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人類が力を合わせて困難に打ち勝った証、としての東京2020

東京オリンピック2020が終了しました。コロナ感染拡大をはじめ、運営組織の問題など様々な問題がありましたが、多くの選手がコメントしているように、また、事後調査の結果にもあるように、「開催してくれてよかった」と思いました。

実は、私自身はオリンピックにはあまり乗り気がしていませんでした。多くの日本国民もそんな気分だったかと思います。私はシンガポールにいるのですが、シンガポールの新聞、The Straits Timesなどの論調も、オリンピックに関してはかなり否定的なトーンでした。シンガポールだけでなく、BBCやニューヨークタイムズなど、各国の主要メディアもネガティブな論説を展開していました。

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私は、もともと、東京がオリンピック招致に参加した時から、あまり乗り気ではありませんでした。オリンピックを招致するための大義が感じられなかったからです。何故、日本で、東京でやらなければならないのか?そこのところが腑に落ちませんでした。「復興五輪」というメッセージも、日本のためだけに世界を利用するという雰囲気があって、なんとなく違うんじゃないのかなと思っていました。

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しかし、オリンピックが始まって、開会式を見た瞬間に、私の気持ちが急変します。コロナ禍を乗り越えて東京に集まってきた205の国と地域の選手たち。そして、難民選手団。よくぞこれだけの人々を世界中から集められた。なんだかんだ言われながら、よくぞこのイベントを実現できた。嬉しそうに入場してくる選手たちの笑顔を見た瞬間に、私は、オリンピックをこの時期、東京で開催することの「大義」を発見したのです。

コロナという感染症のおかげで、世界は大変な目に遭いました。世界中で多くの人が、人種や、文化や、宗教や、貧富の差に関係なく、同じ病気で苦しみ、多くの命が失なわれ、多くの人が仕事を失い、希望を失いました。旅行ができなくなり、打撃を受けた業界は数多く、経済も打撃を受けました。ロックダウンや、様々な規制で生活も不便さを強いられました。

歴史上まれにみる困難の中にありながら、逆境を乗り越えて実現したオリンピック。それを開催することによって、人類はどんな困難にも打ち勝つことができるということを証明できる。人類はコロナには決して負けたりしない。それだけのレジリエンス(強靭な忍耐力)を持っている。それを世界に発信し、人々を勇気づけ、ともに力を合わせて、コロナと戦っていこう、共存していこう。人類はそんなにひ弱ではない。力を合わせれば打ち勝てる。やればできる。それを実証する場所が、この東京オリンピックなのだ。それこそが東京でオリンピッックを開催することの大義なのだ、と感じたのです。

「おもてなし」をアピールしていた招致活動のときには見えなかった「大義」が、東京2020の開会式の選手入場を見てはっきり見えた気がしたのです。

橋本聖子会長は「今こそ、アスリートとスポーツの力をお見せするときです。その力こそが、人々に再び希望を取り戻し、世界を一つにすることができると信じています。世界は皆さんを待っています。私たち組織委員会は、半世紀ぶりとなるこの東京大会が、後世に誇れる大会となるよう、最後までこの舞台を全力で支えて参ります」と開会式で涙目で語りました。大人の事情が渦巻く組織委員会と政府と東京都の間で大変なご苦労があったことと思います。本当にお疲れ様でした。あまり、真剣に聞いている人は少なかったかもしれませんが、私はこの言葉の行間に「大義」の存在を感じていました。

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東京オリンピックのテーマとして、「より速く、より高く、より強く」に付け加えて“Together”という言葉が加えられたのは象徴的でした。“Faster. Higher. Stronger”は、文法的には比較級です。“Together”は語尾が同じ音ですが、比較級ではありません。が、まるで「(これで以上に)共に」という比較級のように感じたのは私だけでしょうか。

この開会式の画像をあらためて見てみたら、これら4つの単語の上下に引かれていた線は5つの色。五輪の色の青、黄色、黒、緑、赤の五色だったのです。もともとの五つの大陸という意味に、競技を競い合いながら、共にあるという意味が付加されたのだと自分なりに勝手に解釈しました。

生まれはアフリカや、中国でありながら、様々な国に帰化して、それぞれの国の代表としてオリンピックに参加している選手も沢山いました。難民選手団など国を代表していない選手たちもいました。5つの大陸という区分がほとんど意味を持たないグローバルな時代に我々は生きているのだとあらためて思いました。

