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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第46話

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第5章 雪子の決意

8 呪われた村の真実

 高木の通報により、その後、県警の刑事が村にやって来た。
 二十五年前の事件が明らかになった。
 とはいえ、被害者も加害者もすでにこの世には存在しない。
 唯一、その時の事件に関与したと思われる人物が、当時の利蔵家当主の母であり、隆史の祖母、世津子であった。

 世津子は警察の取り調べで、素直に真実を口にした。
 多佳子の死の真相も、世津子の口から初めて語られることになった。

 二十五年前、多佳子に執拗に迫られた利蔵の当主は精神的に追いつめられ、さらに妻との初夜の晩に多佳子が部屋に忍び込んでいたことに発狂し、当主は多佳子を日本刀で滅多切りにし殺害した。
 惨劇の起こった場所は雪子が見た奥の間の、畳に黒いシミのついた部屋だった。
 あの部屋で先代の当主が多佳子を殺害したのである。

 その後、世津子は畳を取り替えたが、何度替えてもあの畳の部分だけ、黒い血痕のようなシミが浮かび上がってくるのだと身を震わせながら語った。
 以来、その部屋には誰も近寄らせず、立ち入ることさえ厳しく禁じた。

 息子がばらばらになった多佳子の遺体を麻袋につめ、庭の木に埋めているところを世津子は偶然見てしまい、利蔵の家が崩壊するのを恐れた。
 それ以上に息子の罪を隠すため、口を閉ざしてきた。

 村人も多佳子が行方不明になったことを知りながらも、そのことを深く追求することはなかった。
 多佳子が利蔵の当主を追い回していたことも、当主がひどく多佳子を疎んでいたことも村人たちは知っていた。
 もともと、嫌われ者の多佳子が村から消えたところで問題はなかったから。

 以降、村人は多佳子について触れようとしなかった。
 当時を知る人物も一人、二人と老齢で亡くなり、村で多佳子のことを知る者もわずかとなった。
 やがて、多佳子という名前だけが村を脅かす存在となった。

 連日駆けつけるマスコミや新聞記者によって、再びこの村のことがとりたてられた。
 どの新聞記事や雑誌にも〝蘇る呪われた村の真実〟〝継がれていく呪い〟など、おもしろおかしく書かれた。

 ときには、町からやってきた若者が、呪われた家だと言って、面白半分に利蔵家屋敷の前で写真を撮る光景もみられた。
 多くの多佳子とかかわりあった者たちが、不可解な死を遂げていった。

 利蔵の最初の妻、利蔵みつ。
 二番目の妻、利蔵花江はなえ
 多佳子を犯した三人の男。
 伊瀬毅、波木多郎、山片平治。

 この三人は多佳子の残した日記によって犯行が明らかになった。が、彼らも彼らの親もすでにこの世にはいない。
 そして、町から嫁いできた三番目の妻、利蔵由香里ゆかり
 当時の利蔵家当主、利蔵たかし

 それから二五年後。隆史の元に嫁いだ妻二人も奇怪な死を遂げている。
 利蔵真奈美まなみ
 利蔵恭子きょうこ

 それら死者の名が記事に連なった。
 二十五年の時を経て、凄絶たる多佳子の事件に幕は下りた。

第47話に続く ー 

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