膨張する金木犀
「台風が猛威を振るいそうだから、早めに準備しておいたほうがいいね」
弟の一声で、スーパーへ出かけることにした。生活用品を買い足すとき、男手があるとほんとうに助かる。
9月最後の日曜日。14時の空気はやや重く、ぬるい。半袖を着た人たちが足早に坂を上っていく。金木犀の香りがそこらじゅうに停滞していて、わたしたちはそれを切るようにぐんぐんと足を進めた。
‘‘金木犀’’ということばを見たり、想像したりすると、オレンジ色の小さな花のカケラが視界の両端にチラチラと散らばる。‘‘犀’’が‘‘屑’’に似ているからだろう。
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