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虚血性心疾患は全例「大急ぎ」か?

 みなさんは虚血性心疾患というとどんなイメージをお持ちでしょうか?

 典型的な病気は「急性心筋梗塞」ですよね。

 そのイメージのせいか、「虚血性心疾患は全例緊急性が高くて、大慌てで心臓の専門科にコンサルト!」って感じですか?

 でも、心臓(心筋)の虚血といっても、全例が緊急な訳ではありません!

「急ぐ虚血」と「急がない虚血」

 まず、虚血性心疾患をざっくり理解する上で大事なのは、「急ぐ心筋虚血」を見抜くことです。介入が遅れると、患者さんにすごく大きなデメリットが生じる様な状況を見逃さないことです。

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急ぐ虚血=急性冠症候群(ACS)

 「急性冠症候群ACS」という言葉があります。よく後輩に伝えているのは、「急に冠動脈にイベントが起きて、血管が詰まるか、詰まりかける病態」だよと伝えています。いわゆる「プラークが破れ急に血管内に血小板血栓がドドドっと出来上がって、あっという間に血管内腔が失われ、血流がなくなる」病態です。そうなると、血流を欲しがる心筋はひとたまりもないわけです。その結果、心筋が壊死に陥る場合を、「急性心筋梗塞」と呼び、壊死にまでは陥らない場合を、「不安定狭心症」と分けています。
 突然プラークが破れて血管を閉塞(もしくは亜閉塞)させる訳なので、
 ・急性発症
 ・新規発症
 ・安静時に発症
 という発症様式がポイントです。

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急がない虚血(=安定虚血性心疾患)

 一方、「急ぎそうで急がない」病態が、「安定虚血性心疾患(上図でいう「慢性冠動脈疾患)」です。典型的には「いつも同じ負荷」で「狭心痛」が生じます。冠動脈の血管内腔が、器質的な病変(プラーク)によって狭められている(狭窄)ことによって生じます。安静時の心筋はそれほど酸素を消費しませんが、負荷時の心筋は非常に多くの酸素を消費します。負荷時に必要な酸素を供給できなくなると、典型的な胸痛が生じます。負荷の程度が軽ければ症状は出ません。
 とはいえ、みんながみんな典型的な胸痛を生じるとは限りません。糖尿病があったり高齢女性では胸痛がないことも多々あります。そのため、運動負荷を行いながら「胸痛以外の所見」を頼りに評価する必要があります。
 また、虚血カスケードにおいて「胸痛が出るのは最後」なので、その意味でも、「胸痛以外の所見」を頼りに評価しないと虚血性心疾患を見落とす可能性があります。それを見逃さないために心臓の専門科が行っている各種の検査がいわゆる「虚血評価」というやつです(①心筋シンチ、②心臓MRIなどが有名ですね)。外来で、比較的のんびり検査してもいいわけです。

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※虚血評価ハンドブック(南江堂)より引用

※ このカスケードを理解していると、ERや病棟での胸痛患者の対応に迷いがなくなります。胸痛が持続している患者において心電図変化やエコーでの異常がなければ、その胸痛は心筋虚血に由来しないものとほぼ断言することができるからです!

まとめ「虚血性心疾患は全例大慌てじゃなくて良い」

 冠動脈に急に血栓がわいて、血流が突然なくなり、心筋が進行性に壊死する病態。これこそ緊急性の高い病態であり、カテーテル検査・治療を急ぐ病態です。それが「急性冠症候群ACS」という言葉に込められた意味です。
 これを示唆するのが
 ・急性発症
 ・新規発症
 ・安静時に発症
です。これらの発症様式による胸痛では、急性冠症候群の可能性を念頭に置いて問診・検査を続けていきましょう。

 逆に、そうでなければ、ひとまず落ち着いて対応しましょう。
 「たまたまとった心電図でST異常があった。」「たまたまとったエコーで壁運動異常があった。」などの場合は、多くの場合、急がないので落ち着いて対応しましょう!

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