先天性甲状腺機能低下症の一部は一過性である。

先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism, 以下CH)についてまとめた。

○CHとは?
[定義]
胎生期または周産期に生じた甲状腺の形態や機能異常による線天気な甲状腺ホルモン分泌不全の総称。日本では1979年より原発性CHを対象として新生児マススクリーニングが行われている。


[疫学]
3000~4000出生に1人の頻度で見られ、新生児マススクリーニングで最も頻度の高い疾患である。95%以上は原発性である。


[病態]
甲状腺ホルモンは、成人においては様々な代謝に関わるが、胎児や新生児の発達においても重要な役割を果たす。甲状腺ホルモンは胎生期、新生児期、乳幼児期の神経髄鞘形成に不可欠であり、この時期の甲状腺ホルモン不足は不可逆的な知能障害をもたらす。また、甲状腺ホルモンは直接骨成熟に関与し、成長ホルモン分泌を刺激する。それゆえ、甲状腺ホルモン作用不全で、成長ホルモン分泌不全、骨化成熟障害を引き起こし、成長障害、成人後の骨粗鬆症をもたらす。


[分類]
臨床経過により3つに分類される。
 ・真のCH:永続的な治療が必要。
 ・一過性CH
 ・サブクリニカルCH

○一過性CHとは?
[定義]
一過性にTSH高値、FT4低値を示し、その後継続して正常な甲状腺機能を認める群。


[疫学]
北米ではマススクリーニング陽性児の5~10%。フランスではマススクリーニング陽性児の40%。


[原因]
原因は大きく分けて4つ。
①母体が甲状腺疾患
抗甲状腺薬の服用:生後数日~2週続く。
阻害型TSH受容体抗体の移行:生後3~6ヶ月続く。


②ヨード過剰・欠乏
ヨード過剰は、世界有数のヨード消費地域である日本で多い。欠乏はまれ。

③低出生体重児


④遺伝子変異
Dual oxidase2(DUOX2)遺伝子変異は、Tyroid oxidase2(THOX2)遺伝子変異とともに最も頻度の高い甲状腺ホルモン合成障害である。DUOX2異常によりH2O2供給障害が起きる。H2O2は、甲状腺ホルモン合成において無機ヨードを有機化する際に必要。ホモ接合体であっても軽症で、ヘテロ型の場合、更に軽症で甲状腺機能低下症にならない。原因不明の一過性新生児甲状腺機能低下症の半数はDUOX2 or THOX2遺伝子変異という報告もある。

画像1

(出典:長崎甲状腺クリニックホームページ

[治療]
一過性CHに対する治療にはコンセンサスが得られていない。一過性とはいえ、甲状腺機能低下状態なのだから甲状腺ホルモン補充を行うべきとの意見もある。ただ、真のCHであれば生涯ホルモン製剤を内服しなければいけないところを、一過性CHであれば途中で内服をやめられる可能性があるのだから、診断する意義が十分あると考える。

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