セレウス菌

 この間、ずっと冷蔵庫に入っていた茹でうどんを食べた。賞味期限は、外ぶくろとともに行方をくらました。捨てちゃったのだ。
 半年前くらいにもずっと冷蔵庫うにあったうどんを食べたのだが、もうふにゃふにゃにだった。うどんというのはコシみたいなものが大事な食べ物だと思うが、もうコシどころじゃない。あれは離乳食だ。離乳食は遠い昔赤ん坊だった頃にしか食べたことがないのでどんな食感であったかなんて覚えていないが、親が撮っておいてくれたその頃のビデオの中で、私はいつも離乳食を口に入れられると、不味そうに眉間に皺を寄せていた。昔から私はドロドロしたものが苦手だったようだ。
 とりあえず袋を開けて、クンクンと匂いを嗅いでみる。腐っているらしきにおいはしない。大丈夫そうだ。しかも今回は、まだ買ってから1ヶ月しか経っていないので、まだふにょふにょに分解されてはいないのではないのだろうか。期待してうどんをお湯に投入する。湯がいている間にスマホで「食中毒 匂い」と検索した。
 
「食品中で食中毒菌がどんなに増えても、腐敗とは異なり、食品の味や色、においなどが変わらないので、異常に気がつかないのが特徴です。」

 ダメではないか。うどんが大丈夫だったかどうかは食べてからのお楽しみということになる。この前テレビで見た「賞味期限切れのレトルトカレーを食べて一年半入院した女の子」のことや、YouTubeで見た「冷蔵庫に入れるのを忘れていた作り置きのパスタを食べて亡くなった外国の男性」のことが頭をよぎる。米や麺類では「セレウス菌」が繁殖することが多いらしい。パスタの男性はセレウス菌で亡くなっている。このセレウス菌というのは5℃〜50℃の温度帯で発育し(諸説あり)、126℃で煮沸しても死なないらしい。腹痛や嘔吐などの症状があるが、食べてから大体16時間で症状が出るらしい。非常に恐ろしい。

 冷凍庫から明太子を出して、バターや麺つゆと一緒にボールに入れてレンジでチンする。茹で上がったうどんをザルに揚げて、一口食べてみる。とりあえず、腐ってはいないようだ。
 私は食べ物を捨てるのが苦手だ。明かに腐っているものも、最後まで食べられる道を模索しようとする。
 次こそは買ってすぐにうどんを食べるのだ。たとえ朝昼晩3食うどんになったとしても。と誓い、私はこのうどんを食べることを決意した。許せサスケ、これで最後だ。
 明太子クリームうどんは、明太子多めで美味しかった。時刻は午後4時だった。明日の朝の8時まで吐いたりお腹が痛くなったりしなければ大丈夫だ。夜に家に帰ってきた恋人に「今日は冷蔵庫のうどん食べたよ」と言うと「偉いじゃん!」と言われた。何が偉いのだろうか。
 しかしお分かりの通り、食べてからだいぶ経った今でも私は生きている。こうしてこれからも伝説を作っていっちゃうんだろうな、と思う次第である。



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