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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第44話

◆第1話はこちら

第5章 雪子の決意

6 25年前の出来事 多佳子の日記

 日付は25年前のものだった。
 最初は何でもない日常のことが書かれているだけで、これといって事件に繋がると思われることは書いていない。
 内容も稚拙なもの。

 そろそろ日記の内容に退屈し始めてきた頃、ようやく利蔵の名前が日記に現れ雪子はこくりと喉を鳴らした。
 隣に立つ高木も緊張している気配が感じられた。
 ここから先はどんな細かいことも見逃さないと、雪子は目を凝らし日記を読む。

 はちがつじうくにち
 あしたは なつまつり
 みな うかれてる
 まつりは きらい
 いつもわたし ひとり
 まつりなんて はやくおわてしまえばいい



 はちがつにじうにち
 きよう うれしいことあた
 利蔵さん はなしかけてくれた
 ころんだわたし しんぱいして かけつけくれた
 はんかち くれた
 利蔵さんわたしに きがある
 利蔵さんわたし すき
 わたしも 利蔵さんすき

「ハンカチ? まさか、これのこと?」
 雪子は手にした白いハンカチに視線を落とした。
 さらに、日記を読み進めていく。

 はちがつにじういちにち
 利蔵さんに てりようり つくた
 利蔵さん とても よろこんだ
 うれしい
 あしたも もていく


 はちがつにじうににち
 わたしのてりようり
 利蔵さん おいしい いてくれた
 だからきようも もていた
 うけとて もらえない
 いらない いわれた
 だから もんのまえ おいた
 きつと 利蔵さん たべてくれる
 そしたら のら犬 きた
 わたしのりようり たべはじめた

 この畜生が!
 なにする!
 はらがたた
 のらいぬを ぼうでたたいた
 なんども たたいた
 たたいた
 たたいた!!!!

 きづいたら 犬 うごかなくなた
 死んだ
 犬のあたま われている
 のうみそ ぐちぐち
 わたし わるくない
 かつてに わたしのりようりを たべた犬がわるい

 はちがつにじうよんにち
 利蔵さんいえに きた
 利蔵さんもうやしきにくるなという
 利蔵さんは いいなずけ いる
 そのいいなずけにえんりよ しているのだ
 だから わたしのてりようり たべなかった
 かわいそうな利蔵さん
 のぞまないけっこん しなければいけない
 だから しかたなくわたしを とおざけた
 わたしと利蔵さん あいしあっているのに
 いいなずけに いわなければ


 利蔵さんはわたしのもの だと



 くがつななにち
 あのおんな 呪いころしてやる
 わらにんぎょうで呪った
 これであのおんな 呪いころされて

 死ぬ

 日記を読む雪子の手が震えていた。
 読み進めていくうちに、多佳子の人物像が見えてきたような気がする。
 思い込みの激しい女性だ。

 利蔵家先代の当主が多佳子にしつこくつきまとわれていたというのも事実であった。
 そして、日記の日付は少し間が飛んでいた。

 くがつじうごにち
 利蔵さんにやしきによばれた
 なやにきて いわれた
 けつこん かんがえてくれたのだ
 きつと そう
 うれしい
 うれしい
 あいする利蔵さんの つまになる
 利蔵さん


 あいしてる
 あいしてる



 くがつじうろくにち
 やくそくした なやにいった
 さんにんの おとこがいた
 いせ たけし
 なみき たろう
 やまがた へいじ
 こいつらがわたしに らんぼうした
 利蔵さんがこいつらに めいじたいう
 あいつら うそついている
 やさしい利蔵さんがそんなこと いうはずない

「これ……」
 雪子は高木を見上げると、彼は眉根を寄せ頷いた。
「ああ、新聞の記事に書かれていたとおりだったな」
「ええ」
 三人の男たちは多佳子に乱暴した。それを命じたのは先代の利蔵家当主だった。

 くがつにじうくにち
 おなかが いたい
 あのおとこたちに むりやりされたせい
 ゆるさない
 あいつら呪い ころしてやる
 呪い
 呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う
 呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う
 呪う呪う呪う呪う 呪 のろ う



 くがつにじうさん

 きょう 利蔵さんとあのおんな けっこんする
 あのおんな利蔵さんに だかれる
 利蔵さんのこども みごもる
 ゆるさない
 ゆるさない
           ゆるさない

 背筋が震えた。
 ゆるさないと、何度も乱雑に書き殴った文字が、日記帳いっぱいに埋め尽くされている。

 なっとくいかない
 利蔵さん
 あいたい

 いまから とくらさんとこ いく。
 利蔵さん わたさない

 まてて 利蔵さん

第45話に続く ー 

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