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初恋 第12話

 順風満帆だった旅行に暗雲が俄かに差し始めたのは、終盤に入ってからだった。フラミンゴのツアーは僕の暗い気持ちを一気に吹き飛ばしてくれた。生命の讃歌を堪能した僕は、物語のハッピーエンドよろしくウキウキしていた。感動が何度も僕の目の前で映し出された。あの何百万色もあるピンクが、グラデーションをなして無限の自由さで舞い上がる様子は、天国に一番近い飛翔だと僕には思えた。

夕食には、いつものバーベキューに、ウガリと言ってアフリカ東部の主食の、とうもろこしのお粥みたいなものが出された。僕には馴染めなかった。部屋に戻って、父と母はソファーでくつろいだ。僕達の部屋はとても広かった。父が奮発して良い部屋を取っていた。部屋は三つ有った。どの部屋からも夜景が見えた。あと一日、市内観光をして、明後日にはホテルを出発する。僕はもう少し、ここに止まりたい気持ちと、祖国の家に戻りたい気持ちとが半々だった。僕はふっと気が抜けたような感じになっていた。

夜の八時ごろだったろうか、ドアがノックされた。
「ルームサービスです」
「何?」父がドアの前で尋ねた。
「支配人からワインのプレゼントですよ」
 運び込まれたワゴンにワインとチーズの盛り合わせの他に、紙の箱があった。ケーキかな? 僕は少し期待した。今朝のバイキングを逃してしまったから。

僕は父の了解を得て蓋を開けかけてすぐに閉めた。白い透明の粒。
「シロアリの卵だよ」
父の言葉に僕は本能的に後退り、何も言えなくなった。原住民は大好きらしい、父は腕を組んだ。僕はちょっと気持ちが悪くなった。今にも卵が孵化して赤ちゃんが出て来そうな予感がした。彼らはいつもこんなものを食べているのか? 怖くなった。 

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