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コロナ禍を感動的に描いたAmazonのコマーシャルに関して伝えておきたいこと

2020年のAmazonのホリデーシーズン向けのグローバルCMが世界的に話題になりました。英国のエージェンシーが制作したこのコマーシャルは、2020年11月3日に英国で放映され、11月8日にアメリカで放映開始。その感動的なストーリーは、世界中に感動を呼びました。

日本ではほどんど知られていないですが、こういうコマーシャルがコロナ禍で作られたという事実、そして、このコマーシャルを作り上げた制作サイドのことも是非、知っておいていただきたいと思いました。

アマゾンのコマーシャル、"The Show Must Go On"の感動的なストーリー

まずは、コマーシャルのストーリーを簡単にご紹介しておきます。

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バレエクラスの年末公演の主役が発表されます。選ばれたのは、黒人の少女。

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少女は家に帰って、家族に報告します。家族も大喜びです。

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しかし、すぐにコロナで全国的に学校が閉鎖するというニュースが入ります。

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リモートで公演の準備をする少女。

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少女は、家の中や、近所で、練習に励みます。

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練習中の少女を遠くから見守る近所の少年の姿も時々現れます。

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少女の髪を編む母親の姿。

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しかし、ある日、一通の手紙が…。なんとバレエの公演がキャンセルになったとの知らせ。ショックを受けて落ち込む少女。

しかし、妹があることを思いつきます。手作りでポスターを一生懸命に作る妹。ミシンで娘のバレエの衣装を作る母親。

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妹は、手作りのお知らせを近所の家に配ります。おそらく、バレリーナの少女に思いを寄せているであろう近所の少年にもその知らせが届きます。

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アマゾンで懐中電灯のようなものを注文する少年。

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アマゾンの箱からずっしりとしたライトを取り出します。

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そして、公演の当日。

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雪の降る中で、少女はソロでバレエを。

窓から眺める近所の人々。

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おそらくこの窓辺の女の子は、この光景を見て、自分もバレエを目指そうと思ったかもしれません。

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例の少年がアマゾンで購入したライトにスイッチを入れると、それがスポットライトとなって少女を明るく浮き上がらせます。

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"The Show Must Go On"というタイトル。

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雪の中にアマゾンのロゴ。

アマゾンロゴ

それでは、動画をご覧いただきます。

このコマーシャルを彩るQUEENの"The Show Must Go On"の曲

"The Show Must Go On"というのは、1991年の10月14日にQueenがリリースした曲です。すでにエイズが悪化していたフレディ・マーキュリーが、エイズに蝕まれようとショーは続けないといけないという渾身の思いを込めて歌い上げた名曲です。この曲がリリースされた次の年の11月24日にフレディー・マーキュリーは亡くなります。

じつは、コマーシャルの冒頭から静かに流れている旋律は、実はこの曲です。雪の中のバレエ公演のクライマックスで、この曲が流れるところが感動的ですが、そこでQueenのその曲だったとわかります。

"The Show Must Go On"は、このコマーシャルのタイトルにもなっています。コロナの時代で、学校や、エンターテインメント系のイベントは中止になってしまうのですが、そんな状況の中でも止めてはいけないものがあるという力強いメッセージになっています。

じつは11月24日がフレディ・マーキュリーの命日でした。まるでその命日に合わせて作られた作品のように思えます。

参考までに、QUEENの"The Show Must Go On"のミュージックビデオはこちらです。

フランス生まれの黒人バレリーナ、Taïs Vinoloの起用

このコマーシャルの素晴らしさの一つは、黒人のバレリーナを起用したというキャスティング。

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バレリーナの少女を演じているのは、Taïs Vinoloというフランス生まれの17歳(当時)のバレリーナです。ネットに出ていたのですが、彼女のコメントがこちら。

「私はフランスの田舎で育ったのですが、黒人でバレエを勉強している子は一人もいませんでした。私のような髪をした女の子はいませんでした。テレビでも、世界中のどこにも、自分をアイデンティファイできるような人はいませんでした。今回、この撮影に参加して、非常に多くのものを得ることができました。自分が本当は何であったのがわかったし、どうなりたいのか、そして私という存在が何を示しているのかも把握することができました。このプロジェクトに参加できたことはとても光栄でした。この作品が伝えるメッセージは自分にとっても非常に重要なことだし、とくに今年のように世界が直面している困難の時代にはとくに意味のあることだと思います」

原文はこちら、“When I was growing up in the French countryside, there were no young Black girls studying ballet with hair like mine, or even on TV, meaning I had no one to identify myself with. Being on this shoot helped so much with this, enabling me to own who I really am, who I want to be and what I represent. I am so proud to have been part of this project since the message of it means a lot to me and even more so in this very difficult time that the world is going through.”

私たちは、黒人のバレリーナという存在自体、あまり考えたこともありませんでした。しかし、Taïs Vinoloのこの演技を見て、バレエに人種の限定を与えるのは間違っていたと痛感したのでした。

このコマーシャルを見て、人種に関係なく、バレエを追求してもよいんだ、夢を追いかけてもいいんだと勇気付けられた女の子たち(男の子も)は実に沢山いたのではないかと思います。

このコマーシャルを作った監督も黒人女性だった!

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このコマーシャル作品を作ったのは、1981年生まれのMelina Matsoukasという女性の監督。ビヨンセや、Rihannaのミュージックビデオとかで数々の賞を受賞している映像ディレクターです。

この方も黒人です。だからこそ、彼女もこの作品を通して伝えたかったメッセージは山ほどあったのだと思います。

撮影監督は中国系の女性、しかも何と35ミリフィルムで撮影していた!

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この作品の撮影監督を務めたのは、Rina Yangというロンドンで活躍する中国系の女性です。

経歴を見ると、日本の田舎町で育ち、日本でスチルと映像の勉強をしたらしいとのこと。いずれどんどん有名になっていく人だと思います。映画の「ボヘミアン・ラプソディ」でもカメラマンとして参加していたようです。彼女のサイトはこちらです。

https://rinayang.com

映像もスチルも両方とも仕事しているようですが、何と今回のアマゾンの映像は35ミリフィルムを使って撮影したようです。画面の縦横比率を見ると、35ミリフィルムの比率ということがわかりますが、画面の質感もそんな感じですね。デジタルの時代の今、35ミリフィルムに拘るというその姿勢が素晴らしいです。

さらに広告代理店の社長も女性だった!

そして、そして、このアマゾンのCMの仕事を扱っていたのは、Lucky Generalsというロンドンの広告代理店。2013年に創業して、数々のクリエイティブ作品を生み出し、TBWAが完全買収をしようとした代理店ですが、このエージェンシーのCEOはHelen Calcraftという女性です。

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アマゾンは以前からのクライアントのようです。他の作品も実に素晴らしいので、また別の機会にご紹介したいと思います。

ということで、このアマゾンのコマーシャルには、こんなにすごい女性たちが関わっていて、それぞれの熱い思いがこのコマーシャルを作り上げていたのだと思います。コロナだけでなく、黒人という人種の困難、そして女性というハンディキャップ、それらの壁を乗り越えて世界にメッセージを伝えたいという気持ちがこの作品に凝縮されています。そういう観点で見ると、この作品が実に輝いて見えてくると思います。ベランダから少年が照らすスポットライトのように。



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