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EFが低い心不全は全例LOS(低灌流)?

 先日、エコー所見の見方について初心者向けに説明しました。では、中堅くらいの医師や研修医として慣れてきた方も、正確に答えられないのではないかと思う質問をします。

EF 20%の患者は低灌流か?

 どうでしょうか?EF20%でも日常生活を送っている患者さんもいますよね。ということは、日常生活レベルの全身の酸素需要は満たせている、ということになります。では、もうひとつ質問です。

低灌流を示唆する「所見」は?

 わかりやすく言えば、全身の酸素消費量を満たせるだけの心拍出ができていない状態です。だから、「必要な臓器への血流を維持するために、相対的に必要性の低い臓器への血流を絞っている」状態です。
 尿量低下、皮膚の冷感、意識レベルの異常(興奮)、などがわかりやすいですね。過去記事もお時間のあるときにご参照ください!

再び「EF 20%の患者は低灌流か?」

 必ずしもそうとは言い切れないことがわかったでしょうか。もちろん、オリンピックで激しい運動をしろと言われたらすぐに低灌流になってしまいます。が、日常生活が無理なく送ることができていれば、低灌流所見は認めないはずです。
 つまり、「EFの高い、低い」と「全身の酸素需給が満たせているかどうか」とは直接関係ありません。よく勘違いしている方が多いので注意してください!

EFが低い患者でもSV(一回拍出量)は保たれている!

 EFの低い患者さんの心臓では、何が起きているのでしたか?普通は、「心拡大」が起きていますね。心臓が大きくなることで、「EFは低いものの、心臓が大きい分、心拍出量は保てている」のです。

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※ 平面で例えます。
 上段が正常な心臓とします。内腔が、拡張期→収縮期で「青→ピンク」に変化したとします。すると、青からピンクを引いた面積が、SV(一回拍出量)になります(一番右の図の、青色のリングの面積)。
 下段は、EFの低下した拡大心です。同様に収縮によって「青色の内腔」が、「黄色の内腔」にまで変化したとします。すると、青から黄色を引いた面積がSV(一回拍出量)になります。
 上下で、青色の「面積」そのものはほとんど変わりません。これは「一回拍出量が一緒」ということです。ですが、EF(駆出率)という意味では上下では大きく異なります。EFというのは、もとの内腔からどれだけ内腔が減ったかの「割合」だからです。拡大心では、EFは低下していることは「明らか」ですよね(EFが便利なのはそういう意味でもあります)。

EFの低い患者は、酸素消費量が増えたときに、デコンぺりやすい(急性増悪しやすい)

 拡大心というのは、EFの低下(収縮能の低下)を補うために、代償機構として「心拡大」を起こしたものです。つまり、「無理をしている心臓」なのです。
 生理学の基本は「ホメオスタシス」です。慢性疾患では、「代償機構」が先行して働きます。ですから、心拍出量が低下する(避けてはならないこと)前に、代償機構が働いて、心拍出量を維持しようとします。それが心臓の場合、心拡大なのです。
 
心拡大している心臓は、「これ以上無理ができない」可能性が非常に高いです。循環動態が破綻しやすいです。無理をさせないようにしましょう。無理さえしなければ日常生活は問題なく送れます。

まとめ

① 心拡大は、収縮能低下に対する心臓の代償機構。EFは落ちていても、一回拍出量は保たれている。必ずしもEF低下=低灌流ではないことに注意が必要(EF低下している全例に強心薬を使うのは、やりすぎ)。

② EFが落ちている心臓は、すでに無理をしている。これ以上無理をさせないことも、日常指導で大切。


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