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ベトナム縦断記。その6(タヒエン通り〜トレインストリート)〜スーツの日本人と私服の西洋人

タバコ売りの少女は、ハノイ有数の歓楽街・タヒエン通りに消えていった。
タヒエン通りは、現代のクラブや賑やかなバーが並ぶ細い路地である。

それまでの通りが、小さな座椅子を並べた屋台で埋め尽くされていたのに対し、この通りはレーザー照明などが焚かれ、過激さはないが華やかな雰囲気である。踊り狂っている人はいないが、豪快に酒を酌み交わしている人が多くいた。
背の高いスツールに大人たちが腰掛け、カラフルなカクテルを傾けている。派手な居酒屋といった雰囲気だろうか。

いわゆる観光客らしき人たちが、お酒を楽しんでいる。服装も様々で、聴こえてくる言語も色とりどりだ。この頃になると、英語だけでなくベトナム語、フランス語など言語の種類が聞き分けられるようになっていた。(何を言っているかは、もちろんわからない)

喧騒に耳を傾けて気づいたのだが、スーツを着ている大人のほとんどが日本語を話している。逆に、私服姿から日本語は聴こえてこない。
日本とベトナムを結ぶ航空便の多い理由が、なんとなくわかった気がした。

どの店も通りにテーブルを出しているので、ただでさえ狭い路地はすれ違うことすら難しくなっている。左右の店から次々とメニュー表が飛び出し、一杯どうだと誘ってくる。
どの店のメニューも鮮やかな料理の写真はあるものの、値段は全く書かれていない。ぼったくる気満々だ。

先に通りに走っていったタバコ売りの少女が折り返してきた。狭い通りに足止めされている大人たちの間を、相変わらずすり抜けていく。東南アジアでは店舗に押し入り、個人が商売をする。少女はスツールに腰掛ける大人たちに手を伸ばしながら、タバコを売っていた。冷たくされることにも慣れているのか、淡々とテーブルを回っていく。
彼女はタバコを蒸す大人たちに何を思うのだろうか。

通りを後にして、住宅街を歩く。屋台の灯もまばらになり、仕事を終えたのか、家族で食事をしている人たちがいた。とはいえ、辺りはしーんと静まり返っている。バイクもほとんど走っていない。

確か近くに、鉄道が走っているはずだ。線路を探していると、寝台車がゴトゴトと音を立てて闇を切り裂いていった。ハノイ駅を出発した列車は、丸2日をかけて1700kmを征く。列車が去っていくのを、ぼくは立ち止まって見つめた。10秒、20秒、まだ客車は繋がっている。30秒、40秒、なかなか途切れない。

ーこの列車、遅くない?


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