オリンピックのYouTubeチャンネルに、“The most emotional moments at Tokyo 2020”というタイトルの動画がアップされていましたのでシェアさせていただきます。オリンピックでの感動的なシーンをつないだものですが、勝ったシーンだけでなく、負けたシーンも入っているのが感動的です。

素晴らしい編集です。素晴らしいシーンが満載ですね。

自分でも、オリンピックで印象に残ったものをいくつかの切り口でまとめてみました。

Togetherを感じたシーン

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国や人種を超えて、喜びを分かち合うシーンが多々見られました。スケートボード女子パークで、惜しくもメダルには届かなかった岡本碧優(みすぐ)選手を他の選手が集まって健闘を讃えるシーン、男子800メートルの準決勝でボツワナとアメリカの選手が接触して倒れた後、二人で仲良くゴールするシーン、男子走り高跳びで、カタールのムタズエサ・バルシム選手と、イタリアのジャンマルコ・タンベリ選手がそろって金メダルを獲得したシーンなど、みな“Together”を象徴していますね。これ以外にも、いろんな競技で、国を超えてお互いを讃え合うシーンは数えきれないくらいありました。開会式の選手入場の際の旗手が男女ペアだっただったのも“Toghether”を象徴していました。選手の女性比率も48.6%と史上最も高かったそうです。

限界を超えたシーン

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コロナ禍でありながら、しかも高温多湿の真夏の東京というスポーツには適さない状況でありながら、世界記録が続々と出たことは奇跡的です。暑さに強そうな国の選手だったらわかるのですが、陸上男子400メートル障害でノルウェイのワーホルム選手が世界新で金メダルを獲ったのは衝撃的でした。他にノルウェイ選手のトライアスロン金メダル、ポーランドやイタリアの陸上での活躍など素晴らしかったですね。

日本の美学を感じたシーン

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敗者にも敬意を払うとして、試合に勝っても決してガッツポーズをしなかった柔道の大野将平選手はカッコいいと思いました。負けた相手はそれだけで落ち込んでいる、勝った喜びを示すことで敗者はさらに落ち込むとして、戦った相手に思いやりを示す柔道の姿勢に武道のスピリットを見た気がしました。

また、このオリンピックを最後のレースと決めて、ストイックに走り終えた大迫傑(すぐる)選手。メダルには届かなかったですが、見事な走りでした。走りだけでなく、生き方がカッコいいですね。

笑顔でスポーツを明るくしたシーン

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今回のオリンピックは、涙もありましたが、笑顔も溢れていました。メダル獲得という悲壮感がなく、スポーツを楽しんだ結果メダルがついてきたというシーンが多くありました。中でも女子バスケットボール。たまたまチームのキャプテンの高田真希選手や、馬瓜エブリン選手が豊橋出身ということもあり、応援していたのですが、体格のハンディをものともせず、最後は銀メダルを獲ってしまいました。決勝戦で負けても非常に清々しい見事な負け方でした。試合を楽しんでいた、という選手のコメントにも感動しました。

陸上女子やり投げで57年ぶりに決勝に進出した北口榛花(はるか)選手も、惜しくも入賞できませんでしたが、その存在自体が素晴らしかったです。私の妻も絶賛していて、妻の実家の親も弟も、みんな「かわいい!」と言って応援していました。こういう人たちの活躍で、オリンピックが非常に明るい雰囲気になったと思います。

オリンピックを振り返ると、反省すべき点もあるのですが、結果としては素晴らしかったと思います。コロナの感染に拍車をかけたと言う人が多いかと思いますが、それはオリンピックが要因ではなく、もともと日本の対策に問題があったからです。外国から持ち込まれた感染よりも、日本国内の感染が問題でした。外国人選手に感染者も出ましたが、バブル方式は極めてうまく機能したと思います。それよりも日本のワクチン接種率が低すぎたことが問題だったと思います。オリンピック後の感染拡大をオリンピックのせいにしてほしくはないと思います。

「日本でなければオリンピックを開催できなかった」という声も世界のあちこちから聞こえてきましたが、たしかにそうだったかもしれません。破綻しそうになりながら、最後まで諦めず、実現に漕ぎ着け、そして見事な成果を残したということができるでしょう。やがてコロナが収束し、未来から東京2020を振り返った時、人類が困難に打ち勝った証として記憶されていることを祈ります。

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