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【詩】嫌(いや)

ゼロから始めてまたゼロに戻るなんて嫌
堂々巡りで振り出しに戻るなんて嫌
できたのにできなくなるなんて嫌
嫌嫌嫌嫌いやいやいやいやいやいや
地上百五十回のビルの屋上から飛び降りるなんて嫌
バンジージャンプなんて通過儀礼だと考える原住民なんて嫌
食べたくないものばかり並んでいる昆虫食なんて嫌
本当のことが言えない人ばかりと話すのは嫌
人をすぐ信じてしまった過去の私が嫌
誰とでも本音で話したかったけどそうできなかった自分が嫌
やったのにやってないなんていうことが平然と言える厚顔なシワだらけの
口なんて嫌
美味しいものを食べてももう美味しくないと感じる新鮮な感覚が無い舌が嫌
信じていたのに信じられなくなることが嫌
頼れるのは自分だけ行動しなければ何も変わらないと教える成功者風の人は嫌
困ったら人を頼ったらいいと諭す知識人風の人は嫌
もうこれ以上世の中は心を救えないと信じる心が嫌
嫌嫌嫌嫌いやいやいやいやいやいや
目覚ましが鳴る前に起きても目覚ましを切るのを忘れて目覚ましが鳴りだすのを聞く耳が嫌
毎日が音もなく過ぎてゆくのが嫌
朝起きても何も変わらないで冷たい風に洗われる肌が嫌
生きているものが必ず死ぬなんてことを受け入れるのが嫌
あんなに燃えた恋がいつの間にか砂の上にばら撒かれて形を失うのが嫌
それを思い出した記憶が心臓をちくちく刺す針が嫌
あの時こうすれば良かったと後から思う無意味が嫌
生存競争に負けて欲しいものが手に入らない理由を考える自分が嫌
どうせお金が無いから何もできないと考えるのが嫌
クレジットカードを切らないでクイックペイを使わないで生活すると安心だけど財布からお金を出すのが面倒くさい自分が嫌
永久にビバリーヒルズに住めないと知っている自分が嫌
旅行が面倒くさくて嫌いになる自分が嫌
美しいアジアの砂浜の果てまで散歩の足を伸ばしたらゴミゴミした海岸に浮かぶ芥を見つけた目が嫌
何もしていないと何かしたくなる自分が嫌
毎日新しく何かを始めないといけないと考える自分が嫌
夜中に怖い夢から逃れようと飛び起きる自分が嫌
夢の出来事はずっと以前のことで今ではないと安心する自分が嫌
見たくないのに何度でも同じ夢を見る自分が嫌
一日に何度も服を着替えて満足する自分が嫌
着替えるとテンションが上がる自分を見るもう一人の自分が嫌
いつでも話し相手になってくれるぬいぐるみのテッドが欲しい自分が嫌
下手でも描いた絵が好きになった自分が嫌
もう会えない人ともう一度だけ会いたいと思う自分が嫌
言葉がヒントになってデジャブが始まるのが嫌
いつも眺めていた駅の池の鯉がいなくなったのが嫌
三十秒とずれないでホームに入ってくる電車が嫌
世の中はお金ではないと考える人が嫌
美しいものを信じる自分が嫌
歌を聞くといつの間にか涙が流れる目が嫌
いつも熱中していたい自分が熱中できない毎日を過ごすのが嫌
もう一度恋をしたい自分が嫌
この人ならひょっとして私にぴったりだと考えるときめきが嫌
田舎に戻って思い出の風景がもう何も残っていないのが嫌
昔午前七時の時報が町に響き渡るとそれに合わせてロングトーンで雄叫びを上げる犬が嫌
十年ぶりに出会った友達と自分の間に時の壁が立ちはだかって
手を伸ばしてももう抱き合えないのが嫌
過去は罪だと未来は罰だと言い放つ悪魔のセリフが嫌
秋や夕日に感傷的になる人が嫌
歳をとると体のどこかが悪くなるのが当然だという老人が嫌
統計と確率とアルゴリズムで診断する先生が嫌
国民国民と他人事のように喋る政治家ロボットが嫌
出来立ての料理にフォークを入れる瞬間にスマホを鳴らす誰かが嫌
ゴミ箱に紙を丸めて投げ入れるのに滅多に外さないのにたまに外れるのが嫌
笑っている子供が笑わなくなるのが嫌
エスカレーターを歩くか歩かないか悩む自分が嫌
夢中になってスマホの本を読んで電車の駅を乗り越す自分が嫌
夢中になって本を読んで目的地の駅に着いてドアが閉まる寸前に降りたけど荷物を一つ忘れたのに気づいた自分が嫌
ケーキを焼く時試食用にミニの金型にも生地を流し込むのでそれ用に
クッキングペーパーを折る自分が嫌
発車のベルと階段を駆け上がる自分が競争するのを邪魔する駅のアナウンスが嫌
坂が多い東京が好きな自分が嫌
喫茶店でアイスコーヒーの真鍮色の金属のカップのふちから水滴が流れるのが嫌
好きな人の変な癖を非難して喧嘩していたのにとうとう許してしまう自分が嫌
百点満点じゃなくても良いと諦める自分が嫌
河原で拾った石が丸くてツルツルしているからひょっとしてお墓の石かなと思うのが嫌
いつまで経っても食べられないレバーとグルテンと卵と乳製品が嫌
アップルケーキにバナナを混ぜて卵とヨーグルトとレモンを入れてもっちりした食感にしたら舌の細胞の一つ一つがふるふる震え陶然となってちょっとだけならと自分を許す自分が嫌
居並ぶ商品のグラムをチェックして単価を割り出して損得を考える自分が嫌
無意識に行き交う人の服と姿勢と歩き方をチェックする目が嫌
店で服を選ぶのは実は選ばされていると悟る興醒めした自分が嫌
昨日よりスクワットの回数が減るのが嫌
朝起きて筋肉痛が無い自分が嫌
太陽が好きだけど日焼けが嫌いな矛盾する自分が嫌
レトロな鉄の扇風機の羽のキャップがなくなったけど好きだから使い続けるとカタカタ音が鳴るのが嫌
好きに理由をつけるのは難しいけど嫌いに理由を見つけるのは簡単かなと思ったりする感情が嫌
花が好きだけど毛虫もいるのが嫌
水で洗った青菜の水分を飛ばすのにくるくる回る調理器具に合わせてフラフープをする自分が馬鹿みたいで嫌
朝食の後トランポリンするとぐるぐるするお腹が嫌
スマホに写真付きの日記をつけているのに手書きの日記を書いて壁にマグネットで貼ったカレンダーに色分けしたシールを貼って予定と結果を確認してパソコンのメモに年間月間スケジュールをメモして喜んでいる自分が嫌
急にお腹が痛くなる理由をあれこれ考える自分が嫌
毎日全身を触ってその感触を楽しむ自分が嫌
投稿した作品が落選するのにああまたかと思う自分が嫌
頭をキッチンの換気扇にぶつけて痛いのが嫌
パスタを茹でるのに時々タイマーのスタートボタンを押し忘れる指が嫌
チョコレートが無いと思考飛行する燃料が切れて不時着を余儀なくされる脳みそが嫌
独り言を言うと時々独り言を言っていると気づく自分が嫌
喋っているより書いている方が饒舌な自分が嫌
キーボードを何度も同じ箇所で打ち間違える指が嫌
薄水色の瞳だったらどんなに素敵だろうと憧れる目が嫌
何のために生きているのだろうとずっと考え続けていた自分が嫌
早く隠居したいと子供の頃考えていた自分が嫌
毎日同じことをやり続けるのが愚直だと考える自分が嫌
同じことをやらないとお金を稼げないと思う反面絵描きは一品制作だから羨ましいと思う自分が嫌
人の心は変わるのに自分だけは変わらないと信じている自分が嫌
だから好きな人を忘れられないと思う自分が嫌
人は皆純粋で正直だと信じたい自分が嫌
天才は努力で覆われているなんて考えるのが嫌
何でもかんでも物語にする脳が嫌
決まりきった結果を馬鹿みたいに難しく議論しているフリをする誰かさんが嫌
いつまで経っても壊れないテレビが素敵だと思う自分が嫌
BGMの無い映画が少ないのが嫌
ドラマを見始めるとすぐに犯人を思いがけない人に特定する自分が嫌
歌を聞くとすぐにサビを予想する耳が嫌
全て世の中はコインのように裏表があるとコインは放り上げられて落ちるとくるくる回ってパタンと地面に伏せて上になった方が表だと思う自分が嫌
新しいおいしさを見つけると瞳孔が拡大する瞳が嫌
その時昔食べたホテルの料理の味を思い出す舌がその味はその日その場限りなのに嫌
もう一度やり直したい恋人がいるのが嫌
握り合った指の感覚を思い出して頬が紅潮する自分が嫌
幼稚園で藤棚からぶら下がる藤の花が葡萄みたいと思った自分が嫌
イースターの緑の卵の殻を捲ると中身も色がついている気がした自分が嫌
どうしてできないことばかり世の中に有るのだろうと思う自分が嫌
できないこともいつかできるだろうとやり続けて挫折した自分が嫌
脱力すれば良いのに緊張を制御できない自分が嫌
部屋に寝転んでいるだけで天井から毎日一万円札がひらひらと落ちてきたらどんなに良いだろうと考える頭が嫌
昔覚えた歌を思わず口ずさむ唇が嫌
もう一度見たいドラマがもうやっていないのが嫌
それを見てももう面白く無いだろうなと考える自分が嫌
体重計に乗るとき期待と不安が交錯する足の裏が嫌
シャワーを浴びている時に鳴る電話とインターホンが嫌
何も考えたくないから無になろう いや でも始めなきゃいけない自分が嫌

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