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オリンピック開会式のバッハ会長のスピーチの導入部に学べ!


2021年7月23日の東京オリンピックの開会式。直前まで、いろいろとゴタゴタがあり、どうなることかと心配しておりましたが、開会式の映像を見て、感動しました。オリンピック開催にはどちらかと言うと反対でしたが、困難を乗り越え東京に集まった世界各国のアスリートの嬉しそうな笑顔を見ていたら、実現できてよかったと思いました。どんなに非難を受けようが、諦めなかった関係者の皆さんに賛辞を送りたいと思います。また、これに関わったボランティアの皆さん、ありがとうございました。

開会式に関しては、よかったところもあり、悪かったところもあり、いろいろと書きたいところではありますが、話を広げすぎると結局論点がボケてしまうので、一つのことだけに絞って書きたいと思います。

それは、アナウンスで何度も登場した、“Ladies and gentlemen”という呼びかけでした。オリンピックでは伝統的にフランス語と英語が使われますが、フランス語で、“Mesdames et messieurs”と言った後に、“Ladies and gentlemen”が来るというのが慣例でした。

前に「ノンバイナリー」の時代の英語表現に関して、触れたのですが、ダイバーシティやインクルージョンが重要なオリンピックやパラリンピックでは、“Ladies and gentlemen”はもう使われないのではないか、それをするとしたらこの東京2020が非常によいタイミングだと思っていました。しかし、残念ながら、それは実現しませんでした。

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日本の国歌を歌ったMISIAさんの虹色の衣装は明らかにLGBTの「レインボーフラッグ」を連想させるものでした。今回のオリンピック・パラリンピックは「多様性と調和」がテーマになっていて、性的少数者(LGBT)だと公表した史上最多の選手が出場しているのだそうです。

このような時代にあって、“Ladies and gentlemen”という言葉を世界中に発してしまった東京オリンピックは、世界中から冷ややかな目で見られてしまうのが残念です。せっかく困難な状況を乗り越えて実現されたオリンピックという伝説ができつつある中で、このような汚点を残してしまうのを悲しく思います。誰かアドバイスできなかったのでしょうか。

2020年10月1日から、JALが空港や機内のアナウンスで“Ladies and Gentlemen”という表現を止めるというのがニュースになりました。東京ディズニーランドとシーの園内アナウンスも、2021年3月18日から“Ladies and Gentlemen, Boys and Girls”長年使っていた表現を取りやめ、「Hello Everyone」など性別を特定しない文言に変更し、性的マイノリティーの来園者などにも配慮した表現にしています。欧米では、すでに数年前から、公共交通機関で“Ladies and Gentlemen”という表現は廃止しているところも多いと聞いています。

今回の開会式で、バッハ会長の演説が長すぎたと非難を浴びていますが、バッハ会長の演説の出だしは、伝統を踏まえた上で、LGBTにも配慮した素晴らしいものでした。彼は、こんな感じでスピーチを始めます。

“Your majesty, the Emperor, dear athletes, dear Prime Minister Suga Yoshihide, dear governor Koike Yuriko, dear president of the organizing committee and fellow Olympian, Hashimoto Seiko, your excellencies, dear Olympic friends, welcome to the Olympic Games Tokyo 2020.”

天皇陛下、管首相、小池都知事、橋本オリンピック委員会会長など、列席されている方々の名前を並べるのは、英語のスピーチの定型ですが、最後に“your excellencies”ときたら、“ladies and gentlemen”と来るのが通例でした。それをバッハ会長は、“dear Olympic friends”と繋げます。

これは素晴らしいと思いました。“dear friends”というと、バッハ会長のことを快く思っていない人たちは、「あなたに友達と呼ばれる筋合いはないよ」と思ってしまいます。最近はバッハ会長のことを非難する人も多くいましたので、こう思う人は相当数いたと思われます。

ところが“dear Olympic friends”と言えば、バッハ会長の友達でなくとも、オリンピックを通して繋がっている全ての人というような意味になります。参加しているアスリートもそうだし、関係者やボランティアの人もそう、そして世界中でテレビを視聴してオリンピックや自国の選手を応援しているすべての人々が含まれます。

バッハ会長のスピーチのこの部分に着目している人はあまりいないと思うので、これは自分で解説しないといけないと思いました。バッハ会長のスピーチはちょっと長すぎたかもしれません。しかし、この導入の部分だけとっても、バッハ会長が“Ladies and gentlemen”を使わずに、オリンピック精神に則り、性的少数者にも配慮したという姿勢にスタンディングオベーションをしたいと思います。

オリンピック委員会の皆さん、この後、続く閉会式や、パラリンピック関係者の皆さん、まだ時間はありますので、この件、一刻も早く議論していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。


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