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ウィンドシンセ基礎奏法02 - Bisキー活用のススメ

ウィンドシンセの奏法についての解説その2。運指にBisキーを使っていない方が結構いらっしゃるようなのですが、特に初心者ほど使ったほうが上達が早くなると思うので使ってみませんか、というお話です。
(注:EVI系運指の話は含まれません)


Bisキーとは

Bisキーは左手人差し指と中指の間の、細い(または小さい)キーです。
ウィンドシンセの始祖リリコンシリーズ、初代〜現行のEWIシリーズ、AE-5以上のAerophone、NuRAD、MWiC、旧機種ではYAMAHA WXシリーズ、EW-20、全てBisキーが装備されています。

左からNuRAD, EWI1000, EWIUSB, WX5, MWiC, Lyricon-1, ソプラノサックス 

サックスではBisキーを使った運指がごく普通に使われるため、サックスと持ち替えでウィンドシンセを吹く人(リリコン当時から事実上アマチュア・プロ奏者ともウィンドシンセプレイヤーの大多数)にとってはサックスで慣れたBisキーが無い、というのは有りえない仕様で、Bisキーを装備しないとウィンドコントローラーとしてはプロ層には門前払いとも言えましょう。
Bisキーが無い製品もありますが多くはリコーダーに寄せてとっつきやすさをアピールしているものになりますね。RolandがAE-1はBis無し、AE-5以上でBis有りとしているのがターゲット層の絞り込みを端的に表しているように思います。
リコーダーは日本人は義務教育で全員触れているので「簡単」と思いがちなのですがいざこれで「自分が吹いてみたい曲」をやろうとすると非常に難しいのではないでしょうか。理由はリコーダーでは音域が狭いことに加えて#、bといった半音音符の運指がややこしく物理的にも難しいからです。半音が含まれると一気に難しくなります。半音が含まれないドレミファソラシドだけで済む曲は問題ないですがそんな曲は少ないです(最近のJ-popは転調多いですし)。運指に関しては歴史的に管楽器の中でサックスが一番機能的に設計されており、リコーダーより簡単です。リコーダーは実は難しいのです!(加えて言えば、サックスの運指はフルートやクラリネットよりも機能的で簡単です)。
生サックスは初心者が音を出すまで障壁がありますが例えばEWI SOLOやAE-20は音源・スピーカーも内蔵で設定に大きく悩むことも無く、リコーダー同様吹けば誰でも音は鳴るので、半音が含まれる曲を吹きたいならサックスを意識した(つまりBisキーのある)ウィンドシンセが一番簡単な管楽器と言えます。

とまあ前置きが無駄に長くなりましたが、サックスあるいは管楽器未経験でウィンドシンセを始めた方には、リコーダーには装備されていない「運指が簡単になるための工夫」であるBisキーを備えたウィンドシンセを持っているにもかかわらずBisキーを使っていない方が結構いらっしゃるようなので、Bisキーを使わないともったいない、使ったほうが上達が早い(運指の壁を超えやすい)、ということをお伝えしたく本稿を書いてみます。

余談:サックスは近代(1846年)に発明された楽器で、フルート、クラリネットではオクターブキーを押しても単純に1オクターブあがるわけではない点を改善した機能的な楽器です。現代サックスの運指機構は更に近年、1954年のセルマー社シーソー式テーブルキー(マークVI)で完成された。(参考:菊池, 東京音楽大学大学院論文集 3-2 (2017) https://tokyo-ondai.repo.nii.ac.jp/records/1167

Bisキーを使おう

まずは動画を御覧ください

冒頭、日本ではウィンドシンセでこれを演奏したい方は多いと思われる曲の1フレーズです。「Bb(シb)」の運指のときにBisキーを使いましょうということですね。
Bb(=A#)の運指はEWI系マニュアルに記載されているものは下記の4つです。(よしめめ氏監修「ゼロからはじめるEWIスタードガイド」のWEBで無料公開されている運指表から引用)


無料公開されている https://www.alsoj.net/meets-ewi/magazine/view/969/3178.html から引用

上段が通常運指、下段が替え指運指とされていますが、Bbに普段使いで下段の運指を多用される方が結構いらっしゃるようです。フルートの場合は下段が普通なので既にフルートで充分速い運指ができる方はそれで問題無いと思いますが、サックスの場合は上段の2つの運指を使うのが普通で下段の替え指運指はあくまでも、特定のフレーズが上段ではどうしてもやりにくい場合の替え指として考えて使います。そしてフラット系の調ではBisキーを使用すると右手を動かす頻度が少なくスムーズになります。

Bisキーは特にフラット系の調に有効

一番わかりやすいのが、へ長調
ファ ソ ラ シb ド レ ミ ファ
ですね。シにフラット(b)がついています。Bisキーが無い場合、右手のサイドキーを使う必要がありますが、Bisキーを使えば左手人指し指でBisキーとその上のキーを一緒に押さえる(EWI系の場合は触れる)だけで右手のサイドキーは不要です。ヘ長調(Fメジャー)とか変ロ長調(Bbメジャー)とかBにフラットがついているキー(楽譜)を演奏するときは、基本的に常にBisキーとその上のキーを一緒に押さえる(触れる)ようにしましょう。

とは言え、1曲の中で転調があったり、調と関係なくBbまたはA#が出てくる、またはヘ長調なのにBが出てくることは普通なので、そういったときはBisキーをスムーズに離すことができるような慣れも必要です。
基本的なエチュードを考えてみました。

(クリックで拡大)

・メジャースケールの前半部分だけを半音ずつ移調して12key練習するエチュードです。この譜面を
  [1]全くタンギングしない(息を止めず指だけ動かす)
  [2]全てレガートタンギング(ごく短いタンギングを入れる)
の2通りで練習しましょう。
・メトロノームを使いながら練習し、テンポは自分ができる速さから始めて慣れるに従いだんだん速くしていきましょう。
・息が続かない場合は適当なところで休みを入れて息継ぎしてください。
あえて右手キーを使わず、Bisキーだけ使って練習します。5小節目(F#メジャー)ほか、Bb→BまたはB→Bbが出てくる箇所は人差し指をずらすorひねってBisキーを触れる/離す操作が必要になりますが、がんばって練習しましょう(曲の中では5小節目は右手キーを使ってA#を出すことが多いですが、ここではBisキーの練習としてあえてBisキーだけで行います)人差し指を「ずらす/ひねる」操作でBisキーを使えるようになるといろいろだいぶ楽になります。
・上の譜面をBisを全く使わないで吹くのは逆にかなり難しいと思います。

※レガートタンギングについては過去記事↓を参照https://note.com/windsynth/n/n79cb3f27d041

BisキーとBキーを一緒に押す(触れる)って?

押すといっても「押さえつける」必要はまったくありません。特にEWI、NuRAD、MWiCの場合は「触れて」いれば良いので、Bisキーの上のBキーの下半分に指を置きつつ、人差し指の下腹〜横の部分でBisキーに触れる感じで良いと思います。Bキーの窪みの真ん中にがっつり指を嵌めて押さえつけていたりするとBisキーに触れるのが難しくなるので、Bキーの下半分に指を置くイメージのほうが良いと思います。
最初の動画の、1:30以降のBisキー周辺の指の置き方や動きを良く見てみてください↓ Bisキーから離すときも「ちょっとずらす」または「人差し指を少しだけ上側にひねってBisから浮かす」程度で大丈夫です。

まとめ

ということで、一言でいうと、フラット系の曲では常にBisキーを押す(触れている)ようにすれば良い。そうすればそのうち慣れて、フラットがついている曲の難易度が下がります、ということですね。ざっくりしすぎてます?

なお、フルートに慣れている方などでBisを使わなくても既に充分速い運指ができるかたは無理にBisを使う必要はありませんし、初心者の方でもいままで練習して「この曲のこの部分はBisでは無い運指が身に染み付いていて変えられない」という場合は無理に変える必要は無いと思います。今から練習する部分でBisキーのほうが楽と思えるところがあればBisキーをどんどん使っていけばよろしいかと思います。

参考:達人はどうやってるのか

TRUTHをC管設定で吹くとメロディーにBbがいっぱい出てくるのでわかりやすいです。伊東さんも本田さんもメロディーは全てBisキーですね。宮崎さんはリリコンドライバをEb管で吹いてるのもあってよくわからない・・


同じくTRUTH、正面からなのでわかりやすい(スロー再生にすると一層)
荒川さんも本田さんもBis。 本田さんはソロ部分もほぼBis、一度だけ右手サイド(一番上の黒いキー)使っているかな? Bbの音はあまり出てこないけど、他の音吹くときもずっとBisに触れてますね。ソロ部分をtrascribeした動画も出てます(https://www.youtube.com/watch?v=jP7aGcoVF6s


アルコ・ビョーンさん、Bb管設定のNuRAD
フラット系の調ではないですが Bisキー触りっぱなしで吹いている箇所多いですね(触らないで吹いているところも多いですが)BbはBisで吹いていて、Bb→Bのとこは人指し指スライドorちょっと上に回転で離してるように見えます


フルート/EWIプレイヤー坂上さん動画、 C管設定EWI5000、真ん中のメロディーパートを見ていくとBbはフルートと同じ左B + 右人差し指での運指。
フルートがメインの方の場合Bis使わなくても素晴らしいという例ですね



謝辞

本稿作成にあたりyoutubeおよびXのPostへの返信等でご意見・ご知見いただいた@take_saxさん、@ixyoshikiさん、@ewi_wotaさんに感謝いたしますhttps://twitter.com/m_kirino/status/1786437245467275718
https://twitter.com/m_kirino/status/1785315888432034109
https://twitter.com/ewi_wota/status/1785446128126742642


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