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ソムリエの仕事の裏側~2020年10月Sakeラインナップのセレクト編~

お酒のリストにはソムリエの意図がふんだんに込められています。それを今回6つほど御紹介いたします。


北仙台『和酒バル 二喬/NIKYO』のSakeラインナップ(1グラスにてサーヴ)の大前提として

①宮城県の新澤醸造店さんと長野県の小布施ワイナリーさんのアイテムをオンリストする

②ワイングラスを用いるのを基本とする

③Barスタイルのお酒がメインの飲食店である

これらを挙げておきます。



1.ボトムレンジアイテムとして冷卸

俳句の秋の季語にもなっているように、冷卸(ひやおろし)とはざっくりと言ってしまうと秋のSakeの事です。冷卸と冠するアイテムも早いものは残暑真っただ中の8月下旬から流通し始めます。昔むかしと今現在では様々な環境が異なり冷卸という言葉の捉え方も難しくはなっていますけども、個人的にはSakeの嗜好的本質を捉えた素敵な言葉の一つだと感じていますので積極的に用いる事で是非とも後世まで残って欲しいです。

それで、『二喬/NIKYO』では「御客様が同時期に酒販店さんに行って購入する事が出来るお酒は時節的相対的価値が低い」ので必然的に冷卸はボトムレンジの価格帯になります。今回は幾つかありまして最もボトムなものの一つは栃木県「まつのことぶき(松の寿)」です。しかも今回のSakeは栃木県が2007年に初認定した酒造好適米(醸造用玄米)とちぎ酒14を88%の低精米にて用いた燗酒にもお奨めのものです。

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10月に入りまして仙台市内に吹き付ける風にも冷気が帯びるようになりまして長袖に必須となって参りました。燗酒も身体が欲する感覚、左党にはありますよね、もしくは日本人のDNAに織り込み済。

もう一つ。宮城県「あたごのまつ(愛宕の松)」もあります。コチラは宮城県にて民間の農家さんが育成して2004年に認定された酒造好適米ひよりが用いられています。

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※今年はアイテムに原料米品種の表記無し

供給農家の石巻市の太田さんは酒米の農家さんとしても知られ、数軒の酒蔵さんとお付き合いされています。そしてこのSakeは先ほど紹介したSakeとは異なりスッキリさを追求する蔵元さんのもの。同じ冷卸とは言え、その味わいには幅があるというのを体感いただく為にご用意しています。


2.当店秘蔵アイテムを冷卸にリンクさせつつ

先ほどの「あたごのまつ」は、世界一の出品数を誇るSakeの品評会でありますSake Competitionにて純米酒部門第一位を獲得した事がありましてその年が2016年でした。その時、第二位だったのが福島県「廣戸川」2016です。

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※出荷日付は2017.1になっていますけども醸造年度としては2016年

当時コチラを飲んだ時に感動しました。異彩の美味しさでした。それで数本仕入れまして冷蔵管理によって熟成させまして今回ご用意しているものがラストストックの1本です。この銘柄は地元の酒造好適米夢の香のみ使用するという事に基本的にこだわっています(それ以外の原料米を使用するのは限定品)。近年の福島県産酒に見られるヴォリュームの強さは控えめで、それでいて口当たりのなめらかさが超一流。約四年もの熟成期間を経て余韻が棚引くように形成されています。

元々冷卸には熟成の概念が内包されています。Sakeにおける熟成の魅力をお伝えするのは一つの当店の使命だと掲げています。


3.Sakeにおいて酵母無添加の仕込みを行なう意義

正直なところ、どぶろくは好みません。進化して清酒になったと考えます。温故知新の思考はあっても先祖帰りしてしまおうとはしません。ただし、自ら民宿を営んで、調理を行ない、原料米を農薬不使用で栽培して、醸造まで行なってしまう佐々木要太郎氏の岩手県「民宿とおのどぶろく」には価値があるように思います。

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原料米は遠野1号。岩手県で1939年に誕生しながら、ほぼ昭和期にほぼ途絶えていた品種を復刻して用いています。しかも酵母無添加の生酛仕込みで。


そしてもう一つ。島根県「無窮天穏」も酵母無添加生酛です。原料米は地元産の改良雄町。杜氏である小島達也氏は神事としての酒造りを意識して、山陰だからこその吟醸造りの伝統を表現しようとしています。

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このSakeには静かに感動を覚えます。俗っぽい文字を並べますと「酵母無添加っぽくない」です。そのような味わいを生み出す為の圧倒的な思考と実行力、素晴らしいです。

このユニークな味わいは酵母無添加発酵でなければ到達できないでしょう。実は今現在北仙台では、もう1種、偉大な酵母無添加生酛仕込みのSakeがあります。是非ゼヒ3種飲み比べされるのをお奨めします。


4.パーカーポイント取得の逸品の更に限定100本の雫酒

広島県「富久長」は蔵直の限定品です。

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普段はあまりそういう仕入れは行ないません。酒販店さんを大切にしていますので。ただ、生産数が極小なものは、蔵元さんも流通させ難く、イベントで使用したりして通常の流通に乗せない事も多々。それが2020年の特殊な事情から仕入れるチャンスがありましてご用意するに至りました。

何と言ってもこのSakeはこの蔵元さんのみが手がけている八反草から造られています。広島県で親しまれ、明治期に命名されたこの米品種としては時代とともに廃れてしまい、活躍を子孫達に託した形になっていたところを、コチラの蔵元さんで歴史的な品種に挑戦するという事で2004年から復刻醸造が開始されました。

以来、ずっとフォローしてきました。この米は非常に硬質米なので、ただただ醸して嗜好性が高いSakeにはならないです。十数年間、様々な醸造を試みて、徐々に嗜好性を高めてきました。それが近年、世界的ワイン評価システムのパーカーポイントの目に留まることになり、漸くSake業界においても単なるマニアックな品種の限定品という事ではなくて広島のテロワールを表現した良品だと評価が更新されたかと喜んでいる次第です。更には今回のアイテムは100本のみ瓶詰めされた雫酒です。やはり雫酒の気品には背筋が伸びる心地です。


5.テロワール(地域の個性)を追求すること

ここまでお読みくださると賢明な左党はお気付きでしょう。

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ソムリエの仕事の裏側~2020年10月Sakeラインナップのセレクト編~

日本ワインと日本酒へのソムリエ的視点

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宮城県仙台市『和酒バル 二喬/NIKYO』のソムリエ店主が、普段の仕事からちょっと視点を変えて、めくりめく日々の日本ワインと日本酒のマーケットについて感じた事を綴っていきたいとおもいます。