見出し画像

ベトナム縦断記。その9(〜ハノイ歌劇場)靴直しとゴーカートポリス

ホテルを出た時から、朝食はフランスパンのサンドイッチ・バインミーと決めていた。
店を探すのも大変なので、昨晩訪れたバインミースタンドに向かう。

店舗に入ろうとすると、見覚えのある顔がレジに立っていた。ぼくに高額紙幣の払い方をレクチャーした、例のマネージャーだ。

まだ支払いに不安があったので、思わず足が止まる。お金の払いかたも分かってないのに、また来たのか‐ なんて思われたら辛い。(絶対にそんな事は無いんだろうけれども)

マネージャーに気づかれないようにそっと店を離れ、別のバインミースタンドに向かう。
チキンとニンジンのバインミーに、ベトナムコーヒーを併せて購入。実はベトナム、コーヒーの生産量が世界第2位ということで、コーヒーが大変有名だ。

店頭でバインミーの焼き上がりを待っていると、1人の男性が椅子を差し出し、ぼくに座れと促す。
例のお風呂椅子だ。やんわり断っていると、男性は僕の左足にしがみつき、小さな醤油差しのようなもので透明の液体を靴にふりかける。

!!!

どうやらそれは接着剤らしかった。スニーカーの割れたところに接着剤をふりかけている。
と言っても、小さなひび割れで雨に降られたくらいで靴の中が濡れてしまうといったことはない。母趾のあたり、スニーカーの側面だ。
ともかく靴直しに、目をつけられてしまったようだ。

善意100%なはずがない。直してやったんだから金払え、とか言われたらどうしよう。
ガッツリ左足をホールドされながら、そろそろ断り文句を考えないとななんて、思い始めたころ、バインミーが出来上がった。飛び上がるように商品を受け取り足早に店を離れる。
靴直しはなにか叫んでいたが、構っていられない。しばらく走ってから湖のほとりのベンチに逃げ込んだ。

ベトナムコーヒーは、甘すぎる。
シロップがたっぷり入っているらしく、苦味はほとんどない。冷たくなかったら、とても飲めたもんじゃないなという感じだった。

慌ただしくも腹ごしらえを終えて、観光に出かける。
湖のまわりは、昨晩同様歩行者天国になっていた。多くの人が行き交い、露店などを楽しんでいたが、中でも人気なのが子供用のゴーカートだ。
歩行者天国全体を自由に走り回れるゴーカートは、働く乗り物がモチーフになっており、救急車や消防車などにまたがる子供たちで賑わっていた。

微笑ましく歩いていると、後ろからクラクション。すぐさまサイレンも聞こえてきた。
どうやらぼくはパトカーの追跡を受けている。
まさか公安に目をつけられるとは。社会主義の警察なんて想像するだけでも恐ろしい。
もっとも、ぼくを追いかけていたのは小さなお巡りさんだった訳だけれども。

ゴーカートポリスの追跡をかいくぐると、ちょっとした広場に出た。
まるでゴーカートが、ぼくをこの場所に導いたかのようだった。

現れたのはハノイ歌劇場。100年以上の歴史を持つオペラハウスである。
歴史の証人でもあるこの施設。1945年8月にはこの場所で独立を目指す革命軍が蜂起した。歌劇場の2階のバルコニーから、ホーチミンは演説をしたという。

ここからぼくはベトナムの“過去”に触れていくことになる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?