMSWがコンサルテーションを提供することができるようになる。

成功体験を積み重ねるための近道はなく、院内スタッフと連携して支援を行うひとつひとつのケースを積み重ねる中で得ていくほかない。

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5.院内連携充実に向けた連携実務者、入退院支援担当者に求められるもの


ここまで、MSWの業務内容、活用ポイントに加え、生活モデルの視点からのコンサルテーションの提供、そのための組織内の下地作りについて述べてきた。ここからは院内連携充実のためにMSWを含めた連携実務者、入退院支援担当者の果たすべき役割について述べていきたい。

連携実務者、入退院支援担当者の基本的な業務として、患者家族への対応、院内の関係部署、院外の関係機関とのやりとりなどがあるが、ここではその基盤をつくるための心得とアクションについて述べていきたい。

⑴軽快なフットワーク

院内外問わず、依頼者にすぐに会いに行くフットワークさは、情報量に直結する。電話だけでは得られない相手に関する情報が得られる。

足を使った情報収集は、院内外の連携を円滑にするための価値ある業務である。そのためには、目的をもち顔をあわせる機会を設けることが必要になる。医療連携、地域連携と院内連携は相互に関連し合うものであることを念頭に置き、院内外のネットワーキングを戦略的に構築する計画を持っておきたいところである。

⑵誠実で敬意をもったコミュニケーション

当然ながら、連携実務者、入退院支援担当者は、医療連携、地域連携における組織の窓として、院内連携のハブとしての機能を求められる。人は論理だけではなく感情で動くことを念頭におき、不必要な敵をつくらない、院内スタッフの専門的スキルや経験年数などに関係なく、人と人としての誠実で敬意をもったコミュニケーションを心がけたい。

⑶関係機関の情報収集

院内連携において、他職種から院外の関係機関の情報を求められることは多いであろう。その際、組織名と住所と電話番号、担当者の名前などしかわからないのだとしたら、連携実務者、入退院支援担当者の業務としては意識が低いと言わざるを得ない。自身が院内で誰よりも当該地域の社会資源について熟知している必要があることを念頭に置き、日頃から情報収集に努めたい。

連携実務者、入退院支援担当者が、地域の関係機関の機能の詳細だけではなく、担当者のキャラクター、スキル、好んで使うコミュニケーションスタイルなどを熟知し、院内スタッフからのコンサルテーション時にこのような情報を含めて提供することで、当該部門への院内スタッフらの信頼は高まる。院内スタッフからの信頼度が高ければ、院外の関係機関から寄せられた依頼について、院内スタッフに「無理を言って」対応をお願いするなどの行為もやりやすくなる。

⑷関係機関の情報の共有化

連携実務者、入退院支援担当者が情報が収集し得た情報が個人の中にとどまり、部署全体で共有可能な状態になっていないというのは、業務効率を考えると好ましくない。

昨今のテクノロジーの進化に伴いICTを活用している医療機関も増えているであろう。それらを活用し、各担当者がもっている情報を部署・組織全体で管理、共有し、かつ、常に新しい情報を更新することができる環境をつくっておきたい。

それにより、担当者の退職や異動とともに「社会資源の情報が部署や組織に残らない」ということを防ぐことができる。情報をデータベース化しておけば、それは蓄積して組織の財産になり得るであろう。業務効率の観点からも、情報検索の時間が短縮され、その分の時間をその他の業務に活かすことが出来る。

連携実務者、入退院支援担当者が、院内連携、医療連携、地域連携の核として機能するには、他機関についての情報を常に更新し、部署内・組織内で共有できる仕組み作りも重要であり、ICTはそれを強力にサポートするツールである。「ICTは難しいから活用しない」では済まされない時代に来ている。

⑸各部署がもつ専門性への最低限の理解

連携実務者、入退院支援担当者が院内連携のハブとして機能するには、院内の各部署がもつ専門性への理解と敬意が必要である。各部署、各専門職の業務範囲がわからなければ、的確な依頼は困難であり、また業務範囲外の依頼を行うことは理解不足を露呈することになり、院内スタッフからの信頼を損ねることにもなりかねない。院内連携には、連携する職種・部署への正確な理解が欠かせない。最低限の知識をインプットし、わからないことはコンサルテーションを依頼することで、コミュニケーションの機会にもなる。

6.おわりに
本稿では「MSWの持つコンサルテーション能力を活かした院内連携」と題し、院内連携をより円滑にし、チームの能力を高めることに寄与するために、MSWを含めた連携実務者、入退院支援担当者が院内でとるべきアクションについてお伝えをさせていただいた。

医療連携、地域連携以前の、足元の院内連携を見直すことは、連携実務者、入退院支援担当者が各々の業務のパフォーマンスを点検することに等しい。院内連携にも戦略が必要であり、そのための情報収集として、院内の個々のスタッフとのコミュニケーションが欠かせない。各診療科、各病棟、各部署とコミュニケーションの機会を作り出し、院内の各部署、各スタッフの相関図をつくるくらいのイメージで情報を収集・整理しておきたい。

院内連携を円滑にするためには、連携実務者、入退院支援担当者が名実ともに「院内連携のハブ」として機能できるかにかかっている。本稿が、日々のルーティンワークを見直し、明日からできることについて考えていただくきっかけとなれたなら本望である。

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1)国立社会保障・人口問題研究 日本の将来推計人口

2)医療施設調査・病院報告(結果の概要)

3)医療ソーシャルワーカー業務指針(厚生労働省保健局長通知/2002年改定)

4)ケア学―越境するケアへ (シリーズ ケアをひらく) 単行本 – 2000/9/1 広井 良典 (著) 医学書院

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