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「酸っぱくない赤ワインが飲みたい」と言われたら?#2

もし、ワインを飲み慣れていないゲストから、「酸っぱいワインが苦手で、酸っぱくない赤ワインが飲みたい」と言われたらどうしますか?

経験的に多くの方が、色が濃くフルボディのワインが第一候補に上がると思いますが、その中にも酸味が高いワインが含まれている可能性があり、私は十分な考慮が必要になると考えています。

酸味はワインに上品さやキレを与えますが、反面、ワインをあまり飲まない人が敏感に反応し、苦手だと感じやすいワインの味覚の一つです。特に今回想定したゲストは「酸っぱのが苦手」というからには、特にその傾向が強いでしょう。ワインの酸味を分析的に絶対値で把握することにより、より良いワイン選びできるようになるに違いありません。

カベルネ・ソーヴィニヨンは酸っぱいブドウ?

フルボディの赤ワイン代表格である、カベルネ・ソーヴィニヨンというブドウ品種の酸味は高いでしょうか?低いでしょうか?

これは、ボルドーかニューワールドかは関係なく、ブドウ品種自体の特徴についての問いです。私もつい最近まで明確に答えることが出来ませんでした。

この問いがピノ・ノワールなら、かなりの人が「高い」と答えると思います。カベルネ・ソーヴィニヨンはピノ・ノワールと双璧をなす人気の黒ブドウ品種ですが、最もベーシックな味覚に対して、なぜ即答が出来ないのでしょうか。

ソムリエ試験でのカベルネ・ソーヴィニヨン

ソムリエ資格を持つ方であれば、試験の時にどんな選択をしたか思い出そうとするかもしれません。私も思い出そうとしたのですが、さっぱり思い出せませんでした。笑

選択用紙を改めて確認すると、ソムリエ試験での酸味の選択肢は以下の8通りです。

1.シャープな、2.爽やかな、3.なめらかな、4.円みのある、5.キメ細かい、6.やさしい、7.力強い、8.ストレートな

有名な佐々木健太先生の試験対策動画によると、カベルネの場合は、「3.なめらかな」が正解になることが多いそうです。そして、メルローやシラー、テンプラニーリョなどの、色が濃くフルボディのワインも同じとのことです。

では、「なめらかな」って、酸の絶対値は高いのでしょうか、低いのでしょうか?

この表現からは、それがわからないと思います。この表現は、酸の絶対値ではなく、酸とその他の要素とのバランスで生み出された相対的な質感を示しているからです。

絶対的な酸度の話をします。ワインの話ではありませんが、コーラのPHは2.0(ワインは3.0~4.0)にもかかわらず、ダイレクトに強い酸味を感じないのは、圧倒的な糖度(113g/L)がバランスを和らげているからです。

これと同様に、フルボディの赤ワインにまれる豊富なタンニンやアルコールが酸味の感じ方を和らげています。しかし、そのバランス効果はコーラには遠く及ばず(※)、ワインの酸味はよりダイレクトに伝わります。

※ドゥミ・セックのシャンパーニュが、32~50g/Lの糖度であることを考えるとコーラの糖度は本当に圧倒的で、トカイ・アスーの5プットニョシュ(120g/L)に迫る値です。

絶対値のテイスティング

赤ワインの絶対的な酸度を知るには、WSETの知見が役に立ちます。WSETのテイスティングは、全て絶対値での評価になっており、甘みやタンニンといった要素とのバランスを切り離して酸味を5段階で評価します。

1.低い、2.やや低い、3.中程度、4.やや高い、5.高い

基本的に、WSETのティズティングではカベルネ・ソーヴィニヨンの酸味は「高い」と評価されます。

私はこれを聞いた時にハッとしました。ワインを飲み始めた頃、左岸のボルドーって酸っぱくてキュッとするなと感じることがあったのですが、フルボディのワインに酸味が高いと評価する発想がなかったのです。

逆に、メルローが主体のボルドーの左岸は飲みやすく感じていました。WSETのティスティング的には、メルローは基本的に酸味を「やや高い」と評価することが多かったです。感覚的にも納得のいく評価だと思います。

冒頭の「酸っぱい赤ワインが苦手」というゲストには、カベルネ・ソーヴィニヨンは避け、メルローをオススメしたほうが良さそうですね。感覚的にも優しく肉厚な感じのするメルローは苦手な人が少ない印象です。

経験的にはメルローを勧めることは当たり前のことかもしれませんが、理屈で改めて整理すると納得と応用が得られます。

以下、参考に代表的な産地・品種の酸味がどう評価されやすい傾向にあるのかまとめますので、ご参考にご覧ください。

代表的な産地・品種の酸味

同じ産地・品種でも、高品質なものであれば酸味は高くなり、反対に品質が低ければ酸味は低くなりがちです。品質がある程度変わってもブレが少ないと考えられるものを記載します。

酸味が高い

  • ピノ・ノワール(生産地域を問わない)

  • ボルドー(左岸・カベルネ・ソーヴィニヨン主体)

  • クナワラ(カベルネ・ソーヴィニヨン主体)

  • コート・ロティ

  • バローロ

  • キャンティ・クラシコ

  • リベラ・デル・ドゥエロ

傾向として、比較的涼しいエリアや昼夜の寒暖差が激しいエリアとそれに適した品種のワインであることが多いです。

酸味がやや高い

  • ナパ・ヴァレー(カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー)

  • ボルドー(右岸・メルロー主体)

  • クローズ・エルミタージュ

  • リオハ(テンプラニーリョ主体)

傾向として、比較的暑いエリアとそれに適した品種のワインであることが多いです。ナパ・ヴァレーで酸味がやや落ちるのは、収穫期のハングタイムを長く取り、糖度を高める(反面酸度は落ちる)ケースが多いためではないかと思います。

酸味が中程度

産地・品種以上に、あまり高くない品質のワインにありがちな酸度です。飲みやすかったとしても、満足ではない可能性が高く、勧めるべきではないでしょう。

